アメリカと日本の一流大学を併願。その厳しい現実

アメリカの大学と日本の大学を併願する学生がいます。

アメリカの大学とよく似た学生選抜を行っている大学であれば、それも可能だと思います(国際基督教大学、上智大学の一部、慶應大学SFCキャンパスなど)。

東大とハーバード、二兎を追う高校生のプライド

しかし、センター試験も受けてアメリカの大学にも願書を出して、となると、なかなかやっかいな話です。

もちろん、どんなことをしてもスーパーにできる人はいます。

当研究所で留学準備をしながら、日本の大学への受験勉強はほとんどしないで東大に合格する学生もいますから。

でも、こういう人は本当に例外中の例外で、普通に「よくできる人」くらいだと、そうはいきません。

世の中には受験校と呼ばれる高校がたくさんあります。

そういう高校で学んでいる学生はプライドが高いのか、受験する大学はすべてトップ校です。

もっとも偏差値が高いといわれる高校に行っても、必ず東大に入学できるわけではないのですが、なにしろ希望するのも言うのも本人の勝手ですから、東大、一橋、悪くても慶應、早稲田なんていう話を堂々とします。

そしてそのついでにハーバードなんて言葉が出てくるのです。

最近はリベラルアーツの大学も知られてきたのか、ウェズリアン(Wesleyan University)コルビー(Colby College)ポモナ(Pomona College)なんていう名前も出てきます。

アメリカの一流大学が求める学生像

日本の一流大学とアメリカの一流大学とでは、受験のありかたがまったく違います。

一発受験と書類審査という違いもありますが、もともと学生の選びかたがまったく違うのです。

アメリカの一流大学が求めているのは、次のような学生です。

① 高校4年間(アメリカの小中高は「6・3・3制」「6・2・4制」「8・4制」があって、高校は4年間というのが一般的です)で、自分の夢や希望(具体的に医者になりたいなんていうのでなくていいのです)をよく考えて、その実現のために努力し、実行し、結果を残した学生。これは「学業成績」と「SAT®スコア」で評価されます。

② 社会貢献に向けて努力し、実行し、結果を残した学生。これは「ボランティア活動」に表れます。

③ 周りの人からの評価が高い学生。これは「推薦状」によって評価されます。

④ 上記の要素を満たしつつ、大学入学後も周りの学生によい影響や刺激を与える余力のある学生。

エリート高校生でも太刀打ちできないテストとは?

カウンセリングでこういうことを説明しても、受験まっしぐらで、偏差値が高い高校の、プライド高き高校生たちはなかなか理解してくれません。

アメリカの一流大学をめざすのであれば成績がよくなければならないことは、最近はかなり理解されているようですから、成績がオール5かそれに近いものをもっています。

英語は英検準1級くらい。IELTS™やTOEFL®テストでもまあまあ高得点はとれます。

あとはSAT®というアメリカ人の高校生が受ける共通テストがありますが、このテストの存在もかなり知られてきて、1回くらいは受けています。

そして、みんながつまずくのがSAT®なのです。SAT®で問われるのは数学と、英語の読解・ライティングです。

数学は日本人にとっては簡単なので、模擬テストなどで慣れれば高い点数をとれますが、読解とライティングはなかなか太刀打ちできません。

SAT®の英語は、アメリカ人にとっての国語ですから、ただ英語ができればいいというものではないのです。

たとえば、中国や韓国あるいはアメリカから、日本の中学・高校に留学してきた人が、センター試験の国語で満点に近い点数をとることを求められる、といえばわかってもらえるでしょうか。

なかなか手ごわい問題ですよ。

ハーバード合格者の2割が入学辞退!?

しかしまぁ、受験まっしぐらの人は、こういうことをなかなか理解してくれません。

「もう1度、SAT®(あるいはIELTS™、TOEFL®テスト)を受けるので、あと何点上げれば入学できるのか」と聞いてくるのです。

ハッキリ言うと、

・成績がオール5
・IELTS™・TOEFL®テスト・SAT®が満点に限りなく近い
・さまざまなボランティアをしている

これで、ようやく入学審査の土俵に立てるのです。

アメリカの一流大学には上記の条件がそろった人たちが世界中から出願してきます。

その中からプロのAdmissions Office(入学審査を司る事務所)の人たちが学生を選ぶのです。

推薦状の内容や本人のエッセー(自己アピールの作文)、場合によっては面接など、さまざまな組み合わせを吟味し、そのうえで、多様性に富んだ学生構成にしようとして選んでいきます。

ときには、何を基準に選んだの? と思うような結果もありますし、東洋系を差別したなんていうことで裁判まで起こされています。

ある大学から入学許可を得ても、奨学金の額が少ないので予算に合わないとなれば、たとえハーバードであっても平気で入学を辞退してしまいます。

ハーバードの合格者の約2割が入学を辞退しているなんて、信じられますか?

いつまで続く? テスト偏重の日本

いくらこういうことを話しても、聞く耳をもたない人がたくさんいます。

「SAT®で何点とればいいのか返事しろ」というわけです。

「たとえその点数をとれても入学できるとは限らない」なんて答えると、ふくれてしまう人さえいます。

こういう高校生をたくさんつくっている日本の受験制度は本当に嘆かわしいと思います。

日本の若者の将来が心配です。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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