TOEFL®テストがセンター試験の代わりになるってホント?
TOEFL®テスト(※)が、2020年度から日本の大学入試で、英語能力を示すテストとして認められるかもしれないというお話。
文科省による大学入試改革の一環で、センター試験だけでなく、英検やTOEFL®テストといった民間試験のスコアも認めましょうということらしいです。
※TOEFL®テスト:英語を母語としない人を対象とした英語能力テスト。Test of English as a Foreign Languageの略。非営利教育団体のETS(Educational Testing Service)が実施・運営する。
申込そのものがむずかしいTOEFL®テスト
こういう提案をする人は、いったい自分でTOEFL®テストを受けた経験があるのかと疑問に思います。
だいたい普通の人は、TOEFL®テストの受験を申し込む時点でつまずいてしまいます。
申込はオンライン、英語でしなければなりません。
受験料は235ドルで、アメリカに送金する必要があります。
クレジットカードを持っていればいいのですが、17、18歳の子は持っていないでしょう。
試験当日、会場に入るには、英語の名前・写真・署名が載っている公式の証明書が必要です。
一番いいのはパスポートですが、やはり17、18歳でパスポートを持っている子も少ないでしょう。
235ドルの受験料もとても高いです。
TOEFL®テスト受験者が減っている?
そもそも、TOEFL®テストを受ける人が、いま世界的に少なくなっています。
そのためか、TOEFL®テストを運営するETSは、最近の受験者数を公表していません。
かつて受験者の数を公表していた頃のことですが、中国の受験者数がうなぎのぼりに増えていた時期がありました。
そして、さまざまなカンニングも行われました。
替え玉受験だとか、携帯電話で解答を撮影して別の会場の受験生に送るだとか。
まぁ、あらゆることをするので、ETSはカンニングのできないように工夫をしたのです。
一つは、入場の際の本人確認を厳しくすること。もう一つが、インターネット版のテスト(TOEFL iBT®テスト)です。
このインターネット版のテストでは、同じ試験会場でも一人ひとり問題が違います。
また開始時間も人によってまちまちなので、シーンとした会場で、だれかが突然スピーキングを始めたりします。
本人も緊張、周りもビックリということになるのです。
しかも試験時間は4時間にもなるんですよ。
TOEFL®テストのライバル
TOEFL®テストを受けるのをあきらめる人がどんどん出てきて、アメリカの大学もTOEFL®テスト以外の英語能力テストを認めるようになりました。
その代表的なものがIELTS™(アイエルツ)です。
TOEFL®テストはアメリカのETSが実施していますが、IELTS™はイギリスのブリティッシュカウンシル(イギリスの公的国際交流機関)が運営しています。
テストを受けるのにパスポートが必要になるのは同じですが、申込は日本語でできて、わかりやすい解説もついています。
じつは当研究所でも、英検やTOEIC®テスト、センター試験のスコアはまずまずなのに、TOEFL®テストを受けるとヒドい点数をとるという留学希望者が続出して、でもIELTS™を受けるとよいスコアが出るという傾向が強くなってきたのです。
少なくとも日本人にとってはIELTS™のほうが受けやすいことはたしかです。
「TOEFL®テストはアメリカ英語で、IELTS™はイギリス英語だから、問われる能力が違うんでは、、、、」なんて言う人がいますが、そもそもイギリス英語とアメリカ英語をはっきり使い分けられるくらいの人は、こんなテストは受けるワケじゃないですか。
そんな人は仮にどっちを受けてもほぼ満点、英語が母国語レベル並みになってからのお話です。
TOEFL®テストが入学試験という誤解
さて、当研究所にカウンセリングに来る人の中には、すでにTOEFL®テストを何回か受けて、お金をたくさんつかってズタズタになっている人もいます。
「アメリカ留学といえばTOEFL®テスト」というのがインプットされてしまって、TOEFL®テストがアメリカの大学の入学試験だと思っている人までいる始末です。
コミュニティ・カレッジ(公立二年制大学)のように学力を問わない門戸の広い学校であれば、TOEFL®テストのみが入学審査の対象になるですが、アメリカの大学は基本的に学力を重視しますから、最も大切なのはこれまでの学校(高校や大学など)の成績で、英語力はその次です。
毎年、春になると、日本の大学受験に失敗したという人が留学相談に来ます。
彼らに共通しているのは、TOEFL®テストのスコアが高くて、高校や大学の成績が悪い。
受験のためだけの勉強に専念して、他の教科や学校の成績を一切気にしてこなかったからです。
そして、TOEFL®テストはなかなか高得点をとれているので、アメリカのトップ校に入れるという思い込みをもっている場合がよくあります。
私が「外国人が日本語を上手に読み書きできるだけで、東大に入れるわけではないでしょう?」と言っても、やっぱりTOEFL®テストが一番大切という思い込みからなかなか抜け出せないのでしょう。
TOEFL®テストでさらなる高得点をとるために塾に行ったり、何回も受けたりして、たくさんのお金や時間をつかっています。
「受験英語」はこれからどうなる?
このような実情を理解して、日本の文科省が、民間のテストを認めると言っているとは思えません。
何か目先の変わったことをするために、その辺のテストをもってきたようにも見えます。
「お受験」はすさまじい勢いで日本中のお母さんを巻き込んで、まるで新興宗教のようです。
このようないろいろなテストが出てくると、お受験に振り回されているお母さんたちは、もう気が狂っちゃうんじゃないかしら。
こわいねぇ。。。
※写真は政治家を志す青年とオフィスで。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。