留学にも支障をきたす、日本の大学のムチャクチャなGPA制度

(2021.02.01付記)

アメリカの大学の成績のつけかたは全米共通です。コミュニティ・カレッジ(二年制の公立大学)であれ、私立・州立、短大・四年制大学であれ、どこも同じように成績をつけます。

アメリカの大学のGPAとは?

A:100〜90点
B:89〜80点
C:79〜70点
D:69〜60点

アメリカの成績評価は、これらの4段階で、59点以下はFです。

このアルファベットの成績を、A=4、B=3、C=2、D=1という数値にしたものをGrade Pointといいます。

成績の平均値であるGPA(Grade Point Average)は、このGrade Pointに各科目の単位を掛け合わせて、総単位数で割って出します。

GPAは「ジーピーエー」といいます。

アメリカの大学で「退学」は身近な問題

アメリカの大学では、2学期続けてGPAが2.00を割ると退学になります。

また大学院に進学するには3.00が最低ラインとされています。

したがって、1つでもFをとると、他の科目の成績がよくてもGPAを下げてしまうので、アメリカ人の学生は、決してFはとりません。

それはもはや退学を意味してしまうからです。

大学のルールブック(「スクールカタログ」と呼ばれています)には、この成績のことが細かく書かれています。

また、Fをとると大変なので、アメリカの学生たちは、クラスに出て、このクラスでよい成績をとるのはむずかしいと思ったら、そのクラスをキャンセルしてFの成績がつくのを回避します。

これを「Withdrawする」「dropする」といいます。やはりスクールカタログに、「何月何日までならwithdraw(あるいはdrop)してよい」と書いてあります。

そうすればFをとらなくて済みます。

成績のつけかたがバラバラな日本の大学

かたや日本の大学では、成績のつけかたがまったく統一されていません。

州法がバラバラなアメリカで、GPAが全米的に統一されているのに、文部科学省が統括しているはずの日本の大学の成績のつけかたがバラバラなのは本当に驚きです。

日本は、かつてはほとんどの大学が優・良・可で成績をつけていました。

その成績を英文にする際には、優=A(4.0)、良=B(3.0)、可=C(2.0)と表していました。

「不可」の成績は、英文の成績表には記されていませんでした。

また不可をGPAに換算することもありませんでした。

しかし最近は、成績表にGPAを表記する大学がとても増えています(昔のままの大学もあります)。

1998年あたりから、成績評価を厳しくするなどという理由で、GPAをつける大学が出てきました。また成績のつけかたも、優・良・可ではなく、S・A・B・Cとか、AA・A・B・Cとか、A+・A・B・Cとか、A・B・C・Dとかさまざまです。

いずれもGrade Pointは4・3・2・1となります。

GPAが1.2でも卒業できる!?

たとえばS・A・B・Cで成績をつける場合、S(4)は100〜90点、A(3)は89〜80点、B(2)は79〜70点、C(1)は69〜60点です。

そして単位数を掛けて、GPAを出します。

そして驚くことには、GPAが1.2であっても卒業には何の支障もなく、もちろん、途中で警告もありません。

アメリカのようなWithdrawのルールもありません。

ですから、クラスをたくさんとって、あまりおもしろくないクラスや、ついていけそうにないクラスを放っておくと、Fがついてしまうわけです。

Fが増えると、当然GPAは下がります。

もっと驚くことには、和文の成績表と英文の成績表が違うのです。

和文ではGPAがなくて英文には突然出てきたり、和文には不可(F)があるのに英文では全部消えていたり。

そのうえ、以前の優・良・可のままの大学もあるので、絶対にDは出てこなかったり。

もっとすごいのは、英文のときにGPAを出すか出さないか、学生が選べる大学があったりするのです。

複雑でわかりにくいGPAの換算

基本的にアメリカでは、日本の大学の成績に対しては、100〜80点(昔の「優」)を4としています。

したがって、S・A・B・Cとなると(SはAより上です)SとAを4と考えます。

GPAが書いていなければ、SとAを4、Bを3として計算してくれますので、GPAは良くなります。

ある大学の教務課が「英文で成績を作成するのに学生のGPAはどうするのか」と聞いてきたことがあったので、それ以来、当研究所では、その大学の学生には、「GPAを出さないで成績を英文で作ってもらいなさい」と指導していたら、その大学の教授から、「成績表を改ざんすることを学生に指導するとはなんたることか」というお叱りの電話を受けました。

うちのカウンセラーがガミガミ言われて、私はよほど反論してやろうかと思いましたが、どうせ何もわからないおっさんだろうと思ったし、この仕組みを説明するのに時間がかかりすぎるので、やめました。

以来、この大学の学生は、成績の面で損することになったのです。

GPAで「損をしない」方法もあります

さて、Fの扱いですが、前述したように、英文になったときにFが出てくるのと出てこないのとでは大違いです。

日本でもともと「不可」という扱いは、再履修ができたり、必須でなければ放っておいてもかまわないということでしょうが、わざわざ優をSとAに分けてGPAまで出すことにしたのに、Fの扱いはムチャクチャで、Fを入れて計算するとGPAが0.5でも本当に卒業させるのですよ。

みなさん、こういうこと知ってました?

アメリカの大学院に行くためには3.0以上のGPAが必要、という情報はなんとなく浸透していて、大学院にはもう進学できないと思い込んでいる人がけっこういるのです。

夫の転勤などでアメリカに行く場合、自分も勉強しようと志す女性も増えていますが、みなさん大学から成績表を取り寄せて愕然とするわけです。

当研究所に相談に来る人は、いろいろな解決方法を習って、ピンチを抜け出していきますが、そうでない人は、思い込みのまま、チャンスを逃すことになります。

本当に日本の大学の成績のつけかたは罪なことですし、成績が悪くても卒業できる、というのも本当におかしなことです。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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