アメリカの大学で不正入学が発覚! その巧妙な手口とは?
アメリカの大学で不正入学事件がありました。
多くのアメリカ人は、トランプ大統領の娘婿のクシュナー氏が、ハーバード大学に250万ドルの寄付をしたことでハーバードに合格できたというウワサ話をあらためて思い出し、まぁよくあることだと、当初は思ったようです。
しかし、今回のやりかたは、かなり悪質で巧妙でした。
アメリカの大学の入学審査
アメリカの大学の入学審査は、Admissions Officeという専門の部署が一手に引き受けていて、その合否判断の内容を一般に公開することはありません。
アメリカの大学は多様性を重んじるため、高校成績やSAT®などの共通テスト、推薦状、ボランティアやスポーツなどの課外活動、エッセー(自己アピールの作文)や面接など、さまざまな面を考慮して合否を決めることになっています。
優秀なアスリートを捏造?
そこで、とある教育コンサルタントが目をつけたのが、スポーツでした。
アメリカの大学スポーツは、チームが優勝したり活躍したりすると大変な宣伝効果がありますので、とくに大規模大学では、優秀なアスリートの獲得に力を入れています。
とくにプロスポーツとしても非常に人気の高い野球やバスケットボール、アメリカンフットボールの試合は、プロを凌ぐほどの規模のスタジアムで行われ、全米でテレビ放映されて、とても盛り上がります。
この教育コンサルタントは、入学希望者がまったくスポーツ経験がないにもかかわらず、高校時代にスポーツ選手として活躍したかのように見せる書類を捏造したということです。
選手の首をすげ替える写真まで用意したようですから、相当なものです。大学のコーチや監督にも賄賂をたくさん渡していました。
入学後は、病気やケガで選手として活躍できなくなったと言い訳するそうです。
SAT®などの共通テストには、試験会場の監督者を巻き込んで、替え玉受験をしたり、1つの試験会場にかかわる全員を巻き込んだりと、かなり芝居がかった大掛かりなやりかたをしていました。
いくらお金を積んでも成績が悪ければ退学
どんな方法をとって入学しても、アメリカの大学は成績が悪いと退学になってしまいます。
スポーツ選手についていえば、高校生の天才的なスポーツ選手を見つけたら、大学コーチのほうが選手にお金をあげて、我が大学に入学するように働きかけることもあります。(このことが発覚してコーチが逮捕されることもときどき起きています)。
またコーチがAdmissions Officeに対して、高校の成績やSAT®のスコアを「負けて」くれるように頼み込んで入学させたりもします。
しかし、大学の成績が悪いと試合に出られず、挙句の果てに退学になるので、コーチとしても、自分が入学させた学生にチューター(個別の補講講師)を何人もつけるなどして、良い成績をキープさせることに必死なのです。
今回の事件にかかわった親たちは、当然、大学では必死に勉強しなければならないことを知っているはずですが、入学させさえすれば自分たちの子どもは大丈夫だと思っていたのでしょうか。
クシュナー氏は250万ドルを使ったかもしれませんが、ハーバードを優秀な成績で卒業し、NYUのロースクールに入学し、MBAと法学の両方を学んで卒業しています。
医学部(アメリカでは大学院にしか医学部は存在しません)やロースクールなどに入学するためには、大学で100点満点、最低でも95点くらいの成績をキープしなければなりません。
一流の会社に就職するためにも、大学の成績がとても重要になります。
スタンフォード卒でも成績が70点ではけっこうバカにされる可能性が大きいのです。
アメリカの「教育コンサルタント」とは?
アメリカには、日本の塾のようなものはありません。
何も考えなくても自分の成績に応じて入学させてくれる州立大学が地元にあるので、それで問題ナシとする家庭も多いのです。
公立高校の進路指導も大雑把なものです(私立は基本的に大学進学校ですから進路指導もしっかりしています)。
親がとても教育熱心だったりお金持ちだったり、また、さまざまな社交クラブに所属していて、教育関係の事情に通じていたりコネクションがあったり、また子どもが非常によくできたり、といった場合は、それなりの入学方法があって(親が卒業生であったり多額の寄付をしたりすれば)いいのですが、親があまりに忙しすぎて子どもの学力に不安がある、あるいは親が変に子どもに期待しすぎたりする場合に、「教育コンサルタント」に頼むことがあります。
そんなに一般的ではなく、大学よりむしろボーディングスクール(寮制の高校)への入学コンサルティングが主です。
Independent Educational Consultants Associationという組織があって、1,900人ほど会員がいるようですが、元ボーディングスクールの校長や、Admissions Officeのスタッフという人が多く、たいてい1人でやっています。
コンサルの基本は「マッチング」といって、その子どもに合った学校を探して、入学するためのサポートをするものです。
今回のThe Edge College & Career Networkというコンサルタントは、Key Worldwide Foundationという寄付団体までつくって、親たちは寄付することで税金の控除も受けていました。
そのうち税務署も動き出すようですが、おそらくコンサルタントのほうから親たちに持ちかけた話だと思われます。
悪いやつです。
今回の件でクシュナー氏の話が蒸し返されましたが、トランプ大統領が名門ペンシルバニア大学に編入したことについても、あれこれの憶測が飛び交っています。
トランプ大統領は、自分のSAT®スコアや成績を公表せず、また各機関にも発表しないように働きかけているようです。
ところでトランプ大統領が、最初に入学した大学って知ってます?
皇室関係の話でいつも話題になる人が留学中の、Fordham Universityです。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。