日本の高校を卒業して、海外の大学に進学するのが「大学留学」です。語学留学やホームステイと違って、大学生としてその国の学生と机を並べて勉強し、留学先の大学を卒業します。留学期間も長い(通常は4年間)ので、それだけお金もかかりますし、覚悟も必要です。
留学先として人気の国は、留学の種類によって異なります。たとえば短期留学ではアジアの国が人気ですし、ワーキングホリデーであればカナダやオーストラリアが人気です。大学留学となると、アメリカがダントツで1番人気です。大学が4,000校もあって、選択肢の幅が広いのが1つの理由です。ハーバードやスタンフォードなど日本でもよく知られた大学もたくさんあります。そこでこのページでは、とくにアメリカの大学への留学について詳しく解説します。
代表的な「留学」の種類 | ||
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留学の種類 | 内容 | おもな期間 |
大学留学 | その国の大学に入学(編入)して卒業する。 | 2〜4年 |
交換留学 | 日本の大学が協定を結んでいる海外の大学で学ぶ。 | 数週間〜1年 |
語学留学 | その国の言語を語学学校で学ぶ。 | 数週間〜1年 |
ホームステイ | その国の家庭に滞在する。 | 数日〜数か月 |
ワーキングホリデー | その国で働きながら滞在できる(働かなくてもいい)。 | 1〜3年 |
もくじ
- 1.アメリカの大学に進学する方法
- 2.大学留学に必要な英語力
- 3.大学の選びかた
- 4.留学費用と節約方法
- 5.留学生を対象とした奨学金
- 6.大学留学に必要な学生ビザとは?
- 7.交換留学と大学留学の違い
- 8.留学すると就職に不利になる?
- 9.大学留学のメリットとデメリット
- 10.どんな人が大学留学に向いているのか
アメリカの大学に進学する方法
日本の高校を卒業していれば、アメリカの大学に1年生として入学できます。3月に高校を卒業し、その年の9月に入学するのが、大学留学の最短ルートです。その次の入学のタイミングは翌年の1月です。
アメリカの大学には一斉の入試がありません。それぞれの大学が設けている出願期限までに出願書類を提出して、審査を受けます。期限は大学によって異なりますが、だいたい1〜3月くらいです。
提出が必要な書類は(これも大学によっていくらか異なりますが)以下の通りです。
- 高校の3年間の成績
- エッセー(自己アピールの作文)
- 高校の先生からの推薦状(2通)
- 英語テスト(IELTS™やDuolingo、TOEFL®テストなど)のスコア
アメリカの大学はこれらさまざまな書類を総合的に評価して合否を決めます。このうち最も重視されるのは成績です。高校3年間のすべての科目の成績が評価対象になります。ですからアメリカの大学への留学を考えている人は、美術や体育などの副教科にも手を抜かずに、まずは在学校でいい成績をとるようにしましょう。5段階の評定平均で3以上はほしいところです。
大学留学の準備にかかる時間
これらの書類をそろえるためには、それなりの時間がかかります。エッセーは何度も書き直して、完成度を高めていくことになりますし、推薦状も、先生に依頼して書いていただき英訳する、というプロセスに一定の時間がかかります。志望校選びにもしっかり時間をかけたいものです。このようなことを考えると、入学する半年〜1年前くらいには留学準備を始めるといいでしょう。高3の夏休みくらいまでにスタートできると理想的です。
大学留学に必要な英語力
留学というと「英語ができないとダメなのでは?」と思われがちです。
英語はできるに越したことはありません。でも、アメリカの大学では英語「を」学ぶわけではありません。英語「で」歴史や哲学、心理学や経済学を学ぶわけです。アートや数学など、英語力がそんなに問題にならない科目もあります。
ですから、留学するのに「英語が得意」である必要はありません。IELTS™などのテストを必死になって勉強する必要もありません(学校の成績のほうがよっぽど大切です)。英検準2級くらいの英語力があれば、アメリカの大学でもどうにかやっていけます。
また、現地の語学学校で英語力を上げてから大学に入ろうという人もいます。しかし、語学学校ではなかなか英語力が身につきません。受講生はみんな(アメリカ人から見て)外国人ですし、英語を使わなくても日常生活に困ることはそんなにありません。大学留学のために語学学校を経由するのは、時間的にも金銭的にも、もったいないことです。
大学の選びかた
アメリカには4,000校以上の大学があります。その中から自分に合った大学を探し出すのはかなり大変です。アメリカの大学には偏差値もありませんから、大学選びの基準からして、日本とは異なります。
それでも、いくつかの手がかりがあります。たとえば
- 大学の規模(学生数)
- 大学のエリアや立地
- 大学の種類(総合大学/リベラルアーツ・カレッジ/コミュニティ・カレッジetc.)
