提携校への留学? 「パッケージ留学」の危険性
提携校を紹介してほしい
ある県の教育課から、県の学生をアメリカへ留学させるシステムを構築するので、その支援をしてくれないか、というような問い合わせがありました。
昔、別の県で大々的にそのようなことをしたのを思い出しながらお話ししました。
そのときは、年に2回ほど私がその県に行って講義をし、本当に留学したい学生が出てきたら当研究所のスタッフが年に何回か、各1週間ほど行って指導するというかたちをとることで始めました。
私が一番にエッと思ったことは、「提携校を紹介してほしい」と言われたことです。
そもそも当研究所は提携校というものをもたず、各学生の能力や希望に合わせて複数の学校に願書を出して入学を勝ち取る、というやりかたです。
そこにこそ当研究所のノウハウがあるのに、提携なんかしたら、その大学に無理にでも学生を送り込むみたいな話になるので、困るのです。
「留学といえばTOEFL®テスト」の誤解
しかし、県のエライ人たちの意向が強く、数校の有名校と提携し、大々的に渡米して、パッケージとして売り出すみたいなことをやったわけです。
私が講演すると、たくさんの学生や親が来ます。
でも、みんな留学に興味はあるものの、4年間となると二の足を踏むというのが現実でした。
また、留学したい人が出てきても、とりあえず2年で済むコミュニティ・カレッジに行きたいとか、大学生が1年間行きたいとか、本来の目的と違うニーズの人もやってきます。
当研究所は、あまりTOEFL®テストのことなんか言わないのに、みんなTOEFL®テストの点数に夢中になって塾に行って、そこで英語で授業をする日本の大学を勧められたりとか、もうムチャクチャになって、あまりいい結果も得られず、いつの間にか消滅し、またお役人も転職になり、といったことになりました。
留学を実現するハードルの高さ
そこで知り合った名門校の校長先生から、「前に留学ブームがあったときは、いろいろなエージェントがやってきて、高校も留学を積極的に勧めたが、よい結果にならなかった。
栄先生の話を聞いて、アメリカの大学は寮生活が基本で、ホームステイじゃないこともわかった。
リベラルアーツ・カレッジのこともよく知らなかった。自分たちのやっている留学はちょっと違っていた。
かといって結果がよくなかったので、これからも留学を勧めることはないと思う」といったことを聞きました。
そんな話を思い出して、冒頭の教育課の人といろいろ話すと、ずいぶんがっかりされました。
それに、アメリカの大学は学費もすごく高いでしょう。
日本人が大好きなUCLAなんて66,000ドル(1年間の学費+寮・食費)もするんだから。
という話で、ますますがっかりされたのです。
その県の教育課の人が、日本の教育を憂えておられることはよくわかりました。
まぁいつもニンジンを目の前にぶら下げられて、偏差値の高い大学に行くことが人生の目的みたいになるので、決断できない、責任をとらない、失敗を極端に恐れる。
若いときに勝ち組・負け組の印を押されて、そのことをずっと引きずる、というのが日本の現状です。
留学するにしても、名の知れた大学に行きたい、でもお金がない。
英語力もネイティブ並みにはいかない、等々。
とりあえず日本の大学に行って大学の交換留学制度を使って留学しよう。と言っているうちにアルバイトやサークルやデートで、あっという間に就活に突入。
留学したら就活に間に合わない、なんて話はザラです。
全額奨学金をもらってハーバード大学院に進学
今年の9月からハーバードの大学院に全額奨学金で入学する、わが研究所が誇る学生の話を紹介しましょう。
彼女は高校1年生のときからカウンセリングに来ていました。
「ハーバードに入学したい」と言います。私の返事は「ムリムリ」。
そこで高校で1年間、交換留学しました。
帰国後またカウンセリングに来て「ハーバードに入学したい」。
私の答えは「できない」。
それでも高校3年生から本格的に当研究所のプログラムで留学の準備を始めて、小さなリベラルアーツ・カレッジに留学しました。
奨学金もたくさんもらって、優しい先生や友だちに囲まれ、平和な田舎のキャンパスで勉強し、トップで卒業、ついにハーバード大学院に入学します。
それも全額奨学金。
留学の基本は「寮生活」
日本で高校まで育った日本人が、アメリカでやっていくのに一番大切なことは、寮がしっかりしていて、周りの人や先生がちゃんと名前を覚えてくれて、ノートを貸してくれたり宿題を見てくれたり、テストの結果について相談に乗ってくれたりするような人が多い環境に留学すること。
周りの学生たちが、能力的・時間的・金銭的にある程度の余裕があって、モタモタしている留学生の面倒を見てくれるようなところです。
それには小さな規模のリベラルアーツ・カレッジが最適なのです。
でも日本人は、そんな名前の知られていない小さな大学よりも、州の名前がついた州立大学のほうが好きなのです。
そうでなければ、レベルの低い人が集まるコミュニティ・カレッジのほうが、英語のできない留学生には望ましい、ホームステイのほうが安心、みたいな極端な話になります。
自慢じゃありませんが、当研究所には成功例がとても多いのですが、それで世の中を動かして留学するほうがいいと思わせるほどの数ではないため、影響力がありません。
残念なことです。
それでもまだこの仕事を始めて50年足らず、もうちょっと頑張ります。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。