女性の留学 -第3回- 英語力と学力は別問題

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英語力がすべてではない

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「あなたの講演はすばらしいけど、ここにいる半数の人は理解していないよ」 と、ある大学の教授に言われてショックを受けたことがあります。

留学に関する間違った思いこみ、一部の興味本位の雑誌記事などに基づく誤解や不安、アメリカとアメリカの教育事情についてのとんでもない先入観が、どれほど根強く留学希望者の頭に巣食っているか、慄然(りつぜん)とします。

これではカウンセリングを受けるチャンスさえ潰してしまうことになりかねませんので、私は機会あるごとに、これらの誤解を解き、アメリカ留学についての正しい基礎知識を提供するよう努めているのです。

とくにアメリカの教育のあり方、考え方を知ることが留学の前提になりますから、講演ではそういった内容の話をすることにしています。

アメリカの大学に入学すると、一年生の初めの九月から十二月の秋学期にだいたい五つの教科の単位を取得しなければなりません。

たとえば、

  • Freshman English 一年生の英語(※アメリカ人にとっての国語)
  • Biology 生物
  • Economy 経済学
  • Amrican History アメリカ史
  • Spanish スペイン語(※アメリカ人にとっての外国語)

という五教科をとるとします。

日本人にとってどのクラスがやさしくて、どのクラスがむずかしいでしょうか。

まずやさしいのはスペイン語です。この場合は仮にスペイン語としましたが、外国語であればフランス語でもイタリア語でもかまいません。

なぜならアメリカ人も外国語は初級から習うわけです。つまり私たちが初めて英語を習ったときと同じように、数の数え方や「This is a pen.」から習うわけですから、日本人でもアメリカ人でも土俵は同じ。一生懸命勉強すればちゃんとついていけます。

生物学は、日本の中学・高校で習ったものとほぼ同じですから、教科書にかいである絵や図を見たり、各章や見出しのタイトルを辞書でひけば、アメーバだとか血液の循環だとかメンデルの遺伝の法則だとか、すぐにわかるのです。

血液の循環を習っているときには、血液の循環の図でもかいて、辞書片手のどんなヘタな英語でもかまいませんから、先生に自分はその内容がわかっているということを知らせなければなりません。

先生は「この生徒は血液の循環のことを理解しているな」とわかれば、こちらの英語がどんなにおかしくてもスローでも、ちゃんと点数をくれます。生物の先生ですから、生物がわかっているかどうかを知りたいわけで、英語力そのものに点数をつけるのではありません。

ここで注意しなければいけないことは、中学・高校で日本語で習った生物をきちんと理解できていない人は、少々英語が得意でも、ひどい点数しかとれないだろうということです。

それと同じことは経済学についてもいえます。経済用語を知っているかどうかで、理解度に天と地の差が出てしまいます。

アメリカ史はどうでしょうか。留学する前にアメリカの歴史の流れをいちおう頭に入れておくと、ずいぶん助かります。日本語でパッと見られる年表などを持っているのも役に立つでしょう。

しかし、アメリカは日本と違って歴史が浅いので、テストにはたいへん細かい人名や地名が出題され、日本人にはなかなか苦手な科目となります。

また、「これこれの状態のとき、あなただったら戦争をしただろうか、あるいは他に方法はなかっただろうか」といった意見を書かせたり、ディスカッションしたりという教育方法がとられるので、ただ単に事実を調べて暗記するだけでなく、常に自分も歴史の主人公になって考えていかなければなりません。

「勉強」イコール「考えること」というのが、アメリカ流の教育の最も大切なポイントなのです。

このようにみてくると、アメリカの大学で勉強するということは、単純に英語力だけが問題ではないということがよくわかるはずです。

アメリカの大学では英語力をつけさせるのではなく、あたりまえのことですが、学力をつけさせるのです。

さて、最後に残った「一年生の英語」が、私たち日本人にとってはいちばんむずかしくて、だいたい悪い点数しかとれません。

他の教科の先生は、それぞれの担当教科の内容について生徒が理解しているかどうかを知りたいのであって、英語力に点数をつけるわけではありません。

でも、この科目だけは、ずばり英語力そのものに点数をつけるのです。

しかもたいへん厳しく、aやtheが一つ間違っていても、印の不足やスペルの違いがあっても、みんなどんどん点数を引かれます。これこそわれら日本人留学生にとって最も苦手とする科目なのです。

TOEFL®スコアと大学のレベル・合否とは無関係

それから私の講演では、アメリカの大学が全部単位制で、年月ではなく取得単位の数で学年や卒業が決まるという話や、日本の短期大学からアメリカの大学に行く場合の単位の計算方法を説明します。

