留学前に知っておくべきアメリカの教育システム 前編 ~アメリカのシステムを調べてから的を絞る~

独立独歩の私立学校、州ごとに異なる公立学校

アメリカは、国家の統制を嫌って移民してきた人達で成り立った、世界でも珍しい国である。

初期に移民してきた人達は、東海岸沿いに新しい町を築き、自分たちの責任でルールを決めて、それに従って生活していた。だからアメリカ人はインディペンデントという言葉が好きで、自分たちが独立独歩であることを尊重する。

彼らはまたお金を出し合って、自分たちの家族や親類、仲間の子弟を教育するための学校を作った。このような歴史的成り立ちから、ハーバード大学(Harvard University)やイェール大学(Yale University)などの名門私立学校のほとんどは東部にあり、この地域ではいまだに私立学校が勢力を持っている。これもほかの国には例を見ない特徴の一つである。

私立学校はインディペンデントスクール(Independent School)とも呼ばれているように、アメリカが一七七六年に合衆国として独立してからも、授業料収入のほかは、国や州からの助成金だけに頼らず、金持ちや企業からの寄付をもとに運営している。独立独歩で運営しているので、縁故を優先して学生を入学させても、それは自分たちの勝手という考え方をする。

公立の学校は、合衆国という国家が誕生したあとに作られた。州の税金によって運営されていて、私立に対して、州や地域の人にはどんな人でもまんべんなく教育のチャンスをあげるということが基本的な考え方。そして、州立大学もいくつもできて、長い間に州立大学の聞にはレベル差がついてきている。

公立学校が私立よりレベルが低いかというと、そう単純には割り切れないのがアメリカの学校である。アメリカは国が広いので、州は小さな国に匹敵するくらいの力を持っている。州で出世したいのであれば、州のトップの学校へ進む。州で選り抜かれた優秀な学生が集まるといわれる州立大学は、全米のレベルでみてもトップ10にランクされるところもある。

こういうことが複雑に絡まり合っているので、東大を頂点とする日本方式で単純に判断できないことを、まず頭に叩き込んでおかないといけない。

もう一つ日本と根本的に違うのは、アメリカでは教育は国家なりという考え方が根底にあり、ともかくすべての人が大学レベルの高等教育まで受けられるシステムになっている。

すこし前に、カリフォルニアで問題になったように、アメリカでは不法移民の人々にさえ教育のチャンスを与えている。ABCも知らない移民の人々に教育を授けて、最低限その人たちが自立して食べていけるようにする。

公立学校はすべての人に教育のチャンスを与えるためにあるので、移民でもどんどん受け入れる。ABCから教えて、読み書きができるようにして何とか仕事を持てるように教育する。裸足で歩いてきた移民に靴をはかせて、寝るところを与えて、教育してドライバーズライセンスを取らせる。

日本は圧倒的に中産階級が多いので、ピンとこないようだが、世界にはまだまだ階級制度が残っている。そういう国では、下層階級に属していたり、食べるものにも事欠く生活を送っている人たちは、高等教育を受けたいと望んでも経済的にかなわない。

アメリカでは上だろうが下だろうが、ともかくすべての人が高等教育を受けられる。教育のチャンスを平等に与えているのは、世界中でアメリカだけだろう。これは本当にアメリカの偉いところである。

ところがニューヨークやロサンゼルスの都会では、余計なお金を使いたくないから公立学校に子どもを入れたいと思っても、教育環境や安全性を考えて私立に入れざるをえなくなっているところもある。チャンスの平等の悪い面が出てきてしまう。

公立学校は地域の人なら誰でも受け入れるので、例えば中南米系の移民の人がものすごく増えてしまうところがある。PTAの会合で先生の英語を理解できない父母が出てくる。授業だってスペイン語でやれという運動が起きる。

そうなると頭にくるアメリカ人がたくさんいる。自分たちが堂々と築いてきたものが脅かされ、子どもがレベルの低い教育しか受けられなくては困る。それで現実にはある程度、区別、差別をする。

一番単純なのが経済レベルによる区別。アメリカは発展途上国と同じように、上流階級の家庭には召使いがいるが、その一方で、たった一○○ドルのために鉄砲で襲う人聞がいる。それほど貧富の差があるので、経済的な根拠があって、一定のお金を出せる家族でないと「この学校には入れないよ」と区別、差別をすることで、子どもたちの安全性、品性、競争に勝ち抜くプライドをキープしようとする。

