スポーツ留学を本気で目指す学生に必要な覚悟と現実

スポーツ留学の大前提はシーズン制と学業優先

アメリカは誰もが知るスポーツのメッカ。野球やバスケットボール、アメフト、アイスホッケー、サッカーなど、ありとあらゆるスポーツが盛んで、大学レベルの学生リーグですら日本のプロリーグ以上の人気と規模を誇っています。

そんなアメリカに野球をやることが目的で留学したいという学生が多くいます。彼らの目的はもちろん野球が上手くなること、アメリカの大学で一年中、集中して野球をしたいのです。

しかし実際のところ、アメリカの大学は季節ごとに競技種目が変わってしまうシーズン制をとっていて、1年の中で野球のシーズンは4か月くらいです。そしてこのシーズン以外は野球をしませんし、練習もしません。自主トレーニングか他のスポーツをします。

そして、大学生は1週間に20時間以上練習してはならない、ということになっています。要するに大学生は学業優先ということがハッキリしているのです。成績が悪いと「レッドシャツ」という赤シャツを着させられて、試合に出ることもできません。日本とは考え方が根本的に違います。

留学生に人気のアスレチックトレーナー

また、プレイヤーとしての留学ではなく、アスレチックトレーナーを目指すという方も多くいます。そもそも日本ではアスレチックトレーナーになるための公的な資格がありません。現状では鍼灸やマッサージなどの職業から派生で見られる仕事です。しかし、アメリカでは国家資格になっていて、難易度の高い分野なのです。

アスレチックトレーナーになりたいという人の多くのきっかけは、何かしらのスポーツをやっていて怪我をしたというものです。自分はもう選手としてはダメだけれど大好きなスポーツに係わっていたいと考えるケースや、怪我をした時に対処してくれたアスレチックトレーナーに感動したのか、どちらかです。

複雑な選考プロセス

このアスレチックトレーニングの分野はちょっと難解な仕組みになっていて、すんなりとはいきません。まず、1年間の学業を修了したころでアスレチックトレーナーの資格を持っている先生が、今後トレーナーになるための実地訓練を指導する学生を指名します。このプロセスを一般に「セレクション」といいます。

そしてこのセレクションでは大抵の場合、その指導を受けたいと思っている人と、先生が指名する数に違いが生じます。

すなわち、その時点で指名を受けられなかった学生は訓練を受けることができません。訓練を受けることができなければ、国家試験を受けられません。したがってアスレチックトレーナーになることが出来ません。

留学してもアスレチックトレーナーになれない?

訓練を受けられないとわかった時点で、専攻を他のものに変えることは可能です。たとえば、体育学やスポーツビジネスといったような専攻に変えることができますし、まったく違うコンピュータや心理学、アートに変えてもかまいません。

しかし、アスレチックトレーナーの国家資格を得たいと思って渡米した留学生に、これはなかなかキツイ話です。何しろ、渡米して入学して1年経ってから、「えぇーっ!!?」となる可能性があるわけです。

そもそも日本でアスレチックトレーナーになるつもりであるのであれば、特に資格は必要無いのです。心の底からアスレチックトレーナーになりたいのなら、日本の大学のそれに相当する学科に行くか(※少数ではありますが)、専門学校や鍼灸の学校に行ったほうが、学校や先輩の紹介もあると思われますので、仕事を探すには良いのではという考え方もあります。

どっちが重要?アスレチックトレーナーになる vs 留学する

さてさて、かくして留学を志す学生は17~8歳の若さでアスレチックトレーナーになることが人生一番の重大事なのか、アメリカ留学することがまず一番重要なことなのかを決めなければなりません。

セレクションに合格するためには、それまでの成績が良いことが条件です。またテストや教授の推薦状、面接などが課される場合もあります。それに加えて志願者があまりにも多い場合は、当たり前のことですが先生の直感や感情が影響してきます。したがって、その先生と合う・合わないとか、運・不運にとても左右されるのです。

選ばれるチャンスは1回きりです。2回目はありません。日本で鍼灸の資格を取ってから留学し、そのことをアピール材料にしたら「そんな色のついた人はいらない」と言われて落とされたという噂すらあるのです。

もちろん米国のアスレチックトレーナーは難しいだけあって、人気で収入も平均以上。狭き門を潜り抜ければ、世界的に有名なスポーツ選手と仕事をすることだって夢ではありません。

でも「アスレチックトレーナー」になるためだけが留学の目的であれば、厳しい現実に打ち勝つ努力と度胸、そして失敗してもかまわないという覚悟が必要。

なんとも重い決断ではないでしょうか。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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