自分で考え、決断することが求められない日本の「受験」というおかしな制度
受験で求められるのは「正しい答え」
1月になると受験シーズンが始まります。
受験のために塾に行くという習慣は、日本や中国や韓国など一部の国のものですが、中国は、受験の過熱を防ぐために、塾を廃止させてしまいました(いまでも隠れ塾があるようですが・・・)。
日本は大学受験だけでなく小学校から中学受験まで、それは激しいものがあります。
このような受験をくぐり抜けてきた人たちは、つねに正しい答えを求めることに能力を使ってきている傾向があります。
受験日が近づいてくると、もう、ここからここまでをとりあえず全部覚えろ、みたいなことになってきます。
記憶力のいい人には、一発当たる、みたいなチャンスがあります。
あまり長い間、こういうことを続けていると、創造力や考える力、決断力を伸ばすチャンスを失ってしまいます。
国任せ、会社任せで生きられた時代
学生である間は、集中力・記憶力・自己管理能力(実際は親や塾に管理されますが)などが評価されて、偏差値の高い学校に属することが周りに羨まれることですが、ひとたび、学校教育を終えて社会に出ると、そうはいきません。
生きるということは、たくさんの経験を踏まえて決断していかなければならないことばかりです。
それでも国がどんどん成長していくときは、生きかたも国の流れに任すことができます。
会社ですごくイヤなことがあっても、あと1年がんばれば冷蔵庫が買える。
家を買うローンを組めるようになる。
日本もそんな時代がありました。
したがって大きな会社に入っていれば、たいした能力を発揮していなくても、上司の命ずるままに真面目にやっていれば、家のローンを完済することもできたのです。
考えることが求められない日本の教育
しかしながら、そういう時期はもう過ぎてしまいました。
いまは、古い知識や知恵や技術ではやっていけなくなることがどんどん出てくる時代です。
自分で考えて自分で決めて、自分で行動しなければならないことだらけです。
コロナ感染症のことで、航空業界や旅行業界がズタズタになり、ついこの間まで就職希望先ナンバーワンだった企業が見向きもされなくなっています。
大きな企業に入社すれば大丈夫なんてことはまったくありませんが、偏差値の高い大学に入るのは、大丈夫そうな企業に入るためのものとなっています。
本来、コロナのことで私たちが学ばなければならないのは、どの会社も、ずっと安心安全でいられるわけはなく、自分をいつも磨いて、どんな変化にでも応じられるように鍛えておかなければならないということのはずです。
しかしながら日本の教育は、そういうことに応じられる人間を育てていません。
日本の大学は、どのような科目をどのようにとっていくか、きちんと指導し、就活と卒業まで、ちゃんと組み立て、流れ作業のように学生を導きます。
あとは決められた就活の時期にきちんと就職するだけです。
したがって学生は、あまり自分で考える必要がありません。
君がリンカーンだったら?
この点、アメリカは昔から、「大学で学ぶことは分析力と判断力と決断力」といわれていて、専攻を変えてもいいし、大学を4年ではなく3年で卒業したり、逆にたくさんのことを学んで5年で卒業してもかまいません。
理系・文系・芸術系・体育会系という区分もありませんから、ダンスが第一専攻で物理が第二専攻でも、だれもおかしいとも思いません。
気が変わって、専攻をコンピュータにしてもかまわないのです。
したがって学生はいつも、いろいろ考えなければなりません。
この学科や分野が本当に好きなのか、将来のキャリアにつながるのか(これはとてもむずかしいことですね)、などなど。
入学願書に希望専攻を選ぶ項目がありますが、「まだ何を勉強したいかわかりません」というのにチェックを入れることが可能で、そうする人が多いのです。
専攻は最終的には3年生くらいで決めていいので、まぁいろいろと考える時間もあり、また、最終的には自分で決断しないといけないのです。
また、授業ではディスカッションがあります。
宿題が山ほど出て、復習して予習して何か意見を言わなければなりません。
学期の終わりにはレポートと共にプレゼンテーションをしなければなりません。
何か正しい答えを言うのではなく、自分の考えを披露するのです。
「君がリンカーンだったらあの奴隷解放をやったか」なんて歴史的事実について自分の意見を言うのです。
「しない、なぜなら」「する、なぜなら」という形です。
人生100歳時代となると、学生でいる時間も、会社員でいる時間も、人生全体から見ると短い期間になります。
自分は何者か、何ゆえ勉強するのか、どう生きるのか、考える教育が必要ですねぇ。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。