ハーバード大学が人種差別? エリート大学の光と影
ハーバード大学がちょっとしたニュースになっています。
アジア系アメリカ人の出願者に対して、ハーバードが合格者の数を制限しているのは人種差別にあたると学生団体が訴えていたのですが、これに司法省が、大学側が不当な調整を行っていたという見解を示したのです。
教育熱心なアジア系アメリカ人
アジア系アメリカ人は、あくまでも「アメリカ人」です。
要するにお父さんお母さん、あるいはお祖父ちゃんお祖母ちゃんの代にアメリカに移民してきたので、生まれたときからアメリカ人です。
アジア系アメリカ人で4代も5代も前に移民してきたというのは少なく、だいたい親が移民してきたか、仕事でアメリカに来たという人が多く、みんなものすごく教育熱心です。
日系の人は少なく、多くは中国系、韓国系、台湾系の人たちです。
アメリカはいまやヨーロッパからの移民は少なく、中南米系とアジア系の移民がここ数十年でとても多くなっています。
先に挙げたアジアの3つの国は、日本以上に学歴主義で、すさまじいものがあります。
アメリカには日本でいうところの塾や予備校はありませんが、プリンストンレビューとかカプランといった、塾に似たようなものがあって、SAT®、ACT®、TOEFL®テストをはじめ、GRE®やMCAT®、LSAT®など、大学・大学院に進学する際に受ける全米共通のテストの受験指導をしています。
全米各地の都市部にあって、通っているのは、やはり圧倒的にアジア系の人たちです。
夏休みは本国に帰って受験勉強
中国や韓国は、本国にいっぱい予備校があって、アジア系アメリカ人の高校生たちは、夏休みになると本国に帰ってこうした予備校に行って、SAT®の猛勉強をします。
ごく普通のアメリカ人の高校生は、SAT®のために特訓するなんていう考えはまったく頭にありません。SAT®は何回も受けられるテストですが、せいぜい1、2回くらいしか受けません。
4回も5回も受けると変な高校生だと大学に思われてしまいます。
そもそもSAT®というテストは、高校で学んだ基礎的なことをちゃんと理解しているか、ということを測るものです。予備校で特訓してスコアが上がるというものではありません。
SAT®の運営側も、一部の人(とくにアジア系とは言っていませんが)がテストに向かって猛勉強するので、何度も、テストの大改革を行っています。
つまり、対策をたてればスコアが上がるというものではないテストをつくりたいのですが、なかなかイタチごっこですよねぇ。
日本の教育改革も、この辺りが頭の痛いところです。
高校以外のところで特訓してスコアが上がるのなら、何のために高校で勉強するのかわからなくなりますからね。
ハーバード大学の「人種構成」
アメリカには、Affirmative Action(マイノリティへの優遇措置)といって、たとえば黒人などの人種的マイノリティの人たちを一定の割合で大学に入学させるべきだというポリシーがあります。
要するに、より勉強できる環境に育った白人より、よくない環境に育った黒人にはちょっとゲタをはかせてでも入学させるべきだということです。
これは白人への逆差別だということで、議論が絶えません。本当は合格できたのに白人だから落とされたなんていう訴えがあるわけです。
アメリカの大学の合否は、学校の成績やSAT®の点数、推薦状、エッセー(自己アピールの作文)、課外活動の成果、ときには面接など、いろいろな要素で決まります。
何をもって合格・不合格になったのかは、各大学の入学審査部署(Admissions Office)の秘密になっています。それをこじ開けるのはむずかしいことですから、もちろんハーバードは「差別をしていない、多様性を重んじて審査をしている」と反論するわけです。
では、ハーバード大学の学生の人種構成を見てみましょう。
白人 48%
アフリカ系アメリカ人 7%
アジア系アメリカ人 20%
ヒスパニック/ラテン系 11%
多人種系 7%
留学生 12%
Affirmative Actionといえば、だいたい黒人への優遇措置として始まったようなものですから、当初はアジア系アメリカ人学生の台頭なんて頭になかったはずです。
オバマさんはこの推進者ですが、トランプさんは反対しているそうです。
ちなみにUCLAの人種構成は以下の通りです。
白人 29%
アフリカ系アメリカ人 3%
アジア系アメリカ人 29%
ヒスパニック/ラテン系 22%
多人種系 5%
留学生 12%
カリフォルニア州は、人口構成もアジア系が多くなっているので、あまり問題にはなっていないようですね。
「人格」で合否を決められるか
さてアメリカの最高裁は、2つのことを条件として大学のAffirmative Actionを支持してきました。
1つは、それが「教育目的」であること、もう1つが「個々人を差別しない」ことです。
たとえば「我が校は45%の白人と10%の黒人と10%のヒスパニックが欲しい」というように定員を設けることは、個々人への差別につながるからダメということです。
ハーバードをはじめエリート大学は、これら2つの条件を満たしていると主張しています。
これに対してハーバードを訴えた側は、ハーバードはこの条件を満たしていないと言うのです。
なぜならハーバードの入学基準はとても曖昧で、非常に優秀なアジア系アメリカ人を、「人格」のように正確に評価できない指標でもって不合格としていて、つまり個々のアジア人の子孫を差別しているからだということです。
この問題、カリフォルニアのIT企業も、エグゼクティブやエンジニアには、白人男性とインド人男性、ほかアジア系男性が圧倒的に多く、ヒスパニック系と女性は非常に少ない、という話と何か共通したものがありますね。
ハーバードの学生とか有名なIT企業の役員になることと、人間の幸福感というものとは、必ずしも一致しないと思いますが、いかがなものですかねぇ。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。