博士号取得者が激減している日本。アメリカとの根本的な違い

博士号を取得しても就職できない?

日本で博士課程に入学する人が減っているという新聞記事(日本経済新聞2023年9月4日)がありました。

2003年に最も多くて18,232人で、それからどんどん減って、2022年は14,382人。21%も減ったそうです。

日本では博士号を取得しても就職先がありません。

2022年に、企業で働いている博士号取得者は日本では25,386人で、アメリカの201,750人とは大きな差があります。

博士号取得者の活躍の場が多いアメリカ

アメリカでは、「この職に就けるのは博士号取得者に限る」といった求人もあり、有名IT企業の職に就くため、わざわざその分野の博士号をあらためて取得する人もいます。

アメリカではPsychologyなども、Psychologistとして仕事をするならClinical Psychologyの博士号を取得しなければなりません。

教育関係の経営者やトップになるためにはEducational Administrationという博士課程があります。

また、プレップスクールと呼ばれる私立の中高にも、歴史や哲学の博士号をもった先生がよくいます。AIや宇宙工学も、博士課程で勉強することはごく普通です。

最近では、ChatGPTのおかげで、Prompt Engineerという仕事が、人材の奪い合いで、年齢にかかわらず35万ドルという年収を提示するのが普通です。

ChatGPTからよい回答を引き出すための指示を考案する仕事です。もちろん、歴史や哲学や文学や、あらゆる分野の博士号をもつ優秀な人材が必要になります。

博士課程の学生が成績をつけることも

また、アメリカの博士課程の学生は基本的に学費や生活費の心配がありません。

Teaching AssistantやResearch Assistantという仕事があって、先生のお手伝いをするからです。

先生の代わりに1年生を教えたり、先生はマイクで大教室で授業をして、そのあとTeaching Assistantが、学生を少人数に分けてディスカッションをさせたりします。

また、学生の成績をつけたりすることもあります。

アメリカの学生は成績がよくないと大学院に進学するときや就職するときに不利になりますので、成績のことをとても気にしていて、自分の成績が悪いと、Teaching Assistantのせいだと言って、抗議してくることもあります。

アメリカの博士課程を終えた人は、企業に就職したり自分でベンチャーを立ち上げたり、いろいろな選択肢があるのですが、その中の一部が、大学の先生になっていくので、新米の大学の先生といえども、大学とはどういうところで、学生とはどういう者で、教えるとはどういうことか、Teaching Assistantのときにさんざん経験して学んでいるため、すぐ仕事に慣れることができます。

ハーバード大学でTeaching Assistantをしていた人が、オハイオ州立大学で准教授になるなんてこともよくありますから、大学は、学者・研究者としての人材のみならず、教える人や、大学経営についての知識やアイデアのある人を抱えることができます。

こういったことも日本の大学とは大きく違います。

日本で博士号取得者が減っている根本的な原因

ITやEngineer系では、日本でも博士号取得者が活躍できますが、文系では本当に働けるところがありません。

おまけに日本の文系の博士課程は、すべての勉学を終えているにもかかわらず、担当教授が博士号を与えてくれないというのを、しばしば耳にします。

先生に気に入られないとか、上がつかえているとか、ちょっと考えられない理由で博士号を得られず、博士課程満了という学歴の人を見かけます。

日本で博士課程まで進学する人が少ない1番の理由は、就職のシステムです。

大学の3年次に一斉に就職活動が始まるのですから、それを逃したら、もう就職先がないのではないかという気持ちを学生に抱かせます。

一斉に受験するのと同じように、一斉に就職しなければ生きる道はもうない、といった有様です。

そもそもマスコミに博士号をもっている人などまずいないでしょう。

各会社の人事にもいないでしょうし、リクルートなどの就職情報を提供する会社にもいないでしょうから、「大学3年生のときに、まずはキチンと就職活動をすることが人間として生きる道である」という情報を埋め込まれてしまうのです。

この制度を改めなければ、おそらく日本は世界の先進国の中からますます取り残されていくことと思われます。

日本では地域によって違いますが、私がいる港区あたりでは、おぎゃあと生まれればあわよくば慶応幼稚舎か東洋英和、失敗すれば中学受験、大学受験、慶応・早稲田でなくともMARCH。

大学1年生で大学生活を楽しんで、3年生で就活。なんとか、その時代によい評価のある会社に潜り込む。

35歳でフラット35を借りてマンションを買う。60歳までに2,000万円貯める。

そして期待を裏切られる退職金。

65歳までなんとか働いて、わずかの年金で90歳までなんとか生きる。というのが日本の最もよい人生のモデルです。

じつに働いている人の9割近くがサラリーマン。

これからどうなるのでしょう?


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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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