アメリカの医学部への進学。留学生にもチャンスはあるか?

留学生には狭き門

アメリカのMedical School(医科大学院)についての問い合わせが、今でもあります。

アメリカのMedical Schoolは基本的にアメリカ国籍をもつ者や永住権をもつ者にしか入学の窓口を開いていません。

まぁ、アメリカは何でもありの国ですから、もしかしたら例外というのはあるかもしれませんが、私が50年近くこの仕事をしていて、1件もありません。

Dental School(歯科)、Veterinary School(獣医科)は外国人でも問題ないのですが、Medical Schoolはダメなのです。

日本では、偏差値が高い人や家が病院を経営している人などが医学部を受けるというのが、当たり前のようになっています。

社会的ステータスが高く、かつ収入もいいし安定している職業ということで、みんなめざすようですが、アメリカではそこまで極端なことはありません。

アメリカの医学部は大学院オンリー

基本的に、まず大学を卒業してから、改めて行くのがMedical Schoolです。

したがって、大学の4年間でいろいろ考える時間があります。

また、Medical Schoolに行くための条件は大学の成績がいいことと、生物系の科目をいくつか履修していることのみなので、大学での専攻が心理学だったり、音楽であってもまったくかまわないのです。

大学に入学するときから絶対Medical Schoolに行くと決める必要もないので、大学在学中にいろいろな経験を経て、方向を変える人もいます。

日本では、親が小さなクリニックやちょっとした病院を経営しているので、その後継ぎとして医学部をめざすのは当然という考えかたがありますが、アメリカでは、日本の地方の中核病院の跡取りの御曹司、なんてものはありません。

医師1人と看護師だけの小さなクリニックは経営できますが、病床のある病院は、基本的に医師免許をもっている者は医療行為をするのみで、経営には携われません。

アメリカの病院経営のありかた

アメリカの大学院にMaster of Hospital Administrationというコースがありますが、こういう勉強をした人が、事務長として経営の実務に携わり、きちんとした理事会が置かれています。

したがってアメリカには、家庭医と呼ばれる、町の小さなクリニックか、入院設備のある大病院か、ということになります。

キリスト教の国ですから、医療行為に並々ならぬ情熱をもっている医師がたくさんいるのです。

今回、コロナの患者が入院できないという問題が日本で何度も取り上げられましたが、患者が多すぎて、という理由だけでなく、日本は、個人経営の中小の病院がとても多く、このような世界規模の問題が起きたときに、うまく対処できないのです。

もちろん、病院経営の専門家も置いていません。

家族のだれかが金銭的なことを仕切っているのです。

アメリカが先陣をきる公衆衛生分野

コロナのことではWHOという機関が日本でも一般に知られるようになりましたが、アメリカでは、Public Health(公衆衛生)という分野が大学院にあり、国や世界のすべての人々が健康に過ごすための問題解決に取り組んでいる専門家がたくさん要請されています。

ハーバード大学やジョンズ・ホプキンス大学などの有名校も、このPublic Healthの分野でたいへん有名なのです。

日本は、各地に保健所があり、保健士さんがいて、この人たちがPublic Healthの代理人みたいなことになっているせいか、Public Healthの専門家を養成するのが遅れていました(東大がようやく2007年に設立しました)。

医療体制は、いろいろなプロフェッショナルの集まりで形成されなければなりません。

たとえば高齢者が骨折して入院した場合、アメリカでは医師、看護師はもとより理学療法士、アスレティックトレーナー、栄養士などが集まって、どのようなプログラムで治療し、早く社会に戻すか、ということを検討して実施するのですが、日本ではすべて医師の考えに委ねられています。

したがって従来の医療行為で済ませられることは大丈夫でも、コロナのようなことが起きると、もうメチャクチャになってしまい、たいへんな努力をした病院や関係者と、まったく何もしなかった病院とに分かれてしまうのです。

日本の医療制度は危機に瀕している?

日本人は元来、とても真面目で、きれい好きで、上からの命令にも従順で、コロナの感染者数が減ってもマスクを着けています。

今回(まだ完全かどうかわかりませんが)コロナが収まったのも、その1つの大きな要因は日本人の国民性です。

このことに医療制度が甘えて、うまくいったと思っていれば、これからどんな未知の病気が出てくるかもしれないことを考えると、もっとみんな、日本の医療制度に疑問をもたなければなりません。

偏差値が高いから、よくお勉強ができるから、医学部に行くなんていう風潮に、もっと周りが「なぜ」と問う必要があります。

いつまでもみんな一緒とばかり言っていられないようなことが世界のあちこちで起きつつあるのです。

 

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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