学生ビザ、入国、隔離、経済的困難・・・コロナ危機の留学生への影響
いつ渡米できるのか?
アメリカの大学はだいたい8月末から新年度が始まりますが、留学生は大学の授業にいきなり参加するのはちょっと心配ということで、夏期にアメリカの生活に足慣らしをするために英語集中講座に参加することがあります。
帰国子女やインターナショナルスクール出身者は大学入学(寮の開く日)に合わせて渡米しますが、初めてアメリカに行く人たちは6月か7月くらいに出発します。
2020年は新型コロナウィルス感染症のため、7月の渡米もむずかしいかもしれません。
2週間の隔離はどうなるのか?
現在、学生ビザは入学日の30日前には申請できることになっていますが、時間的余裕がないので、慌ただしく渡米ということになります。
いまのところ、アメリカに入国した場合14日間の隔離を申し渡されます。
ビザの申請が30日前だとすると、入学日の14日前に入国するのは不可能になる場合があります。
また、隔離される場所も、留学生には自宅もありませんので、ホテルに滞在することになりますが、初めてアメリカに入国する者が慣れない環境で2週間孤独な状態でいられるかというと、ちょっとむずかしいものがあります。
大学側も寮で隔離するとなると、どのように対処していいいかわかりません。
留学中の学生ビザは失効するのか?
現在留学中の学生の多くは、3月か4月頃に日本に帰国しています。
オンラインで授業を受けられますので、日本で引き続けて受講し(時差があるので朝5時に起きてがんばっています)、何とかクリアしています。
本来、学生ビザは5か月間アメリカを離れたら、もう一度申請し直さなければなりません。
しかしながら、アメリカの国土安全保障省は、留学生がオンラインで今学期の授業に参加していれば、5月に学期が終わるまでアメリカにいたことを認めると言っていますので、3月に帰国した人も、8月末に大学に戻るためにビザをもう一度申請しなくても大丈夫ということになります。
とはいえ、果たしてアメリカ入国のときに審査官がOKと言うか、ちょっと疑問が残ります。
日本でも外国から帰国した人たちの扱いについて、厚労省と、成田や羽田の移民局との間ではあまり連絡がうまくいっていなかったように思います。
空港に到着したときに何も言われなかったり、14日間の隔離と言われたり、しつこい質問があったりと、日を追って扱いが変わりました。
いまは落ち着いて事態を見守る時期
そこで、アメリカの大学に戻る人たちに対して、今学期が終了した5月までの成績証明書を渡米の際に持って行くように伝えることを、私たちは考えています。
それでも14日間の隔離の件は解決されません。
初めてアメリカに行く人たちより慣れているし、ビザを申請する必要もないので、入学日の14日前に渡米してどこかのホテルで過ごすことはできなくはないのですが、やはり不安です。
そんなこんなで、我が研究所としては、まだアメリカ入国に備えてどのようにすべきか明確な答えを出せていません。
幸いなのは、学生のみなさんが落ち着いて静かに事態を見守っているし、きっともう少し時間が経てば事態が好転するだろうと思ってくれていることです。
アメリカにそのまま残っている留学生もいます。
幸いにして、田舎にある大学では新型コロナウィルスも出ていないこともあり(町の大きな施設といえば大学のキャンパスしかありませんので)、残っている留学生のために寮を開けてくれています。
世界中の留学生が苦境に陥っている
アメリカにいる留学生の中には、母国の事情や金銭的事情で身動きができない人がそれなりにいます。
開発途上国から来ている留学生たちはとても優秀で、全額に近い奨学金をもらっている人たちがいます。
親の年収が100万円とか50万円というような国がザラですから、もちろん母国からの送金はほんの少しです。
アメリカでは、留学生はアルバイトをしてはいけないことになっています(勉学が大変でアルバイトをする暇もありません)。
したがって、金銭的にはいつもギリギリです。
そこへ今回のような出来事が起こると大変です。
国のロックダウンで親のお店や会社が立ち行かず、教科書や保険、お小遣いなどの少ないお金も工面できなくなったり、国のお金の価値が下がってしまってどうしようもなくなったり、そもそも祖国の親の生活が立ち行かなくなって、帰国しようにも帰れる場所がない留学生も出てきているのです。
新型コロナがもたらした混乱の正体とは?
留学生が100万人近くいるアメリカでは、留学は1つの産業になっていますが、中国とはどんどん仲が悪くなっていて、もしかしたら中国人にはもうビザを下ろさないなんてことも起こるかもしれないし(中国人学生だけで30万人以上ですよ)、教育業界ももうメチャメチャな混乱に陥っています。
新型コロナウィルス感染症は、科学の目で冷静に見て判断して対処しなければなりませんが、人間の感情が全面に出てきて(それもお金の問題)、世界中で大混乱。
もうコロナ前には戻れないとか、コロナ後はこんな国になるとか、みんないろいろ意見を言っていますが、今回、本当にわかったことは、人生は想定外だらけ、それでも情報の中から確かなものをつかみ取って自分で考えて生きて行かなければならない、ということだけです。
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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。