大使から弁護士まで。留学生たちのさまざまな「その後」
当研究所からアメリカに留学して、何年も経ってから会いに来てくれる人がけっこういます。
30代でアートにめざめる
今日ランチをした人は、もう30年も前に留学した人で、たしか30代でアメリカの大学に編入しました。
普通の主婦だった人ですが、アートへの情熱がやみがたく、どうしてもチャレンジしたかったのです。
日本の美大に入学するのはむずかしく、また、彼女が卒業した短大の単位を認めてくれるということもありません。
それでアメリカ留学を思い立ったわけです。
アメリカでは、どの大学でも美術を専攻することができ、しかも油絵でも水彩でもデザインでも初歩から学ぶことができるので、こういう人にはうってつけです。
ただ彼女は、とくに英語の勉強を続けてきたわけでもないので、TOEFL®テストで高得点をとることができません。
いくつかの、田舎のリベラルアーツ・カレッジ(小規模の私立四年制大学)に願書を出して、「アートを専攻するんだから英語力が低くても大丈夫」とか、「彼女は大人だから、ちゃんと努力できる」、「入学前の夏に英語の講座を受けるから」とか、当研究所お得意の<交渉>をして入学が決まり、渡米しました。
彼女は、アートの才能が開花し、かつ努力家であったため、その後、名門大学の大学院に入学し、ついに博士号まで取得したのです。
スタンフォードから大使へ
2週間ほど前に訪ねてくれた人は、お役人だったときに、1年間の留学制度を利用して、スタンフォードの大学院に入学しました。
ほかにも複数の大学院から入学許可をもらったと思います。
当研究所でお手伝いしたのですが、ともかくよくできる人で、何をサポートしたのかわからないくらいでしたが、1年の留学期間を2年に伸ばし修士号を取得し、その後、国連機関を経て大使になりました。
彼女が大使になったときは、公邸に泊まれるので、私も興味本位ででかけて行ったものです。
長く国際機関にいたので、研究者のご主人とはずっと別居していて、本人がウィーンにいてご主人がパリの大学で教えていたなんてときもありました。
彼女にしても、前述の人も、子どもがいます。
普通の人からすればあまりに常識ばなれの家族だと思われるかもしれませんが、子どもたちもごく普通に成長しています。
日本はもともと単身赴任というのがザラですから、それが男性であっても女性であってもいいのです。
家族のかたちというのも本当にさまざまなのです。
TOEFL®スコア22で始まった留学
1か月ほど前に、当研究所からアメリカの大学に留学した卒業生が訪ねてくるということで、ほかにも何人かの卒業生に声をかけたら、同期(当研究所から同じ年に留学した)の人もやってきて、スタッフも一緒に昔話に盛り上がりました。
40~50代の男性陣で、「あのときの栄 陽子は、いまの自分たちより若かったわけ?」等々から始まって、「自分のTOEFL®スコアは360(※現在の20点相当)、お前は580(※現在の92点相当)あっただろう。それっておかしいじゃないか?」などと言い出して、大笑い。
「うちの研究所は、TOEFL®スコアの低い人をどんどん引き受けて、魔法のように大学に入学させるのよ」と私の自慢話が始まって、「あなたは18歳のとき、どうしようもなかった」とか、「あなたは秀才だった」とか、思い出話が続きましたが、TOEFL®スコア360だった彼も、いまやアメリカのロースクール(法科大学院)を出て、ローイヤー(弁護士)。
アメリカ留学によって人生が味わい深くなる
本当にたくさんの人が、当研究所から留学し、いろいろな世界で活躍しています。
もちろん活躍していない人もいます。みんなが成功しているわけではありません。
英語などとはまったく関係のない仕事をしていたり、仕事をしていないという人だっています。
なにしろ45年もこの仕事をしているので、もう定年になっている人や、親の遺産で細々と食べている人や、職を転々としている人もいます。
では、何のために留学したのか、ということになりますが、本来、人間が何かすることにいちいち意味があるのでしょうか。
かつて獣医だった私の夫は、「地球上の生物は、人間を含めて、何か特別の目的があって生きているわけではないよ」と言っています。
当研究所から留学した人は、おもに田舎の大学で、できない英語で、寮でアメリカ人と一緒に住み、同じものを食べ、同じ授業を受け、たくさんの挫折や悔しい思いをしながら、一歩ずつ歩いて、毎日進歩しているという思いを強くもち、いろいろな生きかた、いろいろな人種、いろいろな人がいることを身をもって体験しています。
アメリカ留学とは、深い人生を味わうという経験です。
アメリカに留学すると、アメリカのみならず世界の動きを他人事では済ますことができなくなります。
どんなニュースにも、何か思うところがあり、考えることが自然と湧いてきます。
深く味わいのある毎日、それが留学の効用です。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。