そしてアメリカ人が大学に入学するときに何を基準に大学のレベルを決めるのか、いわゆる自分はハーバード狙いだとかカントリー・カレッジ志望にするとかの話があり、前節で述べたような入学がやさしいといわれるカラクリや卒業がむずかしい理由、英語集中講座で学んで英語力がうまく伸びない理由などを二時間くらいかけて話すのです。

私は全部本音で話をしているのですが、聞いている人の大半は、そういう本質的なことにはどうもうわの空になっているようです。

では何を期待しているかというと、「TOEFL®が何点ならどこの大学に入れる?」というような話のようです。

私の話は、そのようないわばTOEFL®信仰とでも呼ぶべきまるきり誤った先入観を捨てて、留学をきちんと本質的なところで考えてほしいということなのに、これでは講演内容が理解できなくて当然。

でも私としては、忍耐強く同じことを何度も喋らなくてはなりません。

TOEFL®は、英語力をはかるテストで、ニュージャージー州プリンストン市に本部のあるテス卜協会が主催しています。全世界の主要都市で受験でき、日本では東京にあるTOEFL®の事務局で申込書を入手できます。

通常、TOEFL®のスコアは、二年制大学で45~60点(※iBTスコア換算)、四年制大学で60~80点を要求されます。TOEFL®の協会では全米の大学に向けて、60点以上がなんとかやっていける最低の英語力であると発表しています。

しかし、60点以上というのは英検1級よりも難しいものなのです。日本人で普通に高校を卒業した人ならば、大抵の場合は20~32点です。

留学を志す人は、まずこのテストを受けることから始めなければなりません。その成績が入学審査の大切な要素の一つになるからです。

しかし、TOEFL®のスコアと大学のレベルとは必ずしも関係があるわけではないのです。あくまでも英語の能力テストであって、学力をあらわすものではありません。本人の学力を無視してただただTOEFL®の点数だけで審査するなんでありえないのです。

ところがTOEFL®のスコアで志望者をそれなりの大学へ振り分けてしまう留学エージェントもあって、雑誌などでもそんなふうに紹介されていることがあります。

そのせいでしょうか。このテストをまるで大学の入学試験と間違えたり、そのスコアが学力の偏差値だと勘違いしている人がたくさんいます。

大学が入学許可の最低条件としてTOEFL®60点を要求しているから60点あればアメリカのどの大学にも入れる、ハーバード大学が100点ぐらいを要求しているのだから、100点でハーバードだなんて考えている人がとても多い。とんでもない間違いなのです。

そもそもハーバードに入学するためには、アメリカ人の学生はみんな各高校でトップクラスの成績(※10段階評価でほぼオール10に近いもの)が必要なのに、もしTOEFL®で100点とれる外国人がみんな入学できるとしたら、ハーバードは外国人の入学天国になってしまいます。

そんなことはけっしてありません。たとえTOEFL®で120点の満点をとったって、高校の成識が3や4ばかりでは入学させるはずがありません。

また、TOEFL®で60点以上をとったからといって、突然英語がすごく出来るようになってアメリカの大学の授業がスラスラわかるようになるというものでもありません。

日本語で聞いてもわからない授業を英語で聞いたら、いくら英語ができる人でもやはりなおさらわからない。あたりまえのことじゃないですか。

逆に、私がしばしばこういう話をするものですから、TOEFL®を受けなくても入れてくれる大学はありませんか、などと聞いてくる人もいます。

よほど英語力に自信がないのか、TOEFL®にプレッシャーを感じているのか、少しでも楽をしたいのかわかりませんが、とにかくTOEFL®を受けることは自分の英語力を知るのにいちばん良い方法なのです。

落ちるとか落ちないとかでなく、ただ点数が出てくるだけです。受験後二か月ほどで結果がわかります。で、30点くらいなら平均的な日本人の英語力かなと思っていればいいのです。

大きな都市では毎月受験できますから、何度でも受けてそのなかでいちばんいいスコアのものを学校に出せばいい。まずはチャレンジしてみてください。

可能性があるのは理解カのある人

留学の相談でいちばん多いのは、「英語ができませんが、大丈夫でしょうか」というものです。

こういう相談を受けるたびに、じつは私はウンザリしてしまいます。

本人にとってはたいへんなプレッシャーであり不安であるわけで、それをきちんと解消してあげるのがカウンセラーの役目ですから、そのたびに一生懸命に対応しているわけですけれど、それより先にもっと考えるべきことがあるはずです。

