アメリカの歴代大統領達も選んだ道「編入」とは?ー大学生3人に1人以上が挑戦

アメリカの大学の「編入」とは?

アメリカの大学では“transfer”ということがごく一般的に行われています。Transferを日本語に訳すと「編入」です。

日本で「編入」といえば、「短大から四大への進学」という意味でしか使われないかもしれません。

アメリカの大学に留学する人も、編入といえば「コミュニティ・カレッジ(二年制の公立大学)から四年制大学に編入すること」だと思いがちです。

でも、アメリカでいう「編入」とは、ある大学から別の大学に移ること、いわゆる「大学間での転校」をごく一般的に指す言葉です。

コミュニティ・カレッジから四年制大学に進学するというだけでなく、ある四年制大学から別の四年制大学に移ることも含めて、ごく普通に「編入」と呼ばれています。

最近の統計によると、アメリカの大学生のうち「編入」を経験するのは37.2%にものぼるとのことです。

つまり3人に一人以上の学生が、入学した大学と卒業する大学とが異なるというわけです。

トランプ大統領も、フォーダム大学(Fordham University)という四年制の総合大学から、アイビーリーグとして有名なペンシルバニア大学(University of Pennsylvania)の不動産学科に編入しました。

オバマ前大統領も、オクシデンタル・カレッジ(Occidental College)というカリフォルニア州の名門リベラルアーツ・カレッジからコロンビア大学(Columbia University)に編入しています。

どうしてアメリカの大学生はこんなにたくさん編入するのでしょうか。その理由を考えてみたいと思います。

気が変われば大学も変わる

まず単純に「気が変わった」という理由が挙げられます。

アメリカの大学にも、日本の「専願」と同じものがあります。

「合格したら必ずその大学に入学する」という約束のうえで出願するもので、だいたい11月くらいに出願して12月には合否が決まります。実際に入学するのは翌年の9月です。

こういう出願方法をEarly Decisionといいます。

入学までに10か月もあれば、気も変わりますよね。一応、入学はしなければなりませんが、1、2年もすると、別の大学に編入してしまう学生も少なくないのです。

日本で「専願」といえば、指定校推薦の場合が多いので、入学してからその大学をやめるのは出身高校に申し訳ないという考えかたもあるようです。

一方で、アメリカの大学には指定校推薦という制度そのものがありません。

どの大学に出願するにしても、出願書類の一つとして高校の先生に推薦状を書いていただかなければならないので、高校と大学の間に特別な関係が成り立つこともありません。

ですから、入学した大学をやめることに、学生たちが罪悪感を抱くこともないのです。

トランプ大統領がペンシルバニア大学に編入した理由

大学に入学してから、本当に勉強したいことを見つけたので、別の大学に編入するということもあります。

まず、アメリカの大学は日本と違い、入学時に学部や学科を決める必要はありません。

最初の1、2年のうちにさまざまな一般教養科目をとりながら専攻すべき分野を見つけようというのがというのがアメリカの大学の考えかたです。

やりたいことが見つかったときに、その分野が自分の大学に学科として設けられていなかったり、よりレベルの高い学科を設けている別の大学が見つかったりという場合もあります。

そうすると、学生たちは編入という道を選びます。

トランプ大統領は、フォーダム大学に入学してから不動産学にめざめたわけですよね。アメリカにも不動産学科をもつ大学はそう多くありません。

そこで、彼はペンシルバニア大学に編入したのです。

大学の規模が編入をうながすことも

また、大規模の大学に入学して、あまりに授業が大人数で行われることにビックリして失望する学生もたくさんいます。

学生数が3万人なんていう大学になると、1年生の授業は、ほとんど100人とか200人とかいった規模になります。

アメリカの高校は、公立高校でも1クラス25人くらいですから(私立では1クラス10人前後です)、100人もの規模のクラスとなると、もうみんなビックリしてしまって、何が何やらわからなくなってしまうのです。

そうして、もっとこぢんまりとして1クラスの学生数も少ない小規模大学に編入しようとするのです。

逆に、面倒見のいい小さな大学に入学したけれど、それに飽き足らなくなって、大きな大学に編入する学生もいます。

オバマ前大統領は、ハワイの高校から本土の小さな大学に入学し、おそらく、もっと大きなところで自分を試そうということでコロンビア大学に移ったわけです。

学生アスリートが編入する理由

以上、アメリカの大学生が編入するおもだった原因を考えてみましたが、ほかにもさまざまな理由で、アメリカの学生は編入しています。

たとえば、経済的な理由で編入する学生もいます。

より学費の安い大学や、よりたくさんの奨学金をもらえる大学に編入するという学生たちです。

また、より立派な設備を備えた大学に編入しようという学生もいます。単に「隣の芝生が青い」といった理由もあるでしょう。

スポーツが編入の動機になる人もいます。自分が所属するチームがあまりに強いと、なかなかレギュラー選手になれません。

そこで、レギュラーとして活躍できる大学を探して編入するのです。

これは日本では考えられない話ですよね。まるでプロみたい。

アメリカの大学の柔軟な編入システム

アメリカの大学は「単位制」です。

単位数によって卒業までの期間が決まること、そして大学間で単位を移行できることが、編入を容易にしている大きな理由です。

またアメリカの大学には入学金や初年度納付金といったものがありません。

したがって入学金をムダにしたとか、編入の際に特別な費用がかかるといったこともありません。

大学をやめても単位は残ります。そのつもりになれば、またお金を貯めてから、その大学に戻ったり、他の大学に編入して残りの単位を取得し、卒業することも可能です。

日本の大学の単位でも、アメリカの大学は認めてくれます。

先に、大学に入学した後で本当にやりたいことが見つかって、別の大学に編入する学生もいるということを書きました。

18歳くらいでは、何をしたいのかわからない、何が自分に合っているのかもわからない、ということですが、これは日本人も同じですよね。

かなり歳をとった人でも、「本音を言えば、やっぱりわからない」という人だらけなんですけどね。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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