私のアメリカの友人も、金持ちでもなくてピーピーしているので、できれば子どもは公立学校に通わせたい。でも、しっかりとした教育を受けさせたい、安全でいい環境を与えたいからと授業料の高い私立に通わせている。子どもを守るために、私立学校に避難をさせているというのが実情だ。

公立学校で放ったらかしになるよりは、授業料が高くても私立学校で、厳しい教育を受けたほうがいいと考えるファミリーもいる。

アメリカの私立の高校、大学の存在意義の一つには、こういうことが根底にある。

アメリカの高校と義務教育

アメリカでは一六~一八歳までは、義務教育を行うと決められているので、どんな階層の人も高校までは卒業する。

アメリカには文部省がないと勘違いされているけれど、ちゃんと教育省(Department of Education)がある。ただ、国の歴史的な背景から、それぞれの州が力を持っているので、教育省がすべてを統一できない。それで「各州で責任を持って勝手にやれ」という考え方が基本になっている。

厳密に言うと、高校までが義務教育と決められているのではなくて、州によって一六歳、または一七歳と決められている。州によって日本の小学校六年、中学三年、高校三年と同じように「六年、三年、三年」のところも、「六年、二年、四年」、「八年、四年」のところもあるが、いずれにせよ一二年間を採用している。

公立校は義務教育を終えさせることを目的にしているので、日本の公立中学と同じように、休もうが成績が悪かろうが基本的にはところてん方式で卒業させる。大学に進学するための指導をするとか、勉強するように尻を叩くことはない。

公立校は地域に税金を払っている子弟のものなので、留学生は住んでいる人に親代わりのスポンサーになってもらわないと入学できない。寮もないので、ホームステイ先から通うことになる。また、ビザの都合上、公立高校への留学は一年間の交換留学に限られる。

アメリカは教育レベルや経済レベルによって、町や学校が分かれているので、教育レベルの高い人たちの住む地域の公立高校は、レベルも高く進学校となっているところもある。

こういうことから、留学の成果はホームステイ先の地域の教育レベルで、まったく違ってしまう。アメリカならどこでも同じなんて考えていると、わざわざ留学してあまり品のよくない英語とマナーを覚えて帰ってくる可能性も十分にある。

もう一つの問題は、日本の子どもは世界一母親に手をかけられて育っているので評判がよくない。日本の子どもは、朝、母親に叩き起こされ、ブスッとした顔のままでテーブルに用意されている朝食を食べて学校に出かける。

朝起きて挨拶もせず、黙っていすに座って食事が運ばれてくるのを待っている。ベッドメイキングも部屋の掃除もしない。アメリカのホームステイ先で同じことをしたら、まず通用しない。

過去に日本人の世話をしてエライ目にあった経験があるファミリーは、ホームステイの高校生を積極的に預かろうとしない。また経済的、教育的レベルの高い人たちは、夫婦ともに仕事を持っていたり、社交生活やボランティア活動に忙しかったり、とても他人の子どもを預かるような時間的余裕がない。

こういうこともあって、経済、教育レベルの高い地域にホームステイ先を見つけるのは、大変難しくなっている。結果的には、人の好いアメリカ人、あるいは移民してきて少々成功した家庭にホームステイすることになる。そういう地域の公立高校は、大学進学率が低いのでのんびりとしたペースで勉強を進める。

アメリカ人がホストファミリーになろうと考えるきっかけはいろいろあるが、一人世帯の多いアメリカでは、家族が少なくて寂しいからホームステイを引き受けようというのもある。

また、お金をくれるからホームステイを引き受けようというファミリーもいる。アメリカでは年間所得が三億ドルから一万ドルに満たないくらいまで差があって、一カ月五〇〇ドル程度の収入でも魅力だと考えるファミリーもたくさんいる。

当然、ホームステイ先の環境もいろいろで、がまんできないという若い人もいる。あるいは環境にしっかり馴染んでしまい、そこで見聞きする価値観やマナーで、アメリカ全体を判断してしまう子どももいる。若い高校生ならそれも責められないことかもしれない。

