留学生にとって「寮生活」が重要な理由

アメリカの大学は寮生活が基本です

アメリカに10代や20代の若い人が留学するとき、私がとても大切なこととして考えるのは、周りの環境や友人関係です。

経験の浅い若い人たちは、渡米して初めて出会った環境がアメリカのすべてだと思い込む可能性があるからです。

コロナ感染症の影響で少しトーンダウンしましたが、日本の人はホームステイが大好きです。

しかしながら、アメリカの大学は基本的には寮生活です。

アメリカ人の若者が寮に入るために両親と別れを惜しんでいる場面などが映画やドラマでも繰り返し出てきているのに、未だにアメリカの大学は寮生活が基本だということが、日本の人にはピンとこないようです。

親離れ・子離れの場としての大学

アメリカでは、「子どもが18歳になると家を出て寮生活をするのが大学」で、「大学で学ぶことは分析力・判断力・決断力」と言われています。

親子よりも夫婦単位が基本のアメリカでは、子どもはどこかで独立して家を出て行きます。

でも親たちは大切に子どもを育ててきたので、本当は手離すのがとても辛いのです。

それでも寮生活をさせて、イヤなルームメイトに当たることがあっても、それが社会に出る第1歩になるわけですから、子どもを送り出します。

夏休みに帰ってきて、また秋に大学寮に戻るということを繰り返しながら、親も子離れし、子も親離れをしていくのです。

また、親はもう子どもが小さいときのように助けてあげられないので、ディスカッションをする授業を通して自分で決める力を養って生きていく、ということがとても大切なのです。

スーツケース1つで寮生活がスタート

職業訓練所に近い、地元の人が通うコミュニティ・カレッジは別として、アメリカの大学では、ほとんどの学生は寮に入らなければなりません。

留学生にとってはスーツケース1つで入れる寮は本当に助かります。

3食ちゃんと食べさせてくれますし、病気になっても、看護師が必ずキャンパス内にいます。

広大なキャンパスの中に寮を含め、教室からスポーツ施設まですべてそろっていますので、車を買う必要もありません。

友人の車に乗せてもらってモールや街に出ない限り、余計なお金もかかりません。

キャンパス内のコーヒーショップなど安いものです。

英語が不安で、アメリカのことをよく知らない留学生にとっては、自分の下手な英語を黙って聞いてくれて、一緒にコーヒーを飲んでくれたり、宿題を手伝ってくれたり、あわよくばノートを貸してくれたりする友人に出会えるのはとてもラッキーなことです。

そういう意味では、学生が何万人もいる大規模大学より、小規模校のほうが親切な人に巡り会えるチャンスが大きいのです。

アメリカは公共交通機関が発達していないため、子どもたちは高校を卒業するまで、自転車で行ける範囲で生活しています。

学校へはスクールバスで、その他の場所へは親の車に一緒に乗っていく以外に、自分で自由に出歩くことはできません。

日本で小学生が1人で電車やバスに乗っているのを見て、アメリカ人はビックリします。

アメリカでは考えられないことです。

小規模大学のメリット

したがってアメリカの子どもたちは大学に入学するころになって、初めて大きな世界に出て行くのです。

そのため、小規模校のほうが安心だからという理由で、リベラルアーツと呼ばれる小規模大学に入学する若者も数多くいます。

リベラルアーツの大学の学生は優しく、また、アメリカ人であっても、初めて親から離れてドキドキしていています。

教授たちも、博士号を取得してからも研究を続けたい人たちは、研究室のある大規模校に行きます。

博士号を取得した後、研究より教育に力を注ぎたい人が、リベラルアーツの先生になります。

したがってクラスの規模も小さく先生がたも親切で、学生たちも24時間キャンパスにいて、留学生の下手な英語にも耳を傾けてくれます。

寮のないコミュニティ・カレッジの難点

留学生は、周りの人のたくさんの手助けが必要です。

日本の人は、ホームステイのほうが面倒見がよいとか、コミュニティ・カレッジは勉強のできない人が来るので英語ができない者には親しみやすい、とか思うようですが、実際にはそんなことはありません。

ホストファミリーも忙しい日々を送っていますから、留学生と一緒に勉強したり教えたりする時間がありません。

コミュニティ・カレッジは寮がありませんので、授業が終わるとみんな家に帰るか仕事先に向かってしまいます。

コミュニティ・カレッジの学生も、自分の生活のことで手一杯な場合が多いのです。

経済的にある程度の余裕がないと、留学生の話を聞いたりしてくれません。

本来、アメリカの大学の寮とは、友人を見つける場であり、また、勉強を手伝ってくれる相手がたくさん見つかる場です。

留学生にとって、とても重要な場であるのです。

アメリカの生活の第1歩で、アメリカという国やアメリカ人というものに対する印象が違ってくるのです。


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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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