女性の留学 -第5回- 留学という選択肢

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これからの女性たちの課題

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あるお父さんが短大生のお嬢さんの留学のことでカウンセリングに見えました。

「私は基本的には娘の留学に賛成しています。これからの女性は、ちゃんと一生働ける準備をして結婚しないといけないと思います。」 と言って、次のような話をされるのです。

――これからは、家族や社会や国のために生きるというより、自分自身の生活を楽しむという時代になるので、おのずと夫婦それぞれにお金がかかる。また、子どもにも中流かそれ以上の教育を受けさせ、生活させようとすると、これまたお金がかかる。

要するに消費する時間やお金が膨大になってくる。今の五十代以上の人たちにはかなりの蓄えがあって、それで助けられて四十代、三十代、二十代の夫婦が子どもを育てている。つまり、おじいちゃん、おばあちゃんが孫のめんどうをみているということなる。

でも今の四十代、三十代の人がおじいちゃん、おばあちゃんになったときはどうなるのか。団塊の世代が老人になる頃には、人口の四分の一が老人で、若い人の負担が大きくなり、厚生年金や国民年金などの制度もあやしくなるといわれているくらいだから、どれだけ孫に対して援助できるかわからない。

また、その他の世代の人は賛沢の味をしめていて、自分たちのぶんを削って子どもや孫にどれだけ援助するのか、はなはだ疑問である。

そうなってくると、やはり夫婦でかなりの経済活動をおこなって収入を得ないと、難しい状況におちいることになる。だから、これからは女性はもちろんのこと、人間はすべてプロとして通用する技能や才能をみがいて仕事に就くべきではなかろうか。――

お父さんのお話は、何かきちんとした資料に基づいているらしく、たいへん興味深いものでした。しかし相談のポイントはそこにはありませんでした。

「ですが、はたして私の娘はそこまで考えて留学を志しているのかどうかは疑わしく、ただ憧れだけで留学したいと言っているような気がします。」 結局、もう少しお嬢さんの考えがまとまって、充分に留学への準備ができたときでいいのではないかということで、とりあえずその娘さんの留学は先送りになったのでした。

さて、しかし、このお父さんのお話は、これからの女性にとってたいへん重要な意味があるのではないかと思います。

すなわち、人間としての生き甲斐だの何だの言う前に、現在の日本人の消費生活の水準を保つためには、まず、普通のサラリーマン家庭なら、旦那さん一人の収入ではとてもやっていけないということです。

将来の話でなく、いま現在だって、若い夫婦が親と同居せずに東京で暮らしていくとなると、とてもとても二人で働いたって、家など買うことはできません。もし子どもができて、教育を受けさせるとなると、親の援助があまり期待できない世代の夫婦では、大変なことになります。

奥さんがパー卜で働いて、しかも旦那さんの家族控除の枠を超えない範囲でなんていう収入の程度では、とても補えないでしょう。娘時代に暮らしたように毎日の生活をまずまず送り、そして自分たちの子どもにも自分が育ったようにしてやるには、大金がいるのです。

家つき親つきの大金持ちのぼんぼんと結婚して……なんて、まあ空想するのは自由だけれど、仮にそれが現実になったとして、お金には困らなくとも、どれだけたくさんの、そして、いつまで続くか想像もつかない精神的な抑圧を経験しなければならないか、というところまで含めて空想した方がいいんじゃないかしら。

二十や三十で、親と何の関係もなく大金持ちなんていう男性はまずいないし、そんな人がもしいたら、ろくなことはない。気をつけてください。

そういう人は、もう自分は天才だ、神だと有項天になっていて、自分にできないことはないと思いこんでいますから、問答無用で奥さんの役割を決めつけてくるでしょうし、奥さん一人だけなんてことはなく、いくらでも外で女性関係をつくる。

それに人間いいことばかりが続くわけではないので、そういう人が落ちこんだときは、もう見られたものではありません。 財をなす人は、年齢とともに、というのが一番いいのです。

経済的なものを男性にだけ求めてはいけません。社会の仕組みが、そういうわけにはいかなくなっているのです。旦那さんにたっぷりお金を稼いでもらおうなんて、そもそも考えないこと。

ある水準の生活を保つためには、自分も稼がなければいけません。結婚する前に、あるいは子どもを産む前に、女性も一生続けられる仕事を用意する時代になってきたのです。

めぐまれた社会環境にある日本女性たち

今の日本女性は、世界でいちばんめぐまれた社会環境で生きているように思います。 生き方にどんな選択もできるからです。

働きたければ、質の問題は別として、働き口はたくさんあります。主婦になりたければ結婚紹介所がわんさとありますし、最近は男性がいっぱい余っているというではありませんか。

離婚だって平気です。肩身が狭いのなんのっていうこともなくなったし、離婚を支援する団体もあるし、昔のように離婚歴を隠して生活しなければならない時代でもなくなりました。