- 学費
- 寮の有無や入寮率
- 学生の人種構成や留学生の割合
- 入学要件
- カリキュラム
このようなデータは、たとえば私たち栄 陽子留学研究所が運営しているアメリカ大学ランキングで全米の大学のデータが見られますし、英語のサイトではThe College BoardやThe Princeton Reviewなどでも確認できます。
大学選びは、留学エージェント任せにしないこと
とはいえ、これだけで志望校を決めるべきではありません。本当は実際にキャンパスを訪問できればいいのですが、そのために渡米するのも大変です。そのため、やはりプロのアドバイスを受けながら絞り込んでいくのが適切です。チャレンジ校・実力相応校・すべり止め校の3つのグループに分けて、あわせて5〜7校くらいに願書を出して、複数の大学から合格をもらい、さらに比較検討して入学校を決める、というのが一般的なプロセスです。
大学選びにあたっては、いわゆる留学エージェントの「提携校」に進学先を限定すべきではありません。短期留学ではそれでもかまいませんが、やはり大学生として入学し、数年かけて卒業をめざすわけですから、全米の大学の中から、自分自身の判断で、自分に最もふさわしい進学先を選び出すのが本筋です。
留学費用と節約方法
大学留学の最大のハードル、それが留学費用です。アメリカの大学の学費はどんどん値上がりしていて、多くの留学希望者を悩ませています。これに最近の円安が追い打ちをかけている状況です。
ハーバード大学(私立)の2022年度の学費は約53,000ドルです。日本人に人気のUCLA(州立)が約47,000ドル、学費が安いとされるパデュー大学(州立)でも30,000ドルは下りません。
留学にかかる費用は学費だけではありません。寮・食費、おこづかい、渡航費、保険などにもお金がかかります。結果として、どれだけ安く見積もっても、年間に300〜400万円くらいの負担は覚悟しなければなりません。
要注意!「安いからコミュニティ・カレッジ」
できるだけ「安く」留学しようという場合、まず考えられるのが、学費が安い大学を選ぶこと。ただし、学費と教育の質は相関関係にあるので、学費が安い大学ほど教育の質が悪くなる傾向があります。
とくにコミュニティ・カレッジ(公立の二年制大学)は地域住民のために学費を安く設定していますが、高校を卒業していればだれでも入学できるので、レベルが低いのが当たり前です(そもそも「レベルが存在しない」というほうがより正確です)。また寮を備えていないので、住居や通学のために思わぬお金がかかります。安かろう悪かろう、では、せっかくの留学経験が台無しです。
またコミュニティ・カレッジから四年制大学に編入することは可能ですが、実際には、コミュニティ・カレッジの学生のうち四年制大学の学位をとるのは7人に1人に過ぎません。編入の際に単位が減る場合もよくあることですので、やはり注意が必要です。
費用節約の裏ワザ。放送大学から編入留学
留学費用を節約する方法はいろいろありますが、「放送大学の単位を移行して留学期間を短くする」というのはなかなか有効です。
放送大学の科目は15歳から履修できます。日本の高校を卒業する時点で、大学2年分の単位を取得することも不可能ではありません。それをアメリカの大学に移行して「編入」すれば、2年で(つまり20歳くらいで)アメリカの四大を卒業できることになります。留学期間が短くなれば、それだけ費用も安くなります。
このような「編入」制度の活用によって、留学費用を大幅に節約できます。アメリカの大学に移行できる単位はだいたい60単位(2年分)が上限ですが、30単位でも移行できれば、4年の留学期間が3年になるわけですから、1年分の費用を節約できるわけです。