自分にとってアメリカで生活するというのはどういうことなのか、自分が受けたいと思うレベルの教育をアメリカで受けるにはどうすればいいのか、自分に合った留学の内容や方法はどんなものなのか、そういうことを考えてもらいたいものです。

といってもみんなどうしても気になるようですから、英語力のことをもう少しお話ししておきましょう。 私たち日本人は英語ができないわけではありません。英語に慣れていないだけなのです。

できないというのは、【ABC】も 【I am a boy.】 すらも知らないということなのです。最低限の英会話に必要な能力は中学一年生二年生で充分なのです。

いくら英語の苦手な人だって一年生のときの英語ぐらいは覚えています。そしてちょっとまじめに復習すれば二年生くらいまではなんとかなります。それで日常会話はなんとかだいじょうぶ。

したがって英語の短期留学で二、三か月もアメリカにいれば、すぐに英語での生活に慣れて、How are you? とか I am happy. とか言えるようになるわけです。

その程度の会話能力で、もっとむずかしい社会問題や政治の問題、人生の悩みなどを論じようとしたり、ましてや学問をしようなんて、やっぱりちょっと違います。

くどいようですが、そもそもアメリカの大学に入学しますと、そこで英語を勉強するわけではないのです。大学では数学や歴史や生物や経済学を勉強するわけです。

たとえば数学はとても理解力があってよくわかっているが英語は苦手という人と、英語はぺラぺラだけど数学は全然だめという人と、どちらに可能性があるでしょうか。アメリカで生活していくだけの最低限の意思表示の英会話能力はみんなあるのです。

ということは数学の理解力のある人にこそ可能性があることは明らかです。

日本語でいろいろなことを知っていて理解力が深く、勘のいい人は、英語力の不足をのり越えてやっていくことができるのです。

逆に、英語力が多少あっても、日本語での知識はからっぽ、自分の頭でものを考えることは苦手、勘は悪いというのでは、本当に困るのです。

英語力に不足のないアメリカ人の中にも、よくできる人と、できなくて大学を退学になる人といるわけです。

もちろん英語力はあればあるほどいいわけで、できなくていいといっているわけではありませんが、留学するには英語力がすべてだなんてけっして考えないようにしてもらいたい。

この意味からも、TOEFL®のスコアのみを留学のモノサシにすることはやめてほしいのです。

留学生にとってとても困るのは、日本で見たことも聞いたこともないことをいきなり英語でやらなくてはならないときです。

多少とも知識があれば想像しようも考えようもあり、質問することもでき、もっといえばその場をごまかすこともできますが、まったく想像つかないことですと、もう完全にお手上げ。

あとは本人の心身がタフであるかどうかにかかってきます。

失敗例の多くは留学方法に問題がある

留学生にとって、理解力はあるか、やる気はあるか、心身ともにタフであるかといったことが致命傷になることはありますが、英語力の不足そのものが致命傷になることは意外に少ないものなのです。

また、致命傷になるかどうかという点でいえば、その人の選んだ留学の方法それ自体に問題があって、これが災いするという例も少なくありません。

アメリカの大学のことがよくわからないまま、ともかく現地で生活しながら英語能力をつけて、それから考えようなどと見切り発車をする人。その結果、あの大きな大陸に単身でいきなり飛び込み、何が何だかますますわからなくなってしまうというケース。

アメリカの英語学校で出会った同じような日本人と留学浪人を決めこんですっかり遊んでしまう人。

留学浪人だという自覚すらなくてひたすらTOEFL®のスコアを上げようと考えていろんな英語学校ばかりを転々とわたり歩いている人。

あるいは少々英語能力があるということで、州の名前のついたマンモス大学を選んで入学し、学生が何万人もいる環境の中で孤立してしまうケース。

マンモス大学での講義は一〇〇人から二〇〇人を詰めこむ大型の階段教室で行われ、講義の内容を学生が理解できているかいないかにかかわらずどんどん進められます。読まなければならない圧倒的な量の教科書や資料、見知らぬ学生たちの渦に巻きこまれて、なにがなんだかわからないうちに、成績不振で退学になっていたというような人。

こういう失敗例か実にたくさんあるのです。

したがって、本当に行く意思があれば、充分時間をかけて、自分の能力に応じた学校を探していかなければなりません。それも一つ一つ自分で確かめてやっていかなくてはいけません。カウンセラーは、あくまでそのお手伝い、ガイド役なのです。

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栄陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院教育学修士課程を修了。帰国後、日本で留学カウンセリングを立ち上げ、留学指導を行い、これまでに7000人以上の留学を成功させる。留学関係の著作も多数。 » 栄 陽子留学研究所について