私のまわりには、離婚した女性が、子連れで、しかも初婚の男性と再婚するというケースもちらほらあります。独身で通そうと思ったら、これまた大丈夫。独身女性も一杯いて、とくに独身だからという理由で目立つこともなく、みんな社会の中で立派に生きています。

年とったら一人ぼっちでどうするんだろうなんて、余計なお世話。今はあちこちに独身女性のグループがあり、いっしょに老後を暮らす土地を探したりお墓をつくったりしていて、これからますますそういったコミュニティができあがることになると思います。

大人になったら社会に出て、社会を背負って立たなければと、なぜか思いこまされている男性と遠って、女性は、国を背負って立とうと、会社を背負って立とうと、はたまた頼りがいのある男性にすがって全部お任せして生きようとかまわない。

ともかく好きなように選択できるのです。

選択の幅が広いほど人生はおもしろい。それだけ悩みや迷いも増えるわけですけれど。

OL留学が盛んなのを見てください。いま、OLの退職理由で一番かっこいいのは「一身上の都合」ではなく、「留学」だそうです。

OL留学が盛んになったのは、会社で充分に能力を発揮できない女性が、仕事や待遇、地位などの現状に飽き足らずに外国へ行くのだという説があります。でも本音は、飽き足らずなのか、飽きたのか、、、いずれの理由でもかまいません。

単にお金がたまったからという理由でも、ただなんとなく外国に住んでみたいという理由でも、英語がもっと上手になりたいという理由でも、あるいは失恋したからなんていう理由でも、ともかく本人がその気になれば行けるのです。

一〇〇万円くらいのお金は、その気になればすぐ貯められるし、ローンでもすぐ貸してくれる。

心配だという感情的な反対が親にあるだけで、会社を辞めて一生だいなしにならないかというような周囲の反対もなく、また上司から出世のさまたげになるからよせと意見されることもなく、帰国後の就職先がないなんていう不安もなく、それこそ本人の気持ち次第で決まるのです。

主婦の留学だってそうです。夫さえゴーサインを出してくれれば実現します。お金は自分で稼いだものでも、夫または親からもらったものでも、はたまたヘソクリでもいい。夫を連れて行く必要もなく、残していくのに経済的負担を考えなくていい。

自分のぶんさえまかなって、自分か勉強してくればいいのです。

しがらみが多い男性たちは留学もままならない 逆に、どうして男性のサラリーマン留学は盛んにならないのでしょうか。

男性の場合は、それこそ何年かにわたって奥さんに給料をとりあげられていますから、へそくりなんてない。たとえあっても知れたもので、結局、自分のためにだけつかえるお金の蓄えは、ほぼありません。

そのうえ、留学先に家族を連れて行くにしても、日本においていくにしても、その経済的負担を全部負わなければなりません。

それどころか、家族の理解を得るための説得が大変です。奥さんは、「わたしたちの将来はどうなるの」なんて言いだすかもしれません。また、奥さんの親や兄弟から、「妻子を路頭に迷わせる気か」と意見されることだってあるのです。

また、いま勤めているような条件の良い会社には、留学後はもう二度と入れないかもしれない。出世街道を歩いてきたのに、一度この道から外れると、将来にどうつながるかわからない。

会社の同僚達からは「よく考えろよ」とか「勇気があるな」とか言われるし、上司に呼び出されて男の道をこんこんと諭されるかもしれないのです。

たとえ奥さんが賛同してくれたとしても、やはり本人は悩みます。

カウンセリングの際、このような男性から「人生のこの時点で、会社を辞め妻子を置いてアメリカに踏み出すことをどう思われますか」と、真剣な顔で質問されることがよくあります。

こちらの質問に、明るい笑顔で「主人がいいと言ってくれましたので」と答えられる主婦たちとは大違いなのです。

若い女性にとってアメリカは危険なところか

ところで、女性が留学して殺されるとかレイプされるなんてのは論外のお話なのですが、アメリカは危険なところだから留学させるのは心配だと言う人がたくさんいます。

確かに絶対安全などと言いきれるわけがありません。以前、日本人の女子留学生が殺されるという事件もありました。しかし、だからといって、アメリカ人が全員拳銃をぶら下げて歩いているかのように思いこむのも、とんでもない。

危険だと言いだしたら、日本でだってOLや女子学生が殺される事件はたくさん発生しているわけで、こういう次元の話になると、東京でもアメリカでも同じように危険だということになってしまいます。

しかしアメリカは危険なところだと言う人にかぎって、アメリカを理解していないように見受けられます。

実はアメリカ人の中にもニューヨークやロサンゼルスは怖いと思っている人がいっぱいいます。でも留学生は、そういう都会ではほとんど暮らしていないのです。

とくに私の研究所では、都会より田舎の学校のほうが勉学に集中できるという理由で、留学生を都会の学校に送りこむということは、まずありえません。若い女性ならなおさらです。