また、日本の高校を卒業してすぐにアメリカの大学に行くのがむずかしければ、いったん日本の大学に進学して、2年次または3年次にアメリカの大学に単位を移行して編入する、という方法もあります。日米両方の大学を経験する、というのも悪いことではありません。
留学生を対象とした奨学金
アメリカの大学は、留学生にも奨学金を出してくれます。しかも返済不要(給付型)のものです。「奨学金」というよりも「学費の減免(ディスカウント)」というほうが、実態に近いかもしれません。
また日本の財団なども、留学希望者に給付型の奨学金を出しているところがあります。グルー・バンクロフト基金や柳井正財団などです。狭き門にはなりますが、チャレンジする価値はあります。自治体が留学にかかる費用を補助してくれる場合もあります。自分が住んでいる自治体の情報をチェックしてみるといいでしょう。
アメリカの大学からもらえる奨学金の額は、合格通知とともに提示されます。年間5,000ドルとか、まれに全額免除という快挙をとげる人もいます。出願書類を通じて、いかに自分が魅力的な人物であるかを大学にアピールすることが大切です。エッセーの内容が奨学金の額に影響することもあります。アメリカの大学からもらえる奨学金について詳しくはこのページを参照してください。
大学留学に必要な学生ビザとは?
アメリカの大学で学生として学ぶためには、「学生ビザ(Fビザ)」を取得しなければなりません。これは、アメリカには「勉学」を目的として滞在するのであって、働く目的ではない、そして移住するつもりもない、ことを条件として発行されるものです。
ビザの申請先は、アメリカ大使館の領事部です。入学校が決まって、その大学からI-20と呼ばれる書類をもらってから申請します。きちんと手続を踏めば、とくに問題なくビザを発行してくれるはずです。詳しくはこのページを確認してください。
さて、留学生は勉学を目的として学生ビザを取得してアメリカに滞在するので、原則的にアルバイトはできません。また1学期に12単位以上(二学期制の場合)取得しないとビザが失効してしまいますので、いやでも勉強中心の生活を送ることになります。
なお大学を卒業後は、1年間は学生ビザのままでアメリカでインターンとして働ける制度(OPT)があります(理工系の専攻は3年間)。この間に、アメリカで就職先を見つけられるかもしれません。なおアメリカで働くためには、就労ビザ(Hビザ)が必要になります。
交換留学と大学留学の違い
交換留学は、日本の大学生が、その大学が学術交流協定を結んでいる海外の大学で学ぶ留学のことをいいます。あくまでも日本の大学に籍を残したままで留学するもので、期間は半年から1年くらいがメインです。「派遣留学」という呼びかたをしている大学もあります。
日本の多くの大学が、交換留学プログラムを設けています。留学先の大学の単位を持ち帰ったり、プログラムによっては留学先の大学と日本の大学の両方を卒業できるものもあります。語学を中心に学ぶプログラムもあって、その内容はさまざまです。
交換留学プログラムに参加するには、まず日本の大学での学内選考を通過しなければなりません。その上で、留学先の大学からの審査を受けます。選考基準は英語力や成績、作文などです。
基本的には短期(半年から1年)のものが多いので、「大学留学」とはまったく異なります。大学留学のほうは、より期間が長く、アメリカの大学生活にどっぷり浸かることになりますので、勉強量や緊張度がはるかに大きくなります。
短期であっても留学はきっといい経験になりますが、より本格的な留学にチャレンジしたいのであれば、交換留学よりも大学留学のほうが向いているといえるでしょう。
留学すると就職に不利になる?
