ちょっと専門的な話「米国の大学認可プロセス」について

アメリカには日本の文部科学省にあたる機関がありません。

なにしろ国ができる140年も前にハーバード大学ができたくらいですから、国の規制を受けることなく、わりに簡単に大学をつくれてしまいます。

したがって、加計学園の獣医学部認可に首相への忖度があったかどうかというような問題も起きないわけです。

たしかトランプ大統領も、悪いウワサのあったオンラインの大学をもっていたと思います。

アメリカの大学を認可する協会

では、アメリカでは大学の認可をどうしているかというと、全米を6つの区域に分割して、それぞれの区域ごとの認定協会(Accrediting Agency)が、その区域の大学の認可を行っています。

たとえば、カリフォルニア州、ハワイ州、グァムなどの大学を認可しているのは、Western Association of Schools and Collegesという協会です。

アメリカの大学認可を行う6つの認定協会と対象地域

協会名 対象地域
Middle States Commission on Higher Education ニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルバニア州、デラウェア州、メリーランド州、ワシントンDC、プエルトリコ、バージン諸島
New England Association of Schools and Colleges コネチカット州、メイン州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ロードアイランド州、バーモント州
Higher Learning Commission アーカンソー州、アリゾナ州、コロラド州、アイオワ州、イリノイ州、インディアナ州、カンザス州、ミシガン州、ミネソタ州、ミズーリ州、ノースダコタ州、ネブラスカ州、ニューメキシコ州、オハイオ州、オクラホマ州、サウスダコタ州、ウィスコンシン州、ウェストバージニア州、ウィスコンシン州、ワイオミング州
Northwest Commission on Colleges and Universities アラスカ州、アイダホ州、モンタナ州、ネバダ州、オレゴン州、ユタ州、ワシントン州
Southern Association of Colleges and Schools アラバマ州、フロリダ州、ジョージア州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、テキサス州、バージニア州
Western Association of Schools and Colleges カリフォルニア州、ハワイ州、グァム、アメリカ領サモア、ミクロネシア、パラオ、北マリアナ諸島

 

大学として認可されるためには

もし私がカリフォルニア州にSakae Universityという大学を設立するとします。州からの認可を受けるのはそうむずかしいことではないと言われています。

ただ、「正式に認可された(accredited)大学」として認められるためには、Western Association of Schools and Collegesに申請しなければなりません。

申請しても、10年くらいはAssociationがキャンパスを見に来てくれないそうです。

設備や、先生の数や質、授業のレベルなど、さまざまな審査基準があって、それらをクリアしてやっと認可された大学になります。

さらに、10年ごとに再認可の手続をしなければなりません。

それ以外にも、1年ごと・5年ごとに、Associationに対してレポートを提出する必要があります。いったん認可されればそれでOKということではないのです。

たとえばSouthern Associationは120もの審査基準を設けています。大学はそれらすべての基準を満たさなければなりません。

大学の存続を決める4日間の視察

バージニア州の大学に勤めている私の友人が、「Associationのメンバーがやってくるので、その応対の大役を仰せつかって、もう大変!」と騒いでいたことがあります。

彼が言うには、メンバーが来るに先立って膨大なレポートを作成しなければならず、その資料の数は3,000にものぼったそうです。実際にキャンパスを訪れたのは8人のメンバー。

南部の他の大学の先生や事務方のトップたちです。月曜日から木曜日まで、4日間の滞在でした。

ホテルはもちろん、ランチやディナーまでいろいろ用意しなくてはいけません。メンバーの作業スペースも確保して、1日24時間のコンピュータサポート態勢も整えました。

認定協会を認定する組織!?

まあ審査員の心証をよくするためにあの手この手を使うのはどこの国も同じだなぁと思いましたが、最近になって、これら6つのAssociationそのものをチェックする組織があることを知って驚きました。

NACIQI(National Advisory Committee on Institutional Quality and Integrityの略「ナシーキ」と発音)というもので、1992年に設立されました。

連邦政府の諮問委員会で、議会上院・下院・教育長官から任命される18人のメンバーから成るそうです。

このNACIQI、なんと1年に2度もAssociationがちゃんとやっているかどうかをチェックするんだそうです。

とはいえ、だいたいは簡単なチェックで、「まぁちゃんとやってるな、OK」みたいなことだったそうです。

今年はとくに、大学への連邦政府の関与を少なくしようというトランプさんが大統領なので、NACIQIのチェックも、もっと簡単になるかなと思っていたそうです。

ところが、トランプ政権になって初めてのNACIQIのチェックにおいて、Southern Association of Colleges and Schoolsには、けっこうキツいお達しがあったとのこと。

「今後は、大学としての質を示すために、もっと明確な数字を出すように」という、まぁアメリカの大学がすごくイヤがる内容だったとか。

「各大学は、学生の卒業率をキチンと精査して、かつ卒業率を高めるために大学がどんな努力をしているか報告させるようにしなさい」と、NACIQIからAssociation通じて各大学に通達が来たということで、大学側はまた仕事が増えたウンザリしているようです。

アメリカの大学の卒業率

「卒業がむずかしい」といわれるアメリカでは、卒業率が高くない大学もけっこうあります。

カレッジボード(アメリカの進学情報・テスト機関)によると、ハーバード大学の「6年以内の卒業率」は96%です。これはさすがですねー。

「6年以内」が気になると思いますが、なにしろアメリカの学生は1年くらい外国に行ったりインターンをしたり、別の大学に移ったり、場合によっては休学したり、逆に3年や3年半で卒業したりといろいろあるので、日本のようにキッチリ4年で卒業というわけにはいかないのです。

UCLAUCバークレーの卒業率は共に91%。数字がピッタリ同じなので本当かしらとも思いますが、UCデービスは85%、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校はグッと下がって46%といった具合です。

ちなみにSothern Associationに含まれる名門バージニア大学は94%、ワシントン&リー大学は92%ですが、テネシー大学マーティン校は50%です。

アメリカの大学生の就職事情

卒業率を上げるために、大学はいい授業をするように先生にハッパをかけるとか、就職の世話に力を入れるとかしなければならないのですが、そもそもアメリカの大学が就職の世話をすることはそんなにありません。

日本の大学生のような就活もないし、卒業してから就職を考えるという感じなので、なかなか大学が就職の面倒を見るということもできないでしょう。

最近は、どんな仕事に就いたらいいかといったカウンセリングもやっているようですが、アメリカの大学もそれなりに大変です。

だいたい、キッチリ4年で卒業するとは限らないので、卒業率の正確な数字をとるのさえ大変だと思います。

日本の大学は、1度認可されればそれっきりでいいんでしょうか。文科省の力はやはり強大ですよねぇ。

それ以上に政治家のほうが強いっていうのが最近の報道ですが、日本もだんだん「トランプ対マスコミ」のような感じになってきていませんか?

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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