高校留学となると、交換留学でもお小遣いやさまざまなものを入れると年間二〇〇万円は必要だ。

ホームステイ先の地域や家庭環境をチェックしておかないと、品のよくないパフォーマンスをまねるだけのとんでもない若者が誕生してしまうことになる。

デイスクールとボーディングスクール

私立学校は Prep. School(Preparatory School)と呼ばれる。公立学校が義務教育を終えるというのに対して、Preparatoryは大学へ行く準備をするという意味で予備校と訳している資料があるが、それはまったくの誤解だ。

私立学校は日本と同じように「六年、三年、三年」のところもあるが、「八年、四年」に分けているところが圧倒的に多い。「八年、四年」となっているところでは、四年間が日本の高等学校に相当する。

それぞれの学年は、Freshman(九年生)、Sophomore(一○年生)、Junior(一一年生)、Senior(一二年生)と呼ぶ。

私立学校には二種類あって、デイスクール(Day School)とボーディングスクール(Boarding School)がある。デイスクールは通いの学校で、ボーディングスクールというのは寮制の学校。

小さな町の限られた子どもだけが通学する小さなデイスクールは、スクールバスで日本の幼稚園みたいに送り迎えをしてくれる。私立の学校だけでなく、公立の学校も地域が限定されているのでスクールバスがある。

ロサンゼルスやニューヨークの郊外の学校は、生徒が広い地域に点在しているためスクールバスを出せないので、親が責任を持って送り迎えしなければならない。

誘拐事件ということも考えられるので、学校は厳しくチェックして、登録してある人以外には、事情の有無にかかわらず絶対に子どもを渡さない。『クレイマー・クレイマー』という映画で、奥さんに逃げられた父親が、子どもの送り迎えのために四苦八苦するシーンがあるけれど、現実に子どもの送り迎えはすごい負担となっている。

こういうことからも、留学生がデイスクールに通うのは難しいので、ボーディングスクールに入学することになる。

日本の中学を終えてからの留学では、一〇年生として編入するのが順当だが、トップレベルの学校では九年生からの留学を勧める学校がある。日本の高校に一年通ってから一一年生に入るときも、学年を一年落とすように言われることがある。

日本の教育レベルは確かに高く、数学だけを比較するとアメリカの大学生に劣らない高校生もいる。でも英語のレベルは、どうしてもアメリカの小学生くらいであるのが現実。一一年生から入ると二年間しかないので、英語、すなわちアメリカでいう国語の力が追いつかない。

これとは反対のようだが、卒業時に二○歳になる学生の受け入れはいやがられる。例えば、中学を卒業して二、三年ぶらぶらしてから留学すると、卒業のときは二○歳になる。

こういうケースもほとんど許可されない。学校もいやがるけど、たとえ入学できても卒業するまで耐えられる生徒はほとんどいない。ルームメートやクラスメートは一四、五歳だから、三歳くらいの年の差がある。このくらいの年で三歳といったら、考え方がものすごく違う。日本で高校を卒業するまでに一、二年しかない場合の留学ではこのことに注意が必要だ。

高校を卒業してアメリカの大学へ留学したいと相談したら、「まず英語の勉強のためアメリカの高校に一年通って、それから大学に進学したほうがいいですよ」って、アドバイスされて高校に入るケースも、まれにはあるという。

学校では年齢に関係なく高校生のように扱われる。「あれしちゃいけない、これしちゃいけない」と制限され、まわりは年下のガキばっかりで話も合わない。

同級生が大学で自由な生活をしているのを見ると、窮屈な生活を強いられている自分が情けなくなり、結局途中でいやになってしまう。留学というと英語のことばかり注目して、生活することは何も考えないから失敗する。こういうことをもう少し認識して留学先を選ばなければいけない。

すばらしい環境のボーディングスクール

アメリカには立派なボーディングスクールがたくさんある。

美しいキャンパスのなかに寮があり、先生が一緒に住み、看護婦も二四時間待機している。先生一人に生徒が一〇人前後くらいの割合なので、成績に問題があれば先生が一対一で指導をしてくれる。それは至れり尽くせりで、親にとっては安心して預けられる環境が整っている。

殴米の夫婦はディナーやパーティーに出かけることが多いから、どうしても小さい子どもはベビーシッターに預けることになる。そういう環境に加えて、大人の世界から遠ざけて、十代の子どもらしく規則正しい生活をして、大自然のなかでスポーツや勉強をして子どもらしい生活を送ってほしいと考える親が多いので、アメリカやヨーロッパにはボーディングスクールがたくさんある。

