資格で「食える」時代の終焉ー米国ロースクールの現実ー

ロースクールへの留学

アメリカのロースクール(法科大学院)に留学したいという相談がたまにあります。

日本で司法試験をパスしていて、さらにアメリカの弁護士の資格もとりたいという場合はいいのですが、日本の司法試験にパスしていなくて、アメリカのロースクールに行きたいという相談のほうが多いのです。

こういった相談は、だいたい、親や周りが「資格、資格」と騒いでいるケースです。

そもそもアメリカの弁護士は国ではなく、州の資格ですので「アメリカの州の資格をとってどうする」と思いますが、「アメリカの弁護士の資格をもっていることが、それなりに就職に有利になる」という主張です。

ロースクールの2つの課程

アメリカのロースクールは大学院の課程で、卒業後にBar Examという日本の国家試験にあたるものを受けます。この試験は年に2回、2月と7月に受験することができます。

そして、ロースクールの課程は大きく2つに分けられます。

一つはJDという課程で、これに入学するにはLSAT®(エルサット)という全米共通のテストを受けなければなりません。

これはとても手ごわいテストで、「TOEFL®スコアがそこそこ高い」なんていうレベルではとても太刀打ちできません。

もう一つはLLMという課程で、アメリカ以外の大学の法学部出身者に門戸を開いているものです。入学するのにLSAT®を受ける必要はなく、かつ1年で卒業することができます。

すべてのロースクールがLLMを設けているわけではありませんが、ニューヨーク大学やボストン大学など有名大学にはけっこうあります。

日本でアメリカの弁護士の資格をもっている人の多くは、このLLMの課程で学んでいます。

ただ、日本がアメリカにならって法科大学院を設けるようになってからは、日本の大学の法学部を卒業しただけではLLMへの入学が認められないという傾向も強くなっています。

訴訟大国アメリカに異変?

さて、前置きが長くなってしまいましたが、カリフォルニア州のウィッティア・カレッジのロースクール(Whittier Law School)が閉鎖して、キャンパスを売りに出したというニュースが入ってきました。

ウィッティア・カレッジは有名なリベラルアーツ・カレッジで、ニクソン大統領の出た大学です。

そもそもリベラルアーツ・カレッジがロースクールを設けるのはめずらしいのですが、閉鎖の一因として、ロースクールをめざす人が全米的に減っていることが挙げられます。

昨今、日本でも司法試験に合格して弁護士になってもなかなか仕事がないと言われていますが(もっとも司法試験でトップの成績をとった人や、有能な司法修習生は、裁判官や検察官になるそうですが)、「訴訟大国」のアメリカでもたいへんなのです。

法のトラブルはインターネットが解決する時代

もともとアメリカは、「交通事故があるとすぐに弁護士が飛んで来て名刺をくれる」っていう笑い話があるくらい、弁護士がたくさんいて、熾烈なクライアント獲得競争が行われています。

ところが、いまやインターネットで解決できることが増えて、企業の法務部も縮小・閉鎖で、弁護士は必要ないんだそうです。

個人のトラブルも、簡単に解決できるWEBサイトがたくさんあって、弁護士に頼まなくてもいいということです。

そのため、超有名なロースクールでないと学生が集まらない、集まっても質が低くBar Examに通らない、通っても就職先がない、という悪循環に陥っています。

昨年は、ウィッティア・ロースクールの卒業生のうちBar Examにパスしたのは4分の1にも満たなかったそうです。

そして128人の卒業生のうち、弁護士の資格が必要とされる仕事に就けたのは45人だったとのこと。

どんどんITの時代になって、人間は苦しいですねぇ。

6年かけて資格をとっても仕事がない!

そしてもう一つ、資格についてのニュースが入っています。それは、薬剤師です。

アメリカの薬学は、大学院ではなく大学レベルで、だいたい6年の課程です。

薬剤師になるには、もちろん、国家試験も受けなければなりません。

20年くらい前までは、アメリカでも薬剤師の資格が必要な仕事がたくさんあって、たくさんの大学が薬学部を新しく設置ました。

ところが、いまや薬の売買もインターネットで出来るようになり、お店に立つ薬剤師の仕事もめっきり減ってしまっています。

なので、若者に不人気の資格となり、どの大学も学生集めに困っているということです。

なかなか優秀な学生が集まらず、国家試験にパスする学生も少なくなっているとのこと。

アメリカの大学の学費がとても高いのはよく知られていますが、ロースクールも高いし、薬学は6年もかかるしで、それで仕事がない、というのでは割に合わないということですよね。

資格=安泰の時代は終わった

この現象って、他の資格でも起きる可能性が大きいですよ。

医療でも、患者の診断はIBMの人工知能、ワトソン君のほうが確実だそうですから、これから医師も、どんどんAIにとって代わられて、カウンセラーとしての技能のほうが大切になってくるのではないでしょうか。

「神の手」をもつ医師でも、患者に寄り添えるかどうかで評価されることになると思います。

「資格をもっていれば安心」なんて、どんどん遠い話になっていきます。インターネット恐るべし、AI恐るべし、ですよ。

そのうち人間はみんな必要なくなるかもしれないという気がしますけど、でも科学の進歩は止められないんですよね。

あなたはどう生きていきますか?


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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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