外国語を学ぶことの本当の意味とは?

総務省所管の情報通信研究機構というところが、日英中の3か国語を自動で翻訳するイヤホンを開発したそうです。

相手が言ったことをAIが翻訳して、それがイヤホンから聞こえるということです。

AIの技術で9割の翻訳精度を実現

Googleの自動翻訳も年々精度が高くなっていて、もう数年したら完璧に近くなるだろうと思っていたら、このイヤホンの精度はじつに9割に達したそうです。

「深層学習」というAIの技術をとりいれているということですが、技術革新は、想像以上に早く進むものだと思わざるを得ません。

AIは、私たち人間のように、外国語を学ぶのに疲れたとか、頭がシビれたとか、もう暗記できない、なんてこともありませんから、いくらでも「学習」するのに問題がないようです。

アメリカ人と「横メシ」を食う

私の古い友人で、英語・フランス語・中国語を話す人がいます。そんな彼の頭脳や努力をAIがいとも簡単に追い抜くのかと思うと、ちょっと複雑な気持ちになります。

彼は、カナダにもアメリカにも中国にも留学していました。英語は横書きなので、アメリカ人と食事をするのは「横メシを食う」などとおもしろいことを言う人です。

英語で冗談を言いながら食事をするのはなかなかしんどいものですが、彼はつねにそれを成し遂げていました。

私が中国の人を紹介すると、すぐ「ニーハオ!この前、中国語で困った言葉があってねぇ」なんて話しかけるような人柄です。

世界の中でもアフリカが大好きで、いつもヒマさえあればスキがあればアフリカに行っているものだから、仕事で重要な地位に就くチャンスを失っていました。

そんな彼のアフリカ好きを(いい意味で)からかう人もたくさんいて、そのうちの一人が最近「何であんな黒いのが好きなんだ」と発言して大ヒンシュクを買ってマスコミにたたかれました。

体で覚えた英語は忘れない

AIの話からは少し逸れましたが、本当に楽しい会話をするためには、やはり体で覚えた言葉でないとなかなかムリです。

私が初めてアメリカに留学したときのこと。

食堂で女の子たちが「アイモンダイエ」と言っているのです。

何のことかサッパリわからなかったけど、よく見ると、みんな少食なんです。

つまり“I’m on a diet.”と言ってるんですよ。1970年ですよ。

日本ではいまのようなダイエットなんかない時代です。

こういうふうに覚えた表現は、パッと頭に入って忘れることはないし、すぐ使えるんです。

外国語にも「文化」や「性格」がある

産業革命は、人間の力仕事を解放したと言われていますが、今回のAI革命は、人間の脳で考える力を解放することになります。

そもそも外国語を習うということは、言葉だけでなく、言葉を形成している文化や考えかたを学ぶもので、いろいろな角度から脳を鍛えてくれるものです。

たとえば英語は、いつも“I”から始まる自己主張の強い言葉です。

私の周りにも、日本語で話すと優しいのに、英語で話すとすごくキツい言いかたをするような人がいますが、英語は、ハッキリものを言う表現形式になっているからです。

たとえば中国の人でも、英語を話す人は少々性格がキツく、日本語を話す人は優しい、という印象を受けることもありますが、これもやはり、その人の性格というよりも、言葉の本来もつ性格が大きいと思います。

AIがつきつける「人間の生きかた」という問題

外国語を学んだり覚えたりするのは、単に通じるということだけではなく、もっと深い意味があるのです。

このままAIが発達していって外国語を覚えなくていいとなると、そのうち、九九も要らない、漢字も覚えなくていい、みたいなことになるかしら。

だいたい携帯電話のおかげで、みんな電話番号なんて覚えないでしょう(私は携帯をもたず、固定電話ばかり使うので覚えていますが)。

当研究所のスタッフも、ちょっとしたことを聞いても、必ず「ちょっと待ってください」と言ってパソコンに向かいます。

ほんの単純な数字さえ覚えていません。もうすでに人間の脳はだいぶん侵されているんじゃないでしょうか。

そのうち、小さなチップを耳の上あたりに埋め込んだら、たちまち、何でも覚えてしまうというようになるのでしょうかね。

それって、人間の脳が完全にAIに支配されるっていうことですよね。

AIが勝手にいろいろ考えるようになったら、私が私でなくなるってことになりますよ。怖いねェー。

いま、「AIに倫理をどのように、どのくらい教えるか」が全世界の重要なテーマになっています。

そうです、AIを操るのは人間なのです。

倫理の問題だけでなく、何をAIに教えるべきか、がすごく問われているときです。

それは人間の生きかたが問われているということです。みんな考えて意見を言いましょう。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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