STEMは世界を変える? アメリカの大学がSTEMを重視する理由

STEMを専攻すれば学生ビザで3年働ける?

STEM(ステム)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。Science, Technology, Engineering, Mathematicsの略です。

1990年代からアメリカで使われ始めた言葉ですが、最近ではアメリカの大学・大学院で学んでいる留学生のOPT(オプショナル・プラクティカルトレーニング)期間を24か月、延長できる分野として、話題にのぼるようになりました。

OPTとは、アメリカの大学・大学院を卒業した学生が、専攻分野と同じ職種において、12か月トレーニングしてよいというものです。学生ビザのままで、卒業後も1年間働くことができます(無給の場合もあります)。

STEM分野を専攻した人は、OPTの期間を24か月延長できるので、要は、3年はインターンとしてアメリカに残ることができることになります(それまで17か月だったのが、2016年に24か月にさらに延長されました)。

STEM分野には、物理学・化学・生物学なども含まれます。まぁ日本でいう「理系」ですね。

それでもアメリカで生活するのはむずかしい

「3年間働いていい」ということになると、インターンといっても、きちんとした戦力になります。

そこで、ちゃんと給料を出してくれる企業が出てきて、とくにコンピュータ分野では、大学院卒でなくて大学卒でも、正規の就職と同じ扱いで迎えてくれる会社もあるので、アメリカで働くことを考えている留学生には、なかなかよい制度です。

当研究所の卒業生でも、この新しい条件下で働いている人が出てきていますが、いまの物価高のアメリカでは、生活はなかなか厳しいものがあります。

とくに仕事が多い都会では家賃も高く、学生時代と違って車も必要になります。若いと車の保険料も高くなります。

ついつい日本食も食べますので、余計なお金がかかります。何せラーメン1杯20ドルだったりするのです。

インターンになってもなお、日本の親から仕送りしてもらうというのであればいいですが、いくら裕福な親でもインターンで3年残るために援助するというのは、何か割り切れないものがあるでしょう。

OPTが終わると、いよいよHビザ(就労ビザ)を申請することになりますが、ここ何年かは申請する人が定員の2倍以上もいて(2018年は85,000人に対して19万人くらい)、抽選になっています。

確率半分以下、うーん、アメリカに残るのもなかなか厳しいですねぇー。

STEMプラス別の専攻を学ぶこともできる

アメリカの大学は、「STEM系&ビジネス」とか、「STEM系&音楽」といった組み合わせで授業をとることができます。

第1専攻・第2専攻とありますし、ダブルメジャー(2つの分野を専攻すること)なんていうのもありますから、アメリカで就業経験をしたい、何とか働く機会を得たいという人は、第1専攻としてコンピュータ&インフォメーションサイエンスを選ぶのがよさそうです。

求人も多く、これからますます重要になる分野ですから。そして自分が本当に好きな分野を第2専攻として学べばいいのです。

アメリカのほとんどすべての大学でコンピュータを学べます。

アートとコンピュータを両方とも学べたりするのですよ。

日本ではちょっと考えられないことですね。

アメリカがSTEM教育に力を入れている理由

アメリカでは2000年代になって「STEM教育が十分になされていない」ということで、幼児から高校生までのSTEM教育に力を入れ出しました。

先生がたへのトレーニングも強化して、子どもたちがSTEMに興味をもち、さらに大学・大学院で高度な分野に進んでいく人がたくさん出ることを、国を挙げて推し進めるようになっています。

この背景には2つの理由があります。

まずITが、国または人類の運命を変える可能性が出てきたこと。

もう1つが、とくにアメリカでは、白人・黒人・ヒスパニック系・アジア系、その他あらゆる人種が、能力の差がなく働くためには、小さい頃からSTEMの知識を身につけることが重要だと考えられるようになったことです。

STEM教育でも世界に遅れをとる日本

日本でも最近、小学校からプログラミングを教えるなど、やっと世界からだいぶん遅れていることを知ったのか、あわててやり始めていますが、もう10年は遅れているように思います。

日本では、音楽をやりたい人はコンピュータのクラスをとれません。

生物学専攻の人もとれません。

そもそもアメリカとは大学の設備がものすごく違うし、寮生活でなくて、授業が終わればアルバイトに行く毎日では、ゲーム以外でコンピュータと向き合うことはできなでしょう。

入試改革よりも、大学では理系・文系ともに勉強できて、学生はしっかり勉強する、勉強しない学生は退学にする、というようなシステムをつくっていかないと、日本はズルズルと世界に遅れをとっていくのではないかと心配しています。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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