大学・大学院留学後にアメリカで働くために知っておきたいこと。OPTのH1bビザ(就労ビザ)について
留学生がアメリカの大学や大学院を卒業すると、OPT(Optional Practical Training)といって、「専攻分野にかかわる業種であれば、1年に限ってアメリカで就労研修を受けてもよい」という制度があります。
研修ですので、たくさんのお金をもらえるわけではありませんし、無給の場合もあります。
また、仕事に就ける業種は専攻分野に限られますので、音楽を専攻した人は音楽に関する仕事しかできないのが原則ですが、現実にはそれほど厳格ではありません。
このOPTを活用してアメリカに残りながら、本格的な就職先を探す人もいます。
大学2年生で内定?
日本人留学生のインターンをニューヨークの日本企業に紹介する会社を経営している知人がやってきて、「インターンを希望する日本人学生があまりに少ない」と嘆いていました。
アメリカの大学に留学する日本人がどんどん減っていて、さらにニューヨークの生活費があまりに高いため、学費の安い中西部の大学に行く人が増え、ニューヨークにかかわりをもつ人が少なっているとのこと。
ボストンのキャリアフォーラム(留学生を対象とした就活イベント。200社以上の企業が参加)などに見られるように、日本の企業がアメリカへ飛んで、少ない留学生をどんどん早く採用してしまうことも理由かもしれません。
日本の企業とアメリカの大学との間には、日本にあるような就職協定がないため、大学2年生の留学生に対して内定を出す企業さえあります。
就労ビザの取得は抽選で決まる
さて、このOPTの1年の間に、うまく就職先を見つけることができれば、H1bという就労ビザを申請することになります。
OPTは、アメリカという国をより深く知るための貴重な時間であるとともに、アメリカで就職先を探すチャンスでもあるわけです。
私の時代には、OPTのような制度がなかったため、留学生は卒業と同時に学生ビザが切れ、帰国しなければならず、まず就職先を探すことなどできませんでした。
就職先の会社が弁護士を雇ってH1bビザを申請してくれるのですが、最近は申請が多く、抽選になっています。
H1bビザでは3年働くことができ、とくに問題がなければ1度延長できるので、合計6年働くことが可能です。
トランプ大統領の言い分
このH1bビザに、トランプ大統領が何かと言いがかりをつけていることが話題になっています。
とくに厳しい審査をするわけでもなく自動的に更新できるのはいかがなものか、とかなんとか。
トランプさんは、このH1bビザのために多くのアメリカ人が仕事を奪われていると主張しています。
実際のところ、カリフォルニア州にあるIT企業の多くは、このH1bビザで働いているインド人や中国人がわんさかいるのです。
インド人留学生のほとんどは、コンピュータかエンジニアリング系の大学院を出てH1bビザをとることを当然として留学しています。
この人たちがいなくなったら、カリフォルニアのIT企業は成り立たなくなるという人さえいます。
余談ですが、カリフォルニアのIT企業のエンジニアというのは、そのほとんどが男性・白人・インド人・中国人で、女性・黒人・中南米系はとても少なく、これを差別だと騒ぐ人も少なからずいます。
理工系は優遇される?
アメリカで学んでいる留学生は、昨年7%減ったそうです。
このトランプさんの話と無関係ではないというウワサがしきりです。
また、昨年の11月に「H1bビザをもつ人の最低年収を90,000ドルとする」という新しい法案が出ました。
いまは60,000ドルですが、90,000ドルとなると、すなわち企業がそれだけ支払わなければならないということですから、相当レベルの高いエンジニアでないと、企業のほうも雇えません。
まず大学院卒以上で、大卒くらいじゃムリです。
これから議会にはかって正式に認められるかどうかというところですが、これはトランプさんが手を回したものなのか、だれかの忖度なのかわかりませんが、ちょっとむずかしい話になりそうな気配です。
同じく昨年、これに関連した新しい法律が施行されました。前述のOPTですが、STEM(※)系の分野は、1年ではなく3年間OKというものです。
これってどういうことでしょう?
企業はエンジニアを3年間、インターンとして安く使えるってわけ?
この法案はトランプさんが大統領になる前に提出されたものですが、H1bビザとどういう関係になるのでしょう。
(※)STEM:Science, Technology, Engineering, and Mathematicsの略で、いわゆる「理工系」のこと。「ステム」と発音する。
すったもんだのアメリカから有能な人材がカナダに逃げているなどという報道もありますが、カナダには90校しか大学がありません。
大学が4,000校もあるアメリカとでは、根本的な話が違います。
当研究所からの留学生の中にも、ちゃんとこの3年間のOPTの制度を活用して、しっかりアメリカで力をつけようとしている人たちがいるのです。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。