ホント!? 名門大学の医学部が全学生の学費を無料に!
(2021.2.1更新)
Photos:Diego Delso
少し前のことですが、アメリカの名門ニューヨーク大学(通称NYU)のメディカルスクール(医科大学院)が、「すべての学生の学費を無料にする」と発表したことが大きな話題になりました。
アメリカの大学の医学部とは
アメリカは「17・18歳で医者になることを決めてもらっても困る(そんなに早く将来の道を決めつけるべきではない)」という考えがあって、医学部は大学院にしかありません。
大学では何を専攻してもよく(音楽でも哲学でもアートでも、もちろん生物学でもOKです)、生物学、物理学、化学の科目をある程度とっておけばメディカルスクールに出願できます。
ただし、成績がよくなければいけません。
メディカルスクールをめざす大学生は、すべての科目において98点以上を狙って勉強しています。
4年間、一般教養から自分の専攻科目、生物学や化学など、それぞれ100点近くキープするのですから、大変な努力が必要とされます。
もっともアメリカの学生は、大学でよい成績を残すことが、その後の進路(大学院進学から就職まで)に重要であることがわかっているので、勉強にはとても熱心です。
当研究所でアメリカ人のインターンを採用するときの1つの選考基準がGPA(成績の平均値。4.0が最高点)です。
どの応募者もたいてい3.5以上ありますが、先日インターンシップを終えて帰国したオハイオ州立大学の学生のGPAは4.0でした。
すごいねぇー。
日本人よりもシャイでまじめで静かで、とても大学3年生には見えないおとなしさで、与えられた仕事をピチッとこなします。
その上日本語はペラペラです。一般に日本の人が抱いているイメージとはまったく異なるアメリカ人です。
このようなアメリカ人が、じつはワンサカいるのです。
全然違う! ニューヨーク市とニューヨーク州
Photos:NordNordWest
さて、NYUのメディカルスクールの学費は無料になっても、生活費は自分でまかなわなければなりません。
寮・食費で18,000ドルくらいです。
それになんたってニューヨーク市ですから、お金をつかうところは山とあります。
ニューヨークっ子はお寿司もラーメンも食べますから。
ラーメン1杯1,500円ですよ。
コンサートやミュージカルや美術館、さまざまな文化イベントなどいっぱいありますからね。
ニューヨーク市でお金をつかわないで生活するのは、たいへん苦痛ですよ。
ところで「ニューヨーク市」とは、ニューヨーク州にある1つの市です。
ニューヨーク州の州都はオルバニーといいます。
ニューヨーク市から北に車で2時間半ほど行ったところにあります。
ニューヨーク州はとても大きな州で、北のほうに行くとナイアガラの滝があり、人口1万人とか5,000人なんて町が点々とあって、熊など野生動物が生息しています。
日本の人はこういったことをあまりイメージできず、ニューヨークといえば映画などでよく見るニューヨーク市しか考えられません。
すでに学費を無料にした大学の現状
このニューヨーク州にある州立大学の1つ、University at Buffaloが、2013年度より、バッファロー市民に限って学費を無料にすることになりました。
それからしばらくたって、いくつかの影響が出てきました。
それによると、バッファロー市の高卒者の入学率は上がったが、途中で大学をやめてしまう学生が増え、卒業率も下がったということです。
NYUのメディカルスクールと同じく学費は無料ですが、生活費は必要です。
寮・食費で約14,000ドルですから、それは親なり本人が負担しなければなりません。
ということで、必ずしも学費無料がうまくいったとは言えないようです。
タダだからとりあえず行こうという人は増えたけど、勉学の意欲を高めることにはつながらなかったということですね。
なおUniversity at Buffaloは、NYUのメディカルスクールと違って、入学基準がそれほど高くありません。
州立大学は、日本の都立高校・県立高校と同じようなシステムをとっていて、州内の希望する学生は基本的に受け入れるという方針です。
SUNYの入学基準
ニューヨークの州立大学群は通称SUNY(スーニー)といいます。
University at Buffaloを含めて、ニューヨーク州に64のキャンパスがあります。
基本的に高校でのGPAが2.0(日本の高校の5段階で3平均)以上あれば、SUNYのどこかに入学できるようになっています。
したがって日本のような受験勉強をする人もいません。
University at Buffaloよりも、ニューヨーク市に近いSUNYのほうがいいと思う人もいます。
日本とアメリカの医学部の違い
もちろんNYUのメディカルスクールの学費無料と、University at Buffaloの学費無料の話はずいぶん違います。
NYUのほうは、ハッキリ医師になるという目的意識をもち、大学の成績が抜群で、人間としての厚みを面接でアピールしなければなりません。
これから入学の競争がもっと激しくなるでしょう。
ところでNYUは私立です。
最近、日本の私立大学の裏口入学が話題を呼んでいますが、こんなこと昔からずっとあることですよねぇ。
近頃は、偏差値の高い学生はみんな医学部を受けるように高校から奨められるという変なことが起きています。
もともと何になりたいかわからず(高校生でそんなのわかる人少ないでしょう)、偏差値が高いから医学部に行って、それで医者になった人に診察してもらうなんて、ちょっとコワいと思いませんか?
あっ、そのうちAIに診てもらうようになるのか・・・。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。