女性の留学 -第4回- 留学カウンセラーとは

(2021.03.15更新)

留学カウンセラーという仕事

「留学カウンセラー」という職業名は、私が考え出しました。もちろん日本で最初にその職業に就いた人間も私自身です。

留学カウンセラーというと、若い人にはちょっとカッコいい仕事と思われるようです。海外に関する仕事だし、英語に関係ある仕事で、旅行会社のツアーコンダクターより知的な匂いがするし、といったところでしょうか。

でも実はとても忍耐強くなくてはならないし、いつも山ほどの仕事をかかえて、さらに、細かい神経をつかわなければならない仕事です。

「お客様、留学にもいろいろありまして、ではどこの国をご希望ですか?」
「期間は1か月くらい? エッ、あっ3か月ね、ハイハイ」
「それで、ご予算は?」

などというカウンセリングなら、なんだかやっぱり旅行コンサルタントの部類、あえていうなら海外研修パック旅行のコンサルタントというところでしょうか。

留学カウンセリングは人生相談

いまの日本では、こういった短期留学や語学留学といったものが主流になっていて、卒業目的の留学は少数派なのです。

つまり数年にわたって海外の高校や大学、大学院で学んで卒業しようという人はそう多くはないのです。

海外の大学に長期間行くというのは、人生の一大事です。

そんな大切な人生相談を受けているのに、カウンセラーが「どの国にします?」「ご予算は?」なんて言っていられるはずはありません。相談する側も相手がそんなカウンセラーならやり切れません。

留学カウンセラーというのは、留学をおススメするのが仕事ではありません。

私は自分自身の留学経験がどれほど私の人生にとってプラスになっているかを知っていますし、これまで私の研究所から送り出したたくさんの留学生たちを見てきて、やはり留学は彼らの人生にとってよい経験だったと信じています。

しかし、それは必ずしもすべての人に当てはまることでもないし、また、人によって留学するのにいい時期・いい状態というものがあって、それを見きわめなければなりません。人それぞれ違うのです。

「いま留学することはおすすめできませんから1年後にまた相談にいらっしゃい」と言う場合だってあるのです。その判断がとてもむずかしい。

また、人によっては留学よりもっともっとしなければならないことがあるのです。いくら留学がすばらしい経験だからといって、だれでも留学させてしまえばいいというわけではないのです。

ですからやっぱり留学カウンセリングは教育相談、進路相談、要するに人生相談になってしまいます。

留学カウンセラーが考える「ベストな留学のタイミング」

私の研究所から留学した56歳の女性、そしてまた同年齢の男性は、共にこんなことを言いました。

「もう家族のための人生は十分にしてきました。退職を機会に、今度は自分のための人生を歩きたい」と。

心に深く残る言葉でした。

本人に行きたいという強い意思があること、受け入れ側がしっかりしている、すなわち、きちんとした高校や大学、大学院への入学が決まっていること、そして周囲の人が、心配ながらもなんとか応援してあげようと思っていること、この3つがそろったときがその人の留学にとって一番いい時期であって、それは15歳でも56歳でもかまわないのです。

留学カウンセラーにとっての喜びとは?

40歳で、これまではごく普通の会社員だった女性が、「1年間の語学留学でもしてみたいけど、それでどんな成果が期待できるのでしょうか」と相談に来たことがありました。

私はこの人を説得して、とうとうアメリカの一流大学の大学院に送り出しました。1年後、彼女はMBA(経営大学院修士号)を取得、おまけにCPA(公認会計士)の資格も得て、人生が大きく変わることになりました。

そういえはごく普通の主婦で、やはり40歳で留学し、ニューヨーク大学大学院の美術学部を出ていまや立派なアーティストになっている人もいます。

もちろんこの2人には、おのおのに才能と努力があったわけですが、その才能を開花させる何かのきっかけをつくるお手伝いができたということは、カウンセラー冥利につきるというもので、とてもうれしく思っています。

留学カウンセラーにとって本当にむずかしいこと

さて、さしあたって飢える心配はしなくてよい日本では、食べるために働くということだけでは済まなくなり、ではどう生きるのか、何を人生の目標にするのかということが強く意識されるようになって、どの人もこうした生き方の問題でずいぶん悩んでいます。

高校の先生方は、いまの子どもは総じて楽をしたがっているとよくおっしゃいますが、では楽をしようなどと考えずに苦労してもっと勉強しなさいとお尻をたたいてやれば子どもたちは納得して勉強するのでしょうか。

納得できないまま何かに熱中できるとは、私には思えません。子どもたちは、なぜ人間が生きるのか、なぜ勉強するのかを自分の頭でつきつめて考えることもなく、また、そういう話を家族や、先生や、友人と真剣に話し合うチャンスがあまりに少なすぎるように思います。

留学も、どう生きるか、どういう人生設計にするか、何のために学問をするのか、ということに当然かかってくるわけです。

ですからカウンセリングでは、そういったお話をしなければなりませんので、私たちカウンセラーも、自分の生き方にポリシーをもっていなければいけませんし、常にいろいろなことを勉強し、考えてなければなりません。

自分に合った大学の選び方、学費や生活費のこと、アメリカでの生活についての基礎知識や知恵、願書の書き方などを教えることは、カウンセラーにとって、そうむずかしいことではありません。

けれども、留学が1人の人生を大きく変える経験である以上、本来、この留学カウンセリングという仕事はとても重大で、むずかしいのです。

私のスタッフの1人が、「この仕事の一番好きなところは、人の人生の大きな岐路に、一緒にかかわることです」と言ったことがあります。

その通りだと思います。重大な、非常に重大な人間としての責任がこの仕事にはのしかかっているのです。私のスタッフたちは、それをまともに受け止めてできる限りの努力をし、そのこと自体に喜びを感じているのです。

