コロナ禍にアメリカの大学院では学生が増加。その理由は?

オンライン授業に人気が集まる

コロナ真っ最中だった2020年度、アメリカの大学の学生数は、大学レベルでは減りましたが、大学院レベルでは逆に増えました。

理由は、授業のオンライン化です。

もともと大学院はオンラインの授業が多く、教育学の分野などの修士課程は、オンラインのコースというのがけっこうありました。

アメリカは州ごとにルールが違いますが、ミシガン州などでは、10年ごとに修士課程で30単位(10クラス)更新しなければ、教員のライセンスが失効します。

50年も前のことですが、私がアメリカの大学院で学んでいたときのクラスにも現場の先生が多く、それも、けっこう遠いところから車で週に1度やってきている人たちがいて、(なんで?)と思ったものです。

クラスも夕方や土曜日に設けられていたりしました。

ですから、オンライン化が早く進んだと思われます。教えるという立場の者は、つねに新しく学んでおくべし、という考えは、とても重要だと思います。

1度ライセンスをとったら何十年も通用するというのは、もともと無理な考えで、その後の個人の努力と経験を期待するとなると、大きな差ができます。

まして、いまのように目まぐるしく世の中が変わり、AIが何もかもやってしまいそうになっていくと、人間が追いつくのも大変です。

すべてオンラインの修士課程も

いずれにしても、もともとオンライン授業がすでに進んでいたアメリカの大学院は、コロナ禍で力を発揮したのです。

在宅ワークになった人たちもとても多く、自分で自由に時間をマネジメントできるようになったことも大きかったと思います。

この際、新しい勉強をしておこうとか、新しい学位をとっておこうと考えた人が多かったのです。

University of Massachusetts, AmherstのMBAコースは、もともと全部オンラインで、とてもニーズが高く、大学の儲け頭といわれていました。

MBAはMaster of Business Administrationの略で、日本人に最もなじみのある修士号です。

MBAが特別な資格だと思っている人もいます。

日本が高度成長期に突入した頃、どんどん大きくなっていく日本の企業は、たくさんの社員をアメリカのMBAに留学させました。

現在の60代・70代・80代の人には、東大→一流企業→ハーバードやコロンビアのMBAと進んだ人がいます。

その頃は、教育学や経済学などで留学する人は少なく、自費で留学する人も少なく(何しろ1ドル360円で、日本はつねにドル不足だったのですから)、一流企業から費用を出してもらって、選ばれて留学するのが一番だったのです。

アメリカ人が大学院に行く理由

アメリカでは、自分のキャリアをステップアップさせるために大学院に行きます。

大学を出て、ペーペーのエンジニアならOKですが、工場長になりたければ30歳を過ぎたらMBAをとらなければなりません。

アメリカでは、工場長募集・社長募集といったように、職種ごとに採用するので、長く勤めていれば上がっていく、という考えはありません。

したがって会社を変わるためにMBAを取得することが多く、日本のように会社派遣でMBAを取得することはないのです。

有名MBAコースに在学中の学生には、ヘッドハンティングの会社からたくさん声がかかります。

もちろん、課長職・部長職・マネジャー、場合によっても社長までいて、同じ学生といっても、日本人留学生とは立場がまったく違います。

日本が世界一といわれた絶好調の時代は、MBAに留学してもたいして学ぶものはないのではないか、と盛んに議論されていました。

進化し続けるアメリカの大学院

世の中の回転が速くなると、アメリカの大学院もどんどん新しくなっていきます。

Educational Technologyという分野があります。大学院レベルからしかありません。

教育現場で新しいテクノロジー(もちろんコンピュータですが)をどのように活用するかを学びます。

日本も、タブレットを児童・生徒に貸し出すようになってきていますが、アメリカではすでに当たり前で、小学校1年生でも、大きなタブレットにクラス全員の顔が映ってお話しできるようになっていて、いろいろな教材もそろっています。

Educational Administrationという分野もあって、校長先生や学校教育に携わる目的の人が勉強します。

1度入社したら安泰、そんな時代は終わった

今回のコロナで、日本の大学はきちんとオンラインで授業を実施できたところが少なく、また学生も、寮ではないため、東京のアパートに1人で住んで大学のキャンパスに行ったことがない、などいろいろな問題が起きていますが、あまり注目されません。

一方で、定年を70歳まで延ばす、なんてことが大きく注目されています。

同じ会社で、40年を50年に延ばして働くなんて、考えられます? 世の中のすべてがどんどん変わる中、社員もどんどん変わるためには、社内教育も大変でしょう。

1度大学に入学しさえすれば、そして会社に入りさえすれば、50年の保証が得られる、なんてあるわけないでしょう。

この50年で人間の生活がどれだけ変わったことか。今後の50年なんてとても怖い。寄らば大樹なんてあり得ませんよ。

 

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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