アメリカの地図を頭に描いてみてください。ニューヨークやロサンゼルスは点にしかすぎません。カリフォルニア州に日本がスッポリ入ってしまう大きさです。アメリカの大部分は、大自然であり、小さな田舎町なのです。

その大きな土地柄のせいで、アメリカは寮制の学校がたいへん発達していまして、それこそ何もない山の中にポツンと学校があったりします。

アメリカの田舎町は人口六〇〇人とかせいぜい二〇〇〇人とかいうのがいっぱいあって、鍵もかけない生活をしているところだってあるのです。だからアメリカ人がみんな拳銃を持って歩いているような想像はまずしないほうがいいのです。

その昔から、アメリカ人は世界じゅうの若者を受け入れ、家族同然に扱ってきました。ホームステイの問題点のみを大きくとりあげているむきもありますが、日本人はどれだけアメリカの懐の大きさにお世話になってきたか考えてみてください。

逆に、日本人はホームステイと称してアメリカ人を、あるいは東南アジアやアフリカの人を、ぽんと引き受けて家に置き、鍵を一つ持たせて家族同様に扱うことができるでしょうか。

アメリカ人は、日本がこんな大国になるずっとずっと以前から、そして今も、日本人だけではなく、貧しい小さな国々の若者をホイと引き受けて、鍵を持たせて同じものを食べさせて生活しているのです。

そういったアメリカの懐の大きさや平和さを知っているくせに、一方でアメリカは危険だとワーワー騒ぐのはどうも不思議なことです。

私たち日本人は、とてもよく似た人間ばかりで構成されています。考え方や生活の基準がみんなほとんど同じなのです。たいそうな大金持ちとか、肉体労働をしている人とかの差はあっても、その生活はけっしてそんなに違わない。

みんな子供の幸せと成長を願いますし、みんな朝はおみそ汁にご飯、お昼はおそばかカレーか、といったような生活をしています。

ですが、日本以外の国々は、アメリカも含めて、どこもお金持ちといえばお城そのものかそれに近いものに住んで使用人が二〇人もいるというような存在ですし、貧乏といえば数万円で人殺しを請け負うというようなこともあるわけです。

そういった差が世界にあるということをちゃんと知っておく必要があるわけで、やみくもに危険だと言ってもしょうがないのです。

アメリカも中流のちょっと上くらいの人が主流を占めていて、みんなアメリカを愛し、平和な世界を望んでいます。キリスト教精神で一生懸命生きている人たちがたくさんいます。

そういった人たちに囲まれて留学生活をしているかぎり、とくに危険というようなことは見当たらないわけです。

選択肢の一つとしての留学

でも、どうしても

若い女性が留学するとなると、アメリカ人の男性にだまされたらどうするの?

身を持ちくずして今はバーなんかで働いてて……なんていう子もいるんじゃないの?

というような心配も出てくるようです。

興味本位の雑誌でそういう実例がまことしやかに紹介されたりするものだから、ますます不安はあおられるわけです。

年に何万人もアメリカへ「留学」する今の日本の事情から考えて、「留学」と称してアメリカに渡り、わずか二、三か月間通うはずの語学学校にさえ通いきれずに、別のことにうつつをぬかしはじめてしまう女性がいたとしても、まあ不思議とはいえません。

一つには、きちんとした受け入れ先の大学も決めないで、旅行感覚で「留学」と称して渡米してしまったら、当然そういう結果にもなるだろうということがいえます。

それはアメリカの男性にだまされたというより、日本の留学エージェントにだまされたともいえないことはありませんが、そういう女性は、日本にいたらいたで、やはり同じようなことをやっているのではないかとも思います。

善悪はともかく、そういうケースでは、日本の純真な女の子がだまされているのか、それともだまされたような体裁をつくりながら、じつは純朴なアメリカ青年を相手に遊びほうけているのか、これはわかったものではありませんし、バーなどで働いていても飽きれば日本に帰ってきて充分生活していけるし、そのうえ日本のほとんどの中流家庭では、そういう女性がまたすっぱりお嬢さんにおさまって、お嫁に行けるのです。

それだけの国力が今の日本にはあるということにもなりますが、よくよく肝に銘じておいていただきたいのは、いまの日本女性には、アメリカの大学院で学位を得ることもできれば、体裁よく遊んで帰ってくることもできるということです。

どういう方向を選ぶかは、それぞれの女性の心がけしだい。

ただし、私の研究所では、より高いものを目指す方向でしか留学のお手伝いはしない、ということなのです。

日本の女性には、一つの選択肢として留学の道が開かれています。しかしこれはけっして安易なものではありません。選択する以前に、少なくとも近い将来女性が負うことになるであろう経済的な厳しさについての認識がなくてはならないだろうと思います。

あなたの人生、留学に賭けてみませんか?

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栄陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院教育学修士課程を修了。帰国後、日本で留学カウンセリングを立ち上げ、留学指導を行い、これまでに7000人以上の留学を成功させる。留学関係の著作も多数。 » 栄 陽子留学研究所について