ボーディングスクールのモットーは質実剛健と規則正しい生活。七時の朝食に始まって、八時から八時半まで朝礼か礼拝、八時半から一二時までは授業、一二時から一時までランチ、一時に午後の授業が始まり三時に終わる。

三時から五時まではスポーツ、六時からディナーで七時から九時まではスタディアワー。それからやっとフリーの時間があって、一〇時半には消灯である。

親にとっては理想郷のようにすばらしい環境ではあるけれど、子どもたちは「最初は修道院だと思った。でも今は監獄にいるようだ」と涙声で電話してくる。二四時間見張られているようなもので、外部からの迎えがこなければキャンパスの外に出られない。

それに宿題が毎日大量に出る。留学生は英語のハンディもあるから予習をしないと授業についていけない。勉強時間が足りないから、消灯時間を過ぎるとベッドで毛布をかぶって、そのなかで懐中電灯を照らしながら勉強する。

子どもたちは「自由な時間がまったくない、楽しいことが何も起こらない、都会的な刺激が何もない」と泣きごとを言う。

確かに寮のカフェテリアは朝、昼、晩と三食が用意されているし、軽いファーストフードが食べられるカフェもある。ブックストアもあれば、図書館もコンピュータルームも完備されていて、勉強するための環境は完壁に整っているが、日本にあるようなラーメン屋もコンビニもゲームセンターもない。

日本の漫画雑誌もないし、テレビだって英語に慣れるまではわけがわからずおもしろくもない。かといって、アメリカ人の子と冗談を言って笑えるほど英語も話せない。

日本の生活に慣れている子どもたちは、三日いたら飽きてしまう。特に日本は母子密着型で、母親は子どもをどこへでも連れて歩く。小さいときから刺激の多い生活をしていると、子どもは常に変化を求めるようになってしまう。

だけど人生なんて、平凡で地味で、同じことの繰り返し。がまん強く耐えなければならないことがたくさんある。ジェットコースターに乗っているときのように、ワクワクするような刺激を求める子どもに、規則正しい生活、平凡で地味な毎日に耐えさせることは、教育のなかで一番難しいのである。

欧米の親たちと同じで、私は息子たちを自然に固まれた環境のなかで生活をさせたかった。特に女の子が生まれたら、ぜひボーディングスクールに入れたいと考えていた。

理由は単純で、女の子は卒業式にウェディングドレスのような真っ白な服を着るのだが、それがとってもかわいらしい。日本人の感覚だと真白な服というと、全部スタイルを揃えて修道院のシスターのようになってしまうだろう。

ところがアメリカでは、「個性のないものを着るのはアホだ」という感覚で、白に統一してもそれぞれデザインに工夫をこらす。胸元を開けてセクシーなデザインにしたり、それぞれ魅力を一〇〇パーセント、アピールする。

娘をこういう学校に入れて、「卒業式には私も出席して」と想像していた。ところが子どもは二人とも男の子でがっかりしたが、それでもボーディングスクールに留学させたいという気持ちに変わりはなかった。

長男は親離れしていなくて、いつでも私のお尻を追いかけてきて一から十まで報告したがった。これではアメリカに留学しても、朝から晩まで電話してくるに違いないと思った。でも、日本の高校を卒業してから日大に進学、三年生でアメリカの大学に編入し、頑張っている。

次男は体力も行動力もある。蹴られ殴られて、顔がパンパンに腫れても電話してくるような子ではなかった。この子なら大丈夫、絶対やりとげると思った。

ボーディングスクールでスポーツや音楽・美術に熱中したり、本を読んだり、たくさんの友だちと話してほしい、規則正しい生活で、何か自分の好きなことを見つけて充実した毎日を送ってもらいたいと考えていた。さて、元気が良過ぎる生活をしてアメリカの高校を卒業した次男は、今は上智大に通っているが、そのうち、アメリカの大学院に行きたいと言い出すのじゃないかと思っている。

創意工夫して楽しむことを学べるだけでもボーディングスクールの価値があり、人生で大切なことである。大自然の中では何もすることがない、と不満を言うのは、創意工夫して楽しく生きていくことに努力するということを知らないだけなのだ。

(著書「アメリカ留学で人生がおもしろくなる」より抜粋)

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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