日本の大学生の多くは、3年生から就職活動を始めます。アメリカの大学に留学してしまうと、この「就活」に加われないので就職が不利になるのではないか? と思っている人もいます。
実際はこの正反対です。外資系企業はもちろん、日本の企業も、アメリカの大学を卒業した人材を求めていますし、通年採用も当たり前になっています。
とくにボストン・キャリアフォーラムと呼ばれる、バイリンガルを対象とした就活イベントでは、200以上の企業がブースを設けて、その場で内定を出してくれます(俗に「3日で内定がもらえるイベント」とも言われます)。楽天やAmazon、外務省などもこのフォーラムに参加しています。
留学生が就職に不利ということはありません。むしろ日本の大学生よりも、よっぽど有利です。英語力はもちろん、4年間みっちり勉強していますし、さらにコミュニケーション能力や発想力、行動力や国際センスも身につけているわけですから、こんな魅力的な人材を、企業が欲しがらないわけがありません。
そもそも日本の大学生の就職活動は、世界的に見てもきわめてめずらしい現象です。このシステムもいずれ崩壊するだろうと予測している識者も少なくありません。留学するのに就職の心配はまったく不要といえるでしょう。
大学留学のメリットとデメリット
大学留学のメリットはたくさんあります。英語はかなり高いレベルで使えるようになりますし、多様な価値観を認め、受け入れる視野も養われます。人脈は世界に広がりますし、何よりも自分自身に対するゆるぎない自信が身につきます。
これからの世界は、1つの国だけで解決できない課題にどんどん直面します。環境、食料、 エネルギー、宇宙開発、AIなど、いずれも世界規模で考えなければなりません。
アメリカの大学には世界中から留学生が集まります。キャンパスは、さながら世界の縮図です。授業ではつねに自分の意見が求められ、クラスメートとのディスカッションが頻繁に行われます。このような環境で4年間を過ごすわけですから、世界を舞台に活躍できる素地がしっかり育まれることになります。
一方でデメリットといえば、やはりお金がかかることです。学費の高騰、アメリカのインフレ、円安など、お金という面ではなかなか厳しい状況が続いています。
食べ物も、留学生にはストレスです。おいしくてバラエティ豊かな日本の食事に慣れているので、単調なアメリカの食事はどうしても不満の種になります。最近はアメリカの大学の学食も工夫しているので、昔ほど単調ではなくなっていますが、それでも毎日のことですから、ちょっと辛いという気持ちはわかります。
どんな人が大学留学に向いているのか
アメリカの大学に留学する理由は、人によってさまざまです。でも共通しているのは、「自分にチャレンジしたい」という思いです。あえて厳しい環境に身を置くことで、自分自身が大きく成長できるのではないか、と期待するわけです。
したがって、このような思いをちょっとでも抱いているのであれば、大学留学に向いています。
みんな一斉に同じことをしなければならない日本の教育に疑問をもっている、せっかくの大学4年間を遊んだりバイトしたりで過ごしたくない、といった人も、海外の大学は魅力的な選択肢になるでしょう。
日本では周囲からの目が気になって自分らしさを見失っていたけれど、自分のことをだれも知らない環境に飛び込んで、ゼロから個性を伸ばしていきたい、という人もいます。生きかたを変えたい、というのも立派な留学の動機になりますし、そんな気持ちをフト抱いた、というだけで大学留学への適性は十分にあります。
・・・長いコロナ禍からようやく抜け出しつつある昨今、大学留学への関心もまた高まっています。海外の大学を、進路の選択肢の1つとして前向きに考えてみようという高校生や親御さんも増えています。留学はもはや特殊な進路ではありません。ぜひ日本を飛び出して、厳しくも充実した環境で、かけがえのない青春の時期を送ってほしいと思います。