世に「留学カウンセラー」を名乗る人がたいへん増えていますけれど、いやしくも「留学カウンセラー」を名乗るのならば、こういう気概をもって仕事に臨んでいただきたいものです。

語学留学と長期の留学は大違い

さて、このような仕事をしているせいでしょうか、私の顔を見ると「ホッとする」とか「安心する」とか言われることがあります。「楽しくなる」とか、なかには「涙が出る」とまで言ってくれる人もいます。

アメリカでの生活を経験したことのない親にとって、子どもを留学させるというのは、こちらがどんなにきちんとした情報を提供して言葉を尽くして説明しても、やはりどうしても心配で心配でしょうがないものです。

また、社会人になってから留学費用を自分で工面したうえで、会社を辞めていざ留学するという場合、それこそ一世一代の賭けになるわけで、人生がそっくりかかってくるのです。

やはり、だれだっていろいろ悩みますし、ときとして理由のない不安に襲われたりもします。長期の留学は、2、3か月の旅行気分で行く語学留学とは本質的に違うのです。

エリートビジネスマンの人生をがらりと変えさせたケース

最近のカウンセリングのなかで、強く印象に残っている例をもう1つ紹介しましょう。

30代なかば、既婚で一児ある東大卒のエリートビジネスマンが、一流企業を辞めてアメリカの大学院に行きたいと相談に来ました。

外国で異文化に接した子どもの成長過程を臨床心理学で研究したいということなのですが、わかりやすくいえば帰国子女の問題を心理学的に勉強してみたいということです。

エリートですから、いざ会社を辞めるとなると摩擦軋轢がすごいようです。同僚は心配するし、上司はあきらめるよう説得にかかるし、友人は日本でこれから医学部を受験したらどうかと提案してきます。

彼は悩みました。もともと勉強の嫌いな人ではありません。30代でも受験はできます。いまの日本社会の現状を考えれば、友人の意見ももっともだといわざるをえません。

おまけに彼の両親はちょっとした会社を経営していて、将来はその会社の経営を任せるつもりで、アメリカへ行くなんてとんでもないという意見です。ただし医者にでもなって日本にとどまるのならまだ許せるというのです。

彼の気持ちもそういう方向に傾いていきましたが、だからといって留学もあきらめきれない。

さてそこで私は、どのようなアドバイスをしたでしょうか。

じつは、断固アメリカ留学をすすめたのです。

前にもいいましたように、留学をすすめるのが留学カウンセラーの仕事ではありません。その人の性格や生き方に留学がどうかかわるのかを見きわめなければなりません。そのうえで留学をすすめたのです。

彼の気持ちが周囲の意見である「医者の道」に傾いたのは、あくまでも医学という学問への純粋な興味に動かされたのであって、けっして周囲が考えているような「医者」というものの社会的な有利性に対する関心からではないのです。

友人の意見の根底にある、権威あるライセンスさえとっておけばなんとかなるという考え方に共鳴したのでもありません。

アメリカには、自分の興味や関心に没頭して生きている人たちがじつにたくさんいて、お互いに相手の存在を認め合い、てんでに好きなことを言い合って生きています。

少数派であろうがなかろうが、まったく考え方の違う同士がその存在を認め合っているということは、生きることが精神的にとても楽になるのです。

自分はこうだと割り切りさえすれば、それなりの世界がちゃんとある。彼はそういうところに向いているのです。

「医者」なんていう肩書をもらわなくても、彼なら立派に学者としてやっていける素質がある。でも日本では十分に能力が発揮できない人なのです。

なんで私にそんなことがわかるのか、うまく表現できませんが、これはカウンセリングを通しての洞察なのです。考え方や性格、経歴、彼のもつ全体的な雰囲気、印象、顔や体格を含めた彼のすべてが洞察の材料になるのです。

そこにプロのカウンセラーとしての力量のすべてがかかっているのです。私はその点では絶対の自信をもっています。

彼とはずいぶん長い時間をかけて、何度も何度も話し合いました。 そして私は言いました「行きなさい!」と。

行きました。行ったも行った、なんと、ついに夫婦で留学したのです。

周囲の協力が得られることが理想ですけれと、ひょっとすると、周りの人たちは笑顔で送り出しながら心の中ではいまだに反対し続けているかもしれません。

でも10年待ってほしい。彼の器が花開くときが来ます。

もっとも彼自身の関心はあくまでも学問であるわけですから、べつに花開こうが開くまいがおかまいなしに淡々と学問を続けていると思いますけれども、周りのみんなは、ああやっぱり彼はアメリカに行く人だったのだと納得するはずです。

私はカウンセラーとしてつくづく思うのです。

彼のようにしっかりした人間にとっても、悩み、迷っているときには、私の「行きなさい!」と断言した際の顔や声は、不安をかき消す力になったに違いなく、とても大切な一瞬であったと思うのです。

ましてや、不安だらけの普通の人にとって、私が「心配をかき消してくれる」「安心を与えてくれる」存在だと聞けば、ものすごくうれしく、ますます私はこの仕事に気合を入れねばと痛感します。

私はいつも堂々と自信に満ちた顔で、あなたはこういうふうに考えたほうがいいとか、こうしたらいいとか断言します。ただし、その心の中ではいつも「あなただけじゃないのよ、私もほかの人もみんな種類は違うけど悩みながら生きてるんだから」と語りかけているのです。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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