最近に受けた取材から見る留学のトレンド
アメリカへの留学について、つい最近、雑誌社から2件の取材がありました。
留学生は増えるのか?
1つは、「2020年の大学入試改革にあたって、センター試験の代わりにTOEFL®テストやTOEIC®といった民間テストのスコアを提出できるようになる。
もしTOEFL®テストを受ける高校生が増えるのであれば、アメリカ留学も身近になって、留学する人が増えるのではないか。栄先生の意見を聞きたい」というもの。
TOEFL®テストとは、Test of English as a Foreign Languageの略で、ETSという非営利機関によって運営されているテストです。
アメリカの大学が、英語を母語としない出願者に対してTOEFL®スコアの提出を求めています。
卒業生の1割が留学しているというケースも
じつはこのTOEFL®テスト、そう簡単に受けられるものではありません。
インターネットで受験を申し込むのですが、WEBサイトは英語で書かれていて、パスポートやクレジットカードも必要になります。
テスト時間は4時間以上にも及びます。
「だいたい、『センター試験の代わりにTOEFL®テスト』とか言う文科省の連中は、自分でTOEFL®テストを受けたことがあるのかしら!」などとワーワー言う私に、記者は困惑して「まぁまぁ、先生のご意見はわかりましたが、とりあえず留学する人は増えるでしょうか」という質問に戻ったので、「増えないでしょう、なんたってお金がかかりすぎるもの」。
「ハーバード大学の1年度の学費+寮・食費が約68,000ドル、UCLAでも約60,000ドルでしょう。ちょっと払えないわよねぇー」とついついさびしい話になりました。
なんでも海外大学進学に力を入れている中高一貫校があって、これからますます拍車がかかりそうだというのです。
いくつかの中高一貫校では、10%の子が留学しているそうです。
本当かいな? 一応、受験しただけじゃないの? 日本の大学をいくつか受けるという乗りで・・・なんて疑ってしまいました。
これらの学校から当研究所にカウンセリングに来る子もいるけど、だいたい帰国子女よねぇー、なんて思ってみたり。
考えるアメリカの学生、考えない日本の学生
私のそんなネガティブな見かたはともかく、アメリカの大学をめざす人が増えるのはとても嬉しいこと。
日本の大学はアメリカの大学に比べて、たとえばコンピュータの分野の教育は10年は遅れているような気がするし、これからの世の中はプログラミングの1つくらい自分でできないと困るでしょう。
人口がどんどん減っていく中で、たとえば不動産に対する価値観もすっかり変わってしまって(もはや駅から遠かったり田舎だったりすると不動産の価値はなく、空き家だらけなのはみんな知っているでしょう)いるのに、いまだに偏差値の高い大学に行って、大きな会社に就職して、35年のローンで家を買うなんて考えかたが刷り込まれている日本の大学生が後を絶たないなんて、どうかしているのでは? と考えてしまいます。
アメリカでは、ほとんどすべての大学でコンピュータを専攻したり、選択科目として学んだりすることができます。
さらに音楽&コンピュータとか、コンピュータ&哲学というように、異なる2つの分野を専攻できます。
専攻は2年生の終わりまでに決めればいいので、アメリカの学生は、大学に入ってから、自分が何をしたいのか・どういう道に進みたいのか、よく考えなければなりません。
かたや日本の大学はベルトコンベア式で就活まで面倒を見てくれるので、学生は何も考えなくていいわけです。
普通の子に留学してほしい
中高一貫校のよくできる子が東大とハーバードを受ける、というような話ではなくて、ごく普通の高校生がアメリカの大学に進学する道を考えてもらいたいと思うけど、むずかしいのかなぁ。
当研究所からアメリカの大学に留学している子たちは、カウンセラー陣のがんばりで、みんな大学から返済不要の奨学金をもらって、地方から上京して東京の私立大学に行くくらいの費用で留学できていますよ。
そうでないと、留学は現実的ではないでしょう。そんな話もしましたが、これについては記事にとりあげられませんでした。
やっぱり来たか、フォーダム大学についての取材
もう1つの取材は、最近話題になっている、とある人のロースクール(法科大学院)への留学に関することです。
留学先のフォーダム大学は、トランプ大統領が大学1・2年生のときに在学していた大学です。
彼はその後、ペンシルバニア大学に編入しました。
フォーダムは、なかなかいい大学で、入学するのもそれなりにむずかしいと思います。
さてアメリカのロースクールには、LL.Mという1年のコースとJDという3年のコースがあります。
今回、フォーダムのロースクールに留学する人は、LL.Mにまず入って、そこからJDに編入するのだそうです。
アメリカでは、JDを終えた人がLL.Mのコースに行くことはありますが、LL.Mを終わった人がJDに編入するという話はあまり聞いたことがないので、「やっぱりアメリカは何でもありよね」と思いました。
私たちの研究所も、この「何でもあり」を利用して、アメリカの大学に出願する際にTOEFL®スコアを値切ったり、返済不要の奨学金を掴みとったりしているのですけど。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。