情けない! コミッションが飛び交う怪しげな留学業界
SAKAEに出している奨学金を回してほしい!?
アメリカのいくつかの大学からちょっと奇妙な連絡がありました。
ある留学エージェントからメールが送られてきて、内容としては、「そちらの大学は日本人学生に奨学金を提供しているということをSakae Institute(栄 陽子留学研究所)から聞いたのだが、われわれにも提供してくれないか」というもので、「このエージェントを知っているか」という連絡です。
調べてみると、ある日本の旅行代理店がMs. 〇〇という留学カウンセラーを全面に出して留学相談をしていて、その人がアメリカの大学にメールを送ったのです。
私はこの人とまったく面識はありません。
しかも、この旅行会社はたしかこの前までオレゴン州立大学のPathwayというシステムの留学を、日本のあちこちの高校に紹介して売り出していたという記憶があります。
Pathwayという留学システム
Pathwayという方式を取り入れているアメリカの大学はいくつかあって(大規模大学が多いようです)、英語の授業をとりながら順次、大学の普通の授業をとってちゃんと4年間で卒業できると謳っているシステムで、何となく飛びつきやすく、よさそうな響きがあります。
実際はだれにでもあてはまるわけではなく、高校の成績や、IELTS™またはTOEFL®スコアによって入学不可能であったり、また半年ほど卒業が遅れたりします。
オレゴン州立大学のPathwayは以下のようになっています。
(※)GPAとは「成績平均値」のことで、この表に記載されているGPAは「アメリカ流」で4.0を最高ポイントとする。
「GPAが3.0以上」とは、日本の高校の5段階の評定平均にすると「4.0以上」になる。
また、大学の学費+寮・食費は年間だいたい50,000ドルくらいです。
お小遣いや渡航費など諸々を含めると600万円くらいかかります。4年間で卒業しても2,400万円です。
日本人にとってはちょっと高いものですねぇ。
このPathwayについて聞きたくて、当研究所にカウンセリングに来る人もいます。
彼らの多くは、このシステムが本当にうまくいくかどうかわからないし、お金がかかりすぎると話しています。
昔、Northeastern Universityというボストンにある大学が中国人学生をこの方式でワンサカ集めたのですが、中国人ばかりで英語の授業を受けるので、英語力が思うように伸びなかったり、本来の授業をとれなかったりで騒ぎになり、何人もの中国人学生が当研究所のボストンオフィスに泣きついてきました(当研究所はこの件については何の関係もないのですが、たまたま中国語をしゃべれるスタッフがいたということで・・・)。
留学生という「市場」
さて、アメリカの大きな大学は学生を募集するために広告会社を使います。
留学生に特化した広告会社もあります。
そういうところはポスターやオンラインでの広告のみならず、世界の留学エージェントをまわって〇〇大学に学生1人を紹介したらいくらコミッションを支払うともちかけてきます。
大学側はコミッションを支払っているつもりはまったくありませんが、エージェントが二次、三次と介入するとコミッションを支払うというようなことが行われていきます。
Pathwayはもちろん留学生をたくさん集めるシステムです。
州立大学にとって留学生は、高い学費を支払ってくれる人たちです(州内出身の学生に比べて留学生は2〜3倍も高額の学費を支払うことになります)。
必ずしも特定の国からたくさんの学生を集めたいと思っているわけではありませんが、その国に学生を集めるのが得意なエージェントがいたら、ドーンと100人くらい来るわけです。
エージェントにしても、同じ方式でどんどん送り出せばそれだけ楽にコミッションが入ってきます。
しかし、同質の者が集まればどうしても英語力が伸びなかったり、若者特有のいざこざが起こったりします。
そしてそんな方式も壊れ、エージェントもダメになるというようなことが繰り返し起きています。
あまりにも怪しげな「留学ビジネス」
さて元の話に戻りますが、どうもこの旅行会社は、最近オレゴン州立大学の宣伝をしていません。
学費の高さから学生が集まらなかったのでしょうか。
そこで、このMs. 〇〇という留学カウンセラーの登場です。
この旅行会社と留学カウンセラーの名のもとに、私の研究所の名前が使われてアメリカの多くのリベラルアーツ・カレッジにメールが送られたというわけです。
私は本来、アメリカに留学する人が増えてほしいと思っていますので、たくさんの留学エージェントができて、留学を盛り上げるのはいいことだと思っています。
シーンとしてしまっては、ますます留学する人の数が減ってしまいます。
「アメリカに留学するという考えかたがあるのか」と思うきっかけはたくさんあるほうがいいのです。
しかしながら、この留学業界というのは本当にどこか怪しい臭いがすることが多く、困ったものです。
エージェントができたりつぶれたりすることもとても多いのです。
奨学金をもらうために留学エージェントができること
奨学金については、どの大学もそれぞれのホームページにどのくらい授与すると書いてあります。
ただ全員とは書いていません。
成績やエッセー(自己アピールの作文)、推薦状、親の年収などを考慮しながら決めています。
当研究所では、アメリカのどの大学とも特別な契約は結んでいません。
学生も複数の大学に出願します。
そして複数の合格校の中から、最もふさわしいと思う大学を本人が決めるのです。
ある特定の大学に何人入れる、なんていうことはありません。当研究所のカウンセラーはその学生が合格できるように、奨学金をたくさんもらえるように、出願書類の質を高めて、ときには大学とも交渉します。
わざわざ当研究所の名前を使ってアメリカの大学にメールを送ることもないと思いますがねぇ。
本当にこの業界は・・・。情けない話ですよ。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。