トランプ政権による留学生ビザ停止について
学生ビザの新規受け付け停止
アメリカ留学の話となると、今はビザの話を抜きに語れません。
アメリカ留学のためのF-1というビザの申請のための面接は、いまだに受け付けが止まったままです。
「トランプさんはもうビザの申請のことなんか忘れてしまっているのかしら」と思ってしまいます。
イスラエルとガザの問題だけでなく、今やイランとまで軍事衝突が始まっていて、世界中がめちゃくちゃになりそうな事態が起きているのに、たかが留学生のビザと思われているのかもしれないのです。
生きるか死ぬか、国土がなくなるか、という大問題に対して、留学が半年や1年延びたからといってどうってことないと言われればそれまでなのです。
しかし、留学の準備をしてきた各個人にとっては大事な問題なのです。
大学1年生で留学する人は、もう高校を卒業しているので、今はどこにも属さずアルバイトなどをしながら渡米の時を待っています。
こんなことなら日本の大学に入学しておけばよかったと思う人もいるでしょう。
何しろ日本人は、どこにも所属していないということに対して、とても居心地の悪さを感じる人間ですから。
当研究所の生徒たちの現状
栄陽子留学研究所の2025年9月入学の人たちの3分の1は、すでにビザを取得しました。
アメリカ大使館の窓口が閉まると言われた日から3日間はまだ空いていたので、駆け込みをした人もいます。
ビザを取得した人たちは、サマープログラムからスタートするために渡米する人たちです。
つまり、英語力に自信がなかったり、早めにアメリカで足慣らしをしておこうと考えた人たちです。
一方、「9月入学なのだから」とビザ申請はまだ先で大丈夫とどっしり構えていた人たちが、足止めをくらったということになります。
トランプさんは毎日のように考えが変わるようで、言うことも極端から極端に変わるので、予想することはまったくできません。
ただただ淡々と待つのみです。
アメリカの大学はオンラインの授業が得意ですから、「もしビザが下りないことになっても9月からオンラインで授業を受けられますよ」と言ってくるかもしれませんが、初めてアメリカの大学に入学する人がオンラインで授業を受けるのは、とても難しいと思います。
アメリカの大学では、もう夏休みになっていますので、在学中の人たちがたくさん日本に一時帰国しています。
ボストンあたりに留学している人たちは、昨今のいろいろな気配を身近に感じているので、用心して帰国しなかったり、ハワイなどにアメリカ国内旅行したりしています。
その点、アイオワ州やカンザス州などの田舎の大学の人たちは、あまりピンときていない人も多く、のん気にしています。
なぜトランプ人気が続くのか
こんなひどいことをするトランプさんですが、アメリカでは彼のファンが多いのです。
もともと広大なアメリカでは、みんながニューヨーク・タイムズを読んでいるわけではありません。
私が大学院時代にいたミシガン州のMt. Pleasantという町にも、その地方の新聞があって、ほんの少しの国の大ニュースと、あとはどこの誰が婚約したとか結婚したとか、それにスーパーの割引券がいっぱいついていました。
お手伝いさん募集などのローカルの求人も載っていました。
テレビもローカルなものがいっぱいあって、そもそも当時もケーブルテレビでしたから、契約していくつかのチャンネルを観ていました。
日本のように、NHKは有料でも黙って払う、民放はコマーシャルがあるので無料、というのとはまったく違い、今の日本の衛星放送みたいな方式です。
今は保守系の放送局や、トランプさんばかり擁護する放送局もあり、みんな自分に合ったものを選んでチャンネル契約をしています。
そこでトランプさんの良いところばかり強調されるため、すっかりトランプびいきなのです。
SNSも、アルゴリズムとやらがその人の好みを割り出して記事を出してくるので、ある一方の方向に引っ張られがちです。
しかも、強い言葉やはっきりとした意見などに人間は親しみを覚えがちなので、自ずとどちらかに傾いてきます。
アメリカの国が二分しているというのは、SNSやAIなど、アメリカが生んだ人間をより楽にさせ、より結びつきを簡単にするためのツールが、分断を引き起こしているということになります。
生活が便利になればなるほど、どこかで人間の心の奥底の声みたいなものが出てきて、それもネガティブな恨みや憎しみのようなものの方がより強く出てくるようで、悲しいことです。
こういう問題はアメリカだけでなく、日本でも同じです。
オーストラリアがSNSを使うのに年齢制限をするなど、人間の知恵を働かせています。
分断の時こそ、いろいろな人が友だちになるのはとても大切なことで、留学生たちがその役を担うのはますます重要になります。
ビザ発給を願うばかりです。
※2025年6月18日の報道で、新規受け付けを再開する見通しと報じられています。
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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。