推薦状を書きたくない?!アメリカ留学を妨げる日本の「忖度」
アメリカの大学には、日本のような入学試験はありません。
SAT®と呼ばれる全米標準のテストがありますが、複数回受けられます(アメリカ人は2回くらいしか受けません)し、このスコアで足切りということもありません。
それではアメリカの大学はどのようにして合否を決めるのかというと、書類審査によって一人ひとりの出願者を評価して判断します。
この書類には、願書、エッセー(自己アピールの作文)、推薦状などがあります。
今回は、この「推薦状」という日本ではあまり馴染みのないものについてお話ししましょう。
アメリカの大学出願に必要な推薦状とは
「推薦」というと、日本では指定校推薦というイメージがあって、推薦するほうも、されるほうも、何か責任を伴うような感じですが、アメリカの大学に提出する推薦状は、書いた人に何らの責任も生じません。あくまで出願者の学力や性格、際立った能力について書くものです。
アメリカの大学に1年生として入学する場合、だいたい2人の高校の先生に推薦状を書いてもらいます。
日本の大学受験で提出する調査書にあるような、「協調性」とか「責任感」とかいった項目にチェックを入れてもらい、それに加えてちょっと長いコメントを書いてもらいます。
書いてもらう人は、高3の担任の先生でもかまいませんし、高2・高1のときの担任で、よく書いてくれそうな先生でもかまいません。
推薦状を書きたがらない日本の先生
ほかには、英語の先生や部活の顧問の先生などにお願いすることになりますが、英語の先生の中には英語で書くのをためらう人もいます。
また担任の先生が、英語の先生に翻訳してもらうのを嫌がることもけっこうあります。
日本の先生たちには、英語アレルギーの人がいまだに少なくないのです。
アメリカの高校の先生は、推薦状を直接大学に送るので、何が書いてあるのか出願者にはわかりません。
しかし日本では、とりあえず出願者が先生から推薦状を受け取って、他の書類と一緒にアメリカの大学に送りますので、どのようなことが書いてあるのか、どの程度の英語で書いてあるのかがわかってしまいます。
このことが、先生がためらう一つの要因と思われます。
また、日本の先生はとても忙しく、他の先生に余計な仕事(英語の翻訳など)を頼むのが心苦しいという人もいます。
「国際コース」と銘打っているのに、「推薦状を書くのがたいへんだから、推薦状を提出しなくていいコミュニティ・カレッジ(公立の二年制大学)に留学してもらうほうがいい」などと公言してはばからない先生もいて、「国際化」もなにやらあやしいものだと思わざるを得ません。
推薦状では褒めちぎるのがアメリカ流
当研究所では、推薦状のひな形を用意していて推薦者に日本語で書いてもらい、それを英訳して提出書類として作成し、サインをしていただくという方式をとっています。
「責任感」などの項目には、
Below Average
Average
Good
Very Good
Excellent
Outstanding
Top Few
のうちいずれかにレ点を入れてもらうのですが、日本の先生がたはGoodにチェックする傾向があります。
なんとなくそうなってしまうのでしょうが、アメリカの先生はもっと褒めちぎりますから、Goodくらいでは損をしてしまいます。
また、アメリカで「チェックを入れる」というとレ点を入れるのですが、○を書く先生も多いのです。
私がアメリカの大学院に留学したとき、初めての中間テストで正しいものに○を、間違っているものに×を書いて、ひどい成績をとり、「?」と思っていたら、先生から呼び出しを受けて(先生もなにかおかしいと思ったようで)、正しいものに×を書くべきだったことがわかり、「日本では正しいものに○をする」という私の主張が理解されて、笑ったことがあります。まあ、これは余談です。
アメリカの大学院に留学する場合
アメリカの大学院に出願する際には、3人の推薦状が必要です。
アメリカのある従姉妹が、1人はコロンビア大学、1人はリベラルアーツ・カレッジのピッツァー大学に在学していて、2人とも大学院に進学することになりました。
コロンビア大学はとても規模が大きく、教室も大きな講堂なので、推薦状を書いてもらう先生を探すのがたいへんです。
一方ピッツァーの子はキャンパスを歩いていても、先生がたが「スタンフォードに行くのか、推薦状を書くぞ」と声をかけてくる、という話を聞いたことがあります。
日本でも、大規模大学では先生と話をする機会が少ないので、推薦状を書いてくれる先生を探すのに苦労します。
大学の対応もまちまちで、東大あたりになると、推薦状にキチンと封をして、封筒の糊付け部分にサインをして開封できないようにしてきますし、私立大学には、「下書きを書いてこい」とか「例文をもってこい」とかいうこともあります。
精神的負担が伴う日本の「推薦」
出願者が社会人の場合は、上司の推薦状もあるほうがいいのですが、終身雇用という観念の強い日本では自分がやめる会社の上司に推薦状を頼むのはとても難しいことです。
したがって前の上司とか、それこそやめてしまった上司に頼むことになるケースもたくさんあります(それでもまったく差し支えありません)。
オンラインで出願する大学院の場合、推薦者の名前とメールアドレスをオンライン願書に入力すると、そのアドレスに対して、大学院側から推薦状依頼のメールが届くということもあります。
こういうやりかたに慣れていない人は、メールが届いただけで尻込みしてしまったりします。
推薦状を書くということに慣れていない日本では、頼むほうも頼まれるほうも精神的負担が大きくて、こんなこともアメリカ留学の1つの妨げになっているのです。
日本は忖度が過ぎて、教育の国際化も遅れているのです。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。