選手として渡米しても試合に出られない。「スポーツ留学」の悲劇
「スポーツ留学」には、アスレティック・トレーナーや体育学など、スポーツに関連する分野を「学ぶ」留学と、スポーツを「プレーする」留学とがあります。
スポーツ留学とスポーツ推薦は違う
スポーツ選手としてのアメリカ留学を、日本のスポーツ推薦のようなものと勘違いしている人は少なくありません。
日本のいわゆるスポーツ推薦は、特別枠で入学させてくれて、それこそ朝から晩までそのスポーツをやっていれば、学校の勉強がおろそかでもかまわないみたいなところがあります。
しかし、アメリカの大学は、前にも書いた(https://www.ryugaku.com/sakaecolumn/training.html)ことがあるように、そうはいきません。
ともかく勉強が第一です。
もちろんアメリカでも、高校でスポーツ選手として名を馳せていれば、有名大学から声がかかります。
大学のコーチや監督がお金を積んだとか、そのお金の出所はどこか、なんて事件になったりすることさえあります。
それでも、2学期続けてC平均(70点平均)を切ったら退学になるのがアメリカの大学。成績が悪いと試合にも出られません。
日本のスポーツ推薦とはずいぶん違います。選手もコーチも監督も、チューター(個別の補講講師)をつけて必死に勉強する・させる努力をしなければなりません。
留学したけど「話が違う」
アメリカのスポーツはシーズン制です。シーズンが外れたら別のスポーツをする選手もいます。
アメリカのボーディングスクール(寮制の高校)に留学したけれど、日本の部活みたいに1年中同じスポーツをするのではなく、シーズンにしかプレーできない、おまけに毎日の生活のルールが厳しすぎる、どこにも行けない、このまま卒業まではいられない、まったくおもしろくない、といった相談をよく受けたものです。
アメリカの高校への「スポーツ留学」が専門のエージェントがけっこうあったのですが、アメリカのボーディングスクールは朝起きてから寝るまで規則がビッチリ詰まっています。
広大なキャンパスには寮や教室はもちろん、先生の家まであって、自由にキャンパスの外へは出られません。キャンパスの外に出ても、そもそも電車もバスもありません。交通手段がないのです。
エージェントがこうした説明をまったくしないので、日本のスポーツ推薦の感覚でアメリカの高校に留学したら、「話が違う」となって、私のところに相談に来るのです。
最近、そういう相談はすっかりなくなりました。ボーディングスクールの費用があまりに高くなりすぎて、留学する日本人がめっきり減ったからです(1年に75,000ドルほどもかかります)。
トライアウト留学?
最近、新しく出てきたスポーツ留学のエージェントでは、アメリカのトライアウトに日本人を連れて行っています。もちろん有料です。
必ずしも留学というわけではく、トライアウトに参加するだけで満足する日本人もたくさんいるのでしょう。
もちろん、アメリカの大学が奨学金を出してでも迎え入れたい、という日本人もいるかもしれません。
しかしそれだけのレベルの人には、直接アメリカの大学のコーチから声がかかるはずですから、エージェントが企画するトライアウトのツアーに参加するとは思えません。
また、たとえばUCLA(名門大学で、かつスポーツの強豪校です)に自費で留学するとなると、1年に学費+寮・食費で約57,000ドル、お小遣いその他を合わせるとザッと年に800万円くらいかかるでしょうか。
もちろん、これだけのレベルの大学では、学力も英語力も必要です。
そこでコミュニティ・カレッジの登場となるわけです。
コミュニティ・カレッジはアメリカの公立二年制大学で、費用が安く、高校を卒業していれば「だれでも入れる」のが特徴です。
コミュニティ・カレッジへの留学の落とし穴
「コミュニティ・カレッジであれば、成績が悪くても入れますよ」「費用も安いですよ」とエージェントに言われて、意気揚々と出かけて行くのですが、キャンパスに到着すると、まずプレイスメントテストというテストを受けることになります。
要は英語のテストです。このテストでそれなりのスコアをとれば、正規の授業を受けられるのですが、普通の日本人留学生は、それだけのスコア(だいたいTOEFL®スコア61に相当するスコアです)をとれません。
ではどうなるかといえば、ESL(English as a Second Language)のプログラムに入ることになります。
ESLは、英語を母語としない留学生のためのプログラムです。
したがって、正式の学生という扱いになりませんので、当然、スポーツ選手にはなれません。
でも当人も家族もそんな話は聞いておらず、「留学したらすぐ選手として活躍できると信じていたのに・・・」ということで当研究所に相談に来るというケースです。
またシーズン制ですから、シーズンが外れると、ESLプログラムを脱しても、また1年待たなければなりません。
西海岸のコミュニティ・カレッジは寮のない職業訓練所のような大学が多く、さらにホームステイ代も高いのです。
ESLの授業は2時ごろに終わります。時間を持て余して、日本人同士でカフェに行きます。食事も、つい外食になりがちです。
公共の交通手段も少ないので、日常の生活がやっかいです。「どうしてこんなことになってるの?」「話が違うじゃん」「でもしょうがないよ、英語ができないんだから」なんて言っているうちに1年が経ち、お金も500万円くらいかかってしまうのです。
絶対ダメ! エージェント任せの留学
このような相談に共通しているのは、アメリカの大学からの書類やEメールを、留学生本人や家族がもらっていないこと、あるいは読んでいないことです。
当研究所では、大学から届いた書類やメールは、当然、カウンセラーが一緒に読みます。
本人や家族が完全に読めるわけではないので、カウンセラーが指導しながらですが、とくに重要な書類やレターは、本人も一生懸命読みます。
これが英語力アップにもなるのです。
何もかもエージェントに日本語で用意してもらって、それで長期の留学(旅行じゃないんですよー)をするほうも問題だけれど、どういう結果になるか知っていて、こんな「スポーツ留学」を勧めるエージェントがいまだに次々生まれるなんて、本当にどうなっているのでしょう? 情けない!!
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。