コミュニティ・カレッジの無料化は実現するか?

オバマ大統領の一般教書演説

アメリカのオバマ大統領が、一般教書演説を行いました。その中には、有名なオバマケアの保険と共に、コミュニティ・カレッジの学費を無料にするというものがあります。

オバマ大統領は黒人といっても、お母さんは白人で、その母方のおじいさんとおばあさんによってハワイで育てられた人ですから、あまり自分自身が黒人という意識の少なかったのではないでしょうか。

また貧乏な暮らしでもなく、裕福な人たちが行く高校・大学へと進学していますので、コミュニティ・カレッジへの馴染みはそれほどなかったと思います。

それでも社会に出て、黒人の奥さんとの結婚を経て、アメリカの貧しい黒人およびマイノリティ(※少数派)といわれる人たちの立場に強く思い至ったのでしょう。

貧しい人や移民してきたばかりの人でも、医療を受けられるオバマケアの導入を考えたり、所得の高い人から多く税金をとったり、と新しい政策を提案してきました。

そして、その一環として、貧しい人・移民してきたばかりの人がもっと簡単に教育を受けられるように、コミュニティ・カレッジの無料化を打ち出しましたのです。

» コミュニティ・カレッジとは? by 公立二年制大学データベース

 

コミュニティ・カレッジ優遇とエネルギー政策の関係

コミュニティ・カレッジは、1900年代になってできてきた学校で、実社会で職を得るために必要な知識・教養・技術を学ぶ場所として始まりました。

戦争から帰ってきた若者や中南米・アジアからの貧しい移民の受け入れも盛んになり、その数はどんどん増え、現在では約1,100校あります(※American Association of Community Collegesによる)。

特にコミュニティ・カレッジが多い州は、カリフォルニア、ニューヨーク、アリゾナなどです。州内の人であれば年間の学費が3,000~5,000ドルほどで通えます(※留学生を含む州外の人にはあてはまりません)。

オバマ大統領は、コミュニティ・カレッジの卒業生が、アメリカの工場や建設現場や農家を支えてきたことを絶賛していて、とくに2000年末期のエネルギー(おもに石油)の枯渇と温暖化への対策として、持続可能な世界をつくるため、Green Economyというキャッチフレーズで、トウモロコシなどでつくるバイオ燃料、太陽光パネルを利用した住宅の建設など、さまざまな分野で働く人をコミュニティ・カレッジで養成したいとして、向こう10年間で120億ドルの予算をあてました。

その後、アメリカではシェールガスやオイルが出たため、このGreen Economyはなんとなく中途半端になってしまいました。

しかし、今回オバマ大統領はコミュニティ・カレッジを全部タダにして、どんな貧しい人も、移民したての人にも教育を与えて、仕事に就いてもらうという考えを打ち出したのです。

果敢なオバマ政策、でもその実現は?

しかしながら、オバマ大統領の発案を通すには、じつに6,000億ドル以上のお金が必要です。国だけでなく、各州もその25%の負担が必要になります。アメリカは州ごとに考えかたが違うので、実現するのは容易ではありません。

そもそも一般教書というのは今年1年の計画であって、それを実現するには、一つひとつ議会の承認が必要です。いまアメリカ議会はオバマ大統領の所属する民主党ではなくて、共和党議員の数が上回っています。

したがってオバマ大統領の案が議会で否決される可能性は高いのです。

オバマ大統領はすでにレームダック(lame duck:役立たず)と呼ばれていて、国民からあまり期待されてもいないので、『居直って自分の考えをダメもとでどんどん主張しているだけ』、と思っているアメリカ人も大勢います。

さらに、『共和党に反対されるのはわかっていて、それでも自分は大統領としてこれだけ国民のためを思っていたんだという証だけを残しておきたいんだ』という人もいます。

アメリカの果実を食べる権利

そもそも共和党は、どちらかというと白人中心主義です。民主党は白人以外のカラードと呼ばれる人が沢山いて、皆でやっていくという考え方をしています。

共和党の中でも特に右翼の人は、『アメリカという国はヨーロッパから1600年代からたくさん移民してきて、みんな貧乏で食べるものもなく、教育も受けられず、という中から苦労してがんばってこの国をつくってきて、これだけ立派な国になった。そこへ新しく移民してきた人やちょっと運の悪かったマイノリティ(※少数派)の人が、苦労して実った果実だけを食べるのは許せない』とも考えています。

新しく移民してきた人や、ちょっと運が悪くて貧しいという人も、もっともっと働いてのぼって行け。アメリカではチャンスは平等に与えられているではないか、というわけです。

ですから、みんなが保険に入ってタダか安い費用で医療を受けられたり、それでなくても、お金がない人や移民したての人、学力の低い人を安い学費で受け入れてくれるコミュニティ・カレッジを無料にするなんてとんでもないと考えるのです。

豊かなアメリカを支えるボランティア精神

アメリカはボランティアの国で、お金持ちの人は、考えられない大金を寄付したり奨学金の基金を作ったりします。また貧しい人のためにタダで医療サポートを行う施設もいっぱいあります。

キリスト教の教会も食事を提供したり宿舎を提供したりという、あらゆる慈善設備が整っています。

いくら格差社会といわれようと、アフリカの難民キャンプのようなものはありませんし、バタバタと路上で人が死んでいるようなこともありません。世界の水準から見ればアメリカはやはり豊かな国なのです。

そんなアメリカで、このコミュニティ・カレッジの学費の件はこれからどうなるのか、注目の的です。

日本ではコミュニティ・カレッジはよく知られています。

費用が安い・簡単に入れるということで、いろいろなエージェントが紹介・あっ旋をしていますが、その大半は寮もなく、年齢が25歳以上の学生や働きながら通っている人も多く、先生の数も学生数に対して他の大学と比べて少なく、そもそも学校が学生の学業と生活すべてに責任をもってくれるわけではありません。

日本で高校を卒業したばかりの人は、やはり寮のしっかりした、教育内容もしっかりした環境の大学に行くべきでしょう。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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