世界に遅れをとる日本の大学。「大学ファンド」に見る日米の違い
危ぶまれる日本の大学の研究力
日本の大学の研究力の低下が止まらない。
修士課程から博士課程への進学率は減少傾向で、進学せず就職する理由は、「経済的な不安が大きい」という。
したがって政府は10兆円の大学ファンド(基金)をつくり運用して(3,000億円ほど儲ける予定)、儲けたお金を配って研究に役立ててもらう。
また博士課程に在籍する個人にも、年200億円程度を予定して7,000人に支援を行う。
このような内容の記事が新聞に出ていました。
ハーバード大学は、大学そのものが4.5兆円の基金をもっていて、日本はとてもかなわない、といったことも書いてありました。
同じ頃に、プリンストン大学が、TAやRAに年に4万ドルを支給するというニュースがアメリカでありました。
アメリカの博士課程。無料プラス給与も
日本とアメリカとでは、大学や大学院での専門家や学者の養成に対する考えかたに、根本的な違いがあります。
アメリカの大学院(とくに博士課程)は、もともと学費が無料で、月に1,000〜3,000ドルのお給料を学生に出してくれます。
先生のリサーチを手伝ったり、先生の代わりに1年生を教えたりディスカッションをさせたりします。
Teaching AssistantとかResearch Assistantと呼ばれます。
中には、学生をこき使う先生もいて、アシスタントがへとへとになることがありますが、それは少ないケースで、みんな生活に心配なく学業に専念し、自分の研究に打ち込めます。
寮も大学院生用のものがあり、家族で住める寮もあります。
つい最近も、当研究所からの学生が博士課程を終え、日本の大学に就職しました。
毎月の支給が1,000ドルだったため、ちょっと生活が大変でしたが、それでも学費は必要ないし、大学が田舎にあったため物価も安く、なんとか乗り越えました。
またアメリカで1年生を教えた経験があるので、日本の大学で教えるのも、その経験がものを言ったと思います。
均一を好む日本の大学の風土
日本は教授が大学院生をタダでこき使っているような印象があります。
それでも学生は我慢して、先生を手伝わないと博士号をもらえない、というようなことも起きているようです。
友人・知人に博士課程満了という人がたくさんいます。
博士号を得るのに必要なことは全部したけれど、博士号はもらえなかったそうです。
上がつかえているとか先生とうまくいかなかったとか、ちょっと考えられないことが起きています。
日本はいまだに教える人と学ぶ人ですかね。
アメリカでは、変わったことや先生と違う考えをする人が喜ばれます。
知識はもういくらでも自分で得られるのですから、違った発想をする人がいっぱい集まらなければ新しいことは出てきません。
一斉に大学受験をして一斉に卒業して一斉に就職するとなると、下手に大学院なんか行ったら就職先はないのか、と思っても仕方ありません。
日本で博士課程に行く人が減ってくるのも、さまざまな研究が遅れてくるのも、この「一斉に就職する」という、もう世界の基準から完全に外れている方法を変えないと、少々お金を出したからといって簡単に解決するとは思えません。
アメリカの大学の基金が充実している理由
日本の大学は基金がないというのも問題です。
そもそも母校愛が少ないのです。
アメリカは偏差値なんてありませんし、大学の選びかたも、各々の考えがあります。
おばあちゃんが出た大学だから、なんていうのもあるのです。
しかも寮生活です。4年間、そこで青春を送ります。
共に住み共に食べ共に勉強します。アルバイトも夏休みなど以外はあまりしません。
勉強中心で、ディスカッションをたくさんします。
一生の友人や恋人ができる場所でもあります。
何を勉強するか入学してから決めたり変えたりできるので、親から離れて自分の行く道を考える場所でもあります。
したがって当然、母校への思いが深く、卒業してからも寄付をします。
大学も多額の寄付をもらうとその人の名前をつけた図書館をつくったり、パーティをして大々的にその人に感謝をしたりします。
もともとキリスト教の国ですから寄付をするのが大好きです。
多様化を阻む日本の受験と就職システム
田舎の小さな大学で、何か自分に発見があって、めざすものが見つかったら、ハーバードの大学院に行くこともできます。
ハーバードの大学院は多様性が好きですから、できるだけたくさんの大学から、各トップを入学させるほうがよいと考えています。
当研究所からは、小さなリベラルアーツ・カレッジを卒業してハーバードにTAやRAで入学している人や、その他の大学院に入学している人もたくさんいます。
また、社会に一度出て、いろいろな経験を積んでアメリカの大学院に入学する人もいます。
そんなことにいちいち、どうこう言うことはありません。
お金の問題はもちろんありますが、日本の、すべて一斉に同じときに同じことをする、という受験と就職制度がすべての問題の元凶にあるのです。
みんなまだ気づきませんかねぇ。
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著者情報:栄 陽子プロフィール
栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家
1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。
『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。