ハーバード vs トランプ:留学生と大学の生き残り戦略

ハーバードから留学生がいなくなる?

ニュースでは毎日、アメリカの大統領トランプさんの話題が出てきます。

おそらく世界中のメディアに毎日、登場しているのだと思います。

ご本人はそれが一番楽しいのでしょうか。

自分が何か言ったら世界が私にひれ伏す、と関税の大ニュースのときに言っていました。

トランプ氏が5月23日に行った、ハーバード大学の学生のビザを取り消すという暴挙は、世界中にパニックを巻き起こしました。だれも思いつかない発想ですもの。

すぐ裁判所から一時停止の命令が出たものの、ちょっと先が見えません。

ハーバード大学がトランプ氏に歯向かってくるのが一番気に入らないようですので、戦いが続く可能性はあります(トランプさんの行動は予測できません)。

大学院重点型のハーバードと留学生政策の衝突

たくさんの留学生を受け入れ、たくさんのお金をつぎこんで反ユダヤ主義の人間を育てている、他国を利する人間を育てている、とトランプさんは言っていますが、アメリカで留学生を一番抱えているのは、トランプさんの息子が行っているニューヨーク大学です。

約半分が留学生です。

お金をつぎこんでいるのはたしかです。

そもそもハーバードは大学院重点型の研究大学(research university)です。

学生数も、大学生の6,980人に対し、大学院は17,539人です。大学院の博士課程の学生は原則学費免除で、月に3,000ドルほどのお小遣いももらえます。

TAとかRAとして、教授のさまざまなお手伝いをします。

ポスドクの人も、博士号をすでに取得している研究者の人もいろいろいるはずですから、大きなお金が費やされています。

大学レベルには留学生はあまりいません(およそ15%。大学院は32%)。

入学基準も厳しく、学費・寮費・食費あわせて年間約90,000ドルと高額です。

奨学金をもらっている学生もいますが、ハーバード大学もすべての学生に奨学金を出せません。

留学生の中には、自分の国の(日本ではたとえば柳井奨学金など)奨学金をもらってきている人もいます。

留学生はハーバードのドル箱か?

ハーバードが学費として大きく収入を得ているのは大学生(州や国の奨学金や個人のローンなどで支払っている)と、ビジネススクールとケネディスクールの大学院生です。

ビジネススクール(経営大学院)は各企業から費用を出してもらって来ている留学生がたくさんいます。

在学生1,900人のうち、35%が留学生です。

ケネディスクール(公共政策大学院)は各国政府の関係者や公務員、将来政治家をめざしている人などが、国のお金や自己資金で留学してきています。

ここでは在学生1,000人のうち、なんと59%が留学生です。

これらの留学生がビザを失うとなると、経済的損失も大きいのはたしかです。

ハーバードの学生も、もう夏休みに入るので、とりあえず、どの留学生も今年までの分は終わりを迎えられます。

また、裁判所の審理が続いている間は学生の身分が保証されます。

留学生たちの次の一手

コロナ感染症のときもハーバードはパニックになりました。

アメリカ中がパニックになりました。

しかし、アメリカの各大学はオンラインに授業を切りかえて教育を続けました。

このとき、オンライン教育の方法がとても進化して、いまでは大学院などのコースによってはオンラインオンリーというところも増えました。

したがって、オンラインで授業を続けるというのも一つの方法です。

多くの国をまたいで授業を受けられます。

また、アメリカは他大学の単位を認めるという制度が発達しているので、各国に戻って自国の大学(通信教育でも可)で勉強を続けて、ハーバードに認めてもらうという方法もあります。

裁判が続けられている間は、身分が保証されていますが、いずれにしても、この9月までに各個人で何らかの対策を考える必要があります。

振り子は極端に振れると、また反対側に戻ります。

トランプさんの攻撃も、いつしか、力を失うときが来ます。

トランプさんのやっていることについてフツフツと反撃しようと考えている人が増えているはずです。

捨てる神あれば拾う神ありで、すでに各国がアメリカからの研究者の招聘に手をあげています。

東大も大学生を引き受けると言っています。

なぁに、日本の東大だって入学できない年があったのです。

今回のことが各個人にとって致命傷になるわけではなく、次の一歩を考えなければなりません。

留学生よ、逆風に負けるな!

ハーバードだけでなく、アイビーリーグと呼ばれる他の名門大学も、研究費を削られたり反ユダヤの学生を処分しろと言われたりしています。

なぜか、アイビーリーグの中でダートマス大学だけが標的になっていません。

いい意味で、上手に立ち回っていると言われています。

いまのところ、わが研究所の9月入学の学生ビザはおりています。

留学をとりやめる学生もいません。淡々と目の前のことを進めたいものです。

明けない夜はないのです。

※ハーバード ビジネススクール
ハーバード大学の経営大学院。正式名はHarvard Business School(通称HBC)。アメリカで最初にMBAプログラムを設けた。博士課程や、エグゼクティブ・プログラムもある。世界中にビジネスリーダーを輩出している。楽天の三木谷浩史氏もその一人。

※ハーバード ケネディスクール
ハーバード大学の公共政策大学院。正式名はJohn F. Kennedy School of Government at Harvard University(通称HKS)。国際機関やNPO/NGO、政界、シンクタンクなどで働く人を養成する。数多くの日本の政治家もここで学んでいる。玉木雄一郎氏もその一人。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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