政権移行が始まるアメリカ。留学生への影響は?

博士号を取得した留学生には永住権を

ホワイトハウスの写真

アメリカの新しい大統領になる予定のバイデン氏の提案の1つに、留学生にかかわるおもしろいものがありました。

アメリカでPh.D.(博士号)を取得した外国人学生は、学位を得るとともにグリーンカード(永住権)を付与されるべきだというものです。

もちろん、選挙のときの話ですから、必ずそうなるというわけではありません。

トランプ氏の時代に、学生ビザやH-1Bといわれる(大学での専攻分野に関係する仕事に3年間就いていい)ビザについて、あれこれ問題視されて、ついにこの9月に学生ビザでアメリカに入国する人は43%も減ってしまったのですから、アメリカの大学は困りきっています。

バイデン氏の話は1つのいいニュースです。

アメリカ経済を引っ張ってきた留学生という存在

アメリカどころか世界の経済を牽引しているGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)及び、それに関係する企業のほとんどは、留学生の中から優秀な人たちを採用してどんどん伸びてきました。

この系統の企業には、多くの中国人やインド人が働いています。

彼らは学生からインターンを経てH-1Bビザにたどり着き、そこから永住権を得ています。

留学生は大学・大学院を卒業すると、1年間「プラクティカル・トレーニング」というステータスを得ることができます。

1年間インターンとして働いていい(無給の場合もあります)というものです。

アメリカの大学生は、卒業まで勉強がハードで就職先を探す時間がありません。

したがって基本的に、卒業してからしか就職活動をしません。というかできません。

まぁ、4年生のときに勉強しないで就職活動をするのは世界中で日本くらいだと思います。

そこでインターンとしてアメリカに残っている間に、本格的に雇ってくれる会社を探すのですが、STEMと呼ばれる分野では、この期間が3年間与えられています。

STEMはScience, Technology, Engineering, and Mathematicsの略で、要はGAFAに関連する分野です。

イーロン・マスクの活躍が示す、外国人の価値

学生ビザは普通、5年間有効ですが、トランプ氏は2年ごとの更新制度にするとか、H-1Bは3年にプラスしてさらに3年間延長できるのを、できないようにするとか、まぁいろいろとややこしい話を持ち出して、すでに各国でのアメリカ留学の学生ビザ審査や、カリフォルニアあたりでのH-1B取得及び更新の審査が厳しくなっていて、おまけに中国と衝突したおかげで中国人留学生が劇的に減りました。

外国人留学生で、とくに大学院でSTEM分野を勉強するような人たちは、起業家精神が旺盛です。カリフォルニアなどでは、そういった人がしのぎを削ってスタートアップ企業を立ち上げようとしています。

いま、アメリカで何につけても1番を走っているイーロン・マスク氏は、南アフリカ生まれです。

カナダに移住後、アメリカのペンシルバニア大学に入学し、卒業しました。

スタンフォードの大学院はすぐに退学していますが、ついにNASAに代わって有人ロケットの打ち上げを成功させました。

車のテスラに至っては、まったくだれも信じなかった電気自動車が、いまや世界の主流になりつつあります。

アメリカとしては何としても、次々、イーロン・マスク氏のような人間を生み出して、アメリカ国家を支えなければならないのです。

アメリカの博士課程は経済支援がセットになっている

アメリカの博士課程は基本的に無料です。

教授のお手伝いをして(リサーチのお手伝いをしたり、1年生を教えたり)学費は無料で、かつ毎月1,000〜3,000ドルくらいもらえますので、これで生活していけます。

これはもちろん、どの国から来た留学生にも適用されます。

それだけして育てた人たちですから、当然、アメリカ合衆国のお役に立つ人材になってもらいたいのです。

トランプ氏以外の大統領下では、脈々とそういう考えが受け継がれてきています。

今回バイデン氏になれば、また元に戻るとはいうものの、トランプ氏が壊したものが大きくて、時間がかかることでしょう。

アメリカへの留学生の送り出しをストップさせた中国ですが、国内でどんどん大学を成長させ、あるデータによると博士号取得者の数はついに世界一になったともいわれます(※)。

2016年にアメリカで博士号を取得した中国人はおよそ5,500人でしたが、いまや、もうアメリカに頼らなくても自国でどんどん博士を製造できると胸をはっているのです。

※文部科学省によると、アメリカは86,597人(2016年)で、中国は59,368人(2018年)です。なおアメリカのNational Science Foundationによると、アメリカの博士号取得者(2016年)は54,904人です。

日本の高学歴って何?

これに対して、日本では博士号を取得しても就職先がないとか、修士課程でさえも就職があまりよくないとか、もう世界の趨勢と比べて目を覆うばかりです。

日本は、相変わらず東大や慶應・早稲田レベルの大学を卒業した人が高学歴、という考えです。

大学院では奨学金がそれほど用意されておらず、アルバイトをしながら勉学を続けなければなりません。

これでは、おもしろい人材が育つわけもないし、外国人学生が日本で博士号をとっても、なかなか日本に残ってくれないでしょう。

東大発のベンチャー、などと盛んにいわれていますが、「東大」しか売り物にならないんでしょうかねぇ。

120歳まで生きる可能性のある若い人たちの将来がとても心配です。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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