3人に2人の若者が「海外留学に興味がない」という日本の現状

AIを学ぶための大学院

アメリカでAI(人工知能)を勉強できる大学院は、名門カーネギーメロン大学を含めて数多くあります。

こうした大学院に進学する学生たちは、大学ではコンピュータ&インフォメーション・サイエンスと数学、経済学、物理学などを基礎に、音楽、哲学、文学、生物学、美術などいろいろな分野の勉強をしているので、AIを開発するうえでさまざまなアイデアが出てくることと思います。

6月3日付の日本経済新聞に、立教大学がAIに特化した大学院を2020年に設立する、という記事が載っていました。

もともとリベラルアーツ教育に力を入れてきた大学が、AIの大学院を設けるのはとてもいいことだと思います。

世界に遅れをとる日本のAI人材育成

またその前日の日経新聞には、AIの人材が日本ではまったく足りないという記事がありました。

その記事によると、AIに関する世界のトップ級人材は22,400人だそうです(カナダのAIスタートアップ「エレメントAI」による)。

そのうち約半数がアメリカ人で、次いで中国人、イギリス人、ドイツ人、カナダ人と続きます。

日本人はといえば、805人で世界6位です。アメリカに比べて見劣りするどころではありません。

日本は分野をまたいだ研究体制が弱いというのが原因の1つのようですが、この複雑な時代に、いまだに理学部、工学部、文学部といった分けかたをしていて、AIの開発において肝心な数学とコンピュータを両方学ぶということができないのですから、日本の大学教育の前途はとても暗いと思います。

AI開発に欠かせない「多様性」

AI人材の質についても、この記事で触れられていました。

いつもながらの、「日本の人材は多様性に欠ける」というものです。日本人ばかり、同じ大学の卒業生ばかり、外国人はもとより海外の大学や大学院で学んだ日本人も少ない、女性も少ない・・・といったことです。

同じ人種や性別のチームがつくったAIは、判断が偏りがちになるそうです。

AIは日本人だけが使うものではなく、世界が使いこなしていくものですから、日本仕様に偏っていても意味がありません。

そもそも人口が減っていく日本ではビジネスにもなりません。

留学に興味がない日本の若者たち

同じ日の日経には、留学希望者が日本には少ないという記事もありました。

短期留学を含めて、留学を希望する若者は32.3%にすぎないそうです。

将来、他国で住みたいと答えた若者に至っては、たったの19.4%です。

いまの日本の若者は本当に海外に興味がありません。

留学するにしても、在籍している日本の大学から交換留学する、または大学が組んでいる海外プログラムに参加する、というのが圧倒的です。

「どこにも所属していない」ということは、本人にも親にもとても怖いことですから、どんなことがあっても大学に所属しているかたちをとりたいのです。

日本の若者は、日本が大好きです。こんな居心地のいい国はありません。

食事はおいしいし、バスや電車で簡単にどこへでも行けるし、夜だって怖いことはありません。

世界中のどんなものだって手に入ります。

就職するまでは、とりあえず社会や親や学校が目の前の目標を掲げてくれます。

大学受験、中学受験、小学校受験まであり、いつも目の前にちゃんとニンジンがぶら下がっているので、それに向かってとりあえずの努力をしていれば大丈夫です。

留学したくない、その本音は「怖い」

社会に出て何年か経って、エーッというようなことにたくさん出くわしますが、そのときはもうだれもニンジンをぶら下げてくれないので、どうしていいかわからず、また、会社を辞めるのは所属先も金銭的バックも失うことになるので怖くてできません。

不安や不満にかられながらも、とりあえず日々を過ごしているうちにあっという間に定年です。

日本人の70%が会社に不満をもちながら働いているということですが、まったく哀れなものです。

留学したいと相談に来る社会人、私の講演会に参加する社会人、たくさんいるのですが、すべてを擲って、エイやっと留学を実現する人は、ほんの、ほんの少数です。

みんな怖いのです。自分の力だけを信じて生きていくということに自信がないのです。

留学ほどスリルと興奮とサスペンスに満ちているものはないし、あっという間に歳をとってしまうのに、そんなおもしろい経験をしないなんて、まったくもったいない話です。

アメリカで高度AI人材が育つ理由

アメリカの大学・大学院は、多様性を維持するために大変な努力をしています。

アファーマティブ・アクション(マイノリティ優遇措置)などで人種のバランスをとったり、大学院にしても、同じ大学よりも他大学からの進学者を積極的に入学させたりしています。

また大学院生は、教授の助手をすることで学費が無料になり、生活費も支援してくれるため、どんな貧しい国の学生も、能力と努力が認められれば博士課程まで進むことができます。

また、Hと呼ばれる就労ビザは、希望者が何億人も殺到するため、ここ数年、抽選になり、宝クジみたいになっていますが、昨年からは、コンピュータ・エンジニア系などは、大学・大学院卒業後のインターンシップを3年間続けられるようになりましたので、それだけの期間があれば、企業のほうも、一人前の働き手として待遇してくれます。

人手が足りないので発展途上国から安く労働力をもってこよう、という狭い考えの日本では、高度AI人材を育てることがあまりにむずかしいのです。

あと20年たつとこの国はどうなるの? と思ってしまいます。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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