アメリカの大学院で学ぶ音楽

アメリカの大学院で学べる音楽の分野は多岐にわたっていますが、総じていえることは、音楽全般を幅広く学ぶのではなく、演奏の場合は、特定の楽器の特定のスタイルを学ぶなど、「狭く深く」学ぶこと。また音楽教育やミュージックセラピーといった、キャリアとの結びつきが強い内容を学ぶことも、大学に比べて顕著な特徴です。

大学での専攻が音楽であることは必ずしも必須条件ではありませんが、それを望ましいとしている大学院はけっこうあります。また音楽を大学で専攻していなかったとしても、音楽の科目をいくつかとっていることは評価されます。いずれにしても出願に際してはオーディションが課されるのが普通です。

修士課程

修士課程は、1~2年の課程で、四年制大学を卒業している人が学びます。大学を卒業して年月が経っていても、それがマイナスになることはありません。アメリカでは大学を卒業してすぐに修士課程に進む人もいますが、いったん社会に出て、数年の後に大学院に進学するという人がたくさんいます。

修士課程で学ぶ音楽の課程は、

  • 実技(演奏や歌唱など)
  • 理論、作曲、音楽史、音楽学
  • 音楽教育学、ミュージックセラピー
  • 音楽ビジネス
  • デジタル音楽、レコーディング技術

これらの分野に大きく分類できます。理論か実践のいずれかにより重きが置かれていますが、理論を重視する課程であっても、実技が必須となっていることはめずらしくありません。また「指揮」などは大学よりも大学院のほうでよく学ばれる分野ですが、これは実技と理論の両方をしっかり学習します。

博士課程

博士課程で音楽を学ぶ人は、その多くが、理論や音楽史など、音楽を研究対象として学んでいます。とはいえ楽器を弾けることが重視されないわけでもありません。すぐれた演奏家でありながら博士課程を修めようという志の高い人は少なくありません。英語以外のヨーロッパ言語が必須となっていたり、レジデンスという住込みの実習が求められていたりします。課程を終えるために、大学卒業後7年以内、修士課程修了後6年以内という期限が設けられているのが普通ですが、その期限内に課程を修めることができずに、延長の申請をする学生もたくさんいるようです。

大学院で音楽を学んで得られる学位

アメリカの大学院の修士課程で音楽を学んで得られる学位は、だいたい以下のうちのいずれかになります。

  • Master of Arts(MA)
  • Master of Music(MM)
  • Master of Fine Arts(MFA)

このうちMAは、音楽に限らず文系一般の分野で得られる学位です。MAの課程の特徴は、音楽の専門性を求めるのではなく、教養・学問としての音楽の教育をめざすところにあります。学べる科目の内容も多岐にわたります。学際的に音楽を学ぶのがMAの課程です。

MMは、MAに比べて音楽の専門性が高いのが特徴で、とくに演奏系の課程では、このMMが授与されます。

MFAの課程では、音楽を芸術として位置づけています。音楽だけ、ということではありませんが、MAよりは専門性が高く、必修科目が多いのが特徴です。

ほかにも、音楽教育学の課程ではMaster of Music Education(MMEd)、ミュージックセラピーの場合はMaster of Music Therapy(MMT)という学位を得ることもあります。

博士課程では、多くの場合Doctor of Philosophy(Ph.D.)という学位を得ます。これは音楽だけでなくさまざまな分野で得られる学位です。またより実践的な要素が強い課程では、Doctor of Music Arts(DMA)という学位を得る場合もあります。

オーディションについて

アメリカの大学院で音楽を学びたい場合、出願にあたってオーディションの受験が求められるのが一般的です。とくに演奏や歌唱など、実技が伴う課程をめざす際には必ずといっていいほどオーディションが課されますが、理論中心の課程であってもオーディションが必須になることはめずらしくありません。

オーディションのレパートリーは、大学院のそれぞれの課程によって指定される場合と、自由に曲を選んでよい場合とがあります。また同じ「演奏(Performance)」の課程の中でも、楽器によってレパートリーが異なります。

オーディションはその大学院のキャンパスに赴いて受けるのが原則ですが、留学生の場合は、そのためだけに渡米するのはなかなかたいへんですので、レパートリー曲を録音・録画したメディア(CDやDVDなど)を送付したり、大学院に指定されたURLに曲のデータをアップロードしたり、またSkypeによるオーディションを受けたりすることが一般的です。

とくにMMの課程は、オーディションの成果を合否判定の最重要項目としています。大学院のほうで伴奏者を用意していて、彼らとのアンサンブルによる演奏を課している場合もあります。また初見能力を見るために、その場で課題曲が指定されることもあります。このような理由からも、オーディションはやはり実地で受けることが望ましいといえます。とはいえほとんどのアメリカの大学院は留学生を歓迎しますので、地理的な理由でオーディションを受けられない場合の考慮は前向きにしてくれるでしょう。

オーディションでは特定のジャンルや流派、時代の楽曲が課題曲として指定されることがありますが、このことは、その課程がそうしたジャンルや流派にとくに力を注いでいる、あるいはそれらを教える指導態勢が整っていることを予想できます。複数の課程のオーディションのレパートリーを比較することで、それぞれの課程の特徴が見えてくるでしょう。

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