アメリカの大学で高まるカウンセリングの需要。背景には何が?

新しい生活への不安

アメリカの大学では、学生へのカウンセリング・サービスがとても充実しています。

何しろ初めて親元を離れて寮生活をするのですから、学生たちはたくさんの不安を抱えています。

国土があまりに広くて公共交通網の整っていないアメリカでは、子どもは17歳で車を買ってもらうまで、1人でどこにも行けません。

学校へはスクールバスで、それ以外は親の車に乗せてもらって、あるいは自転車で行ける範囲です。

大きなモールも自転車で行ける距離にはそんなにありませんから、けっこう親子密着型なのです。

ニューヨークなどの大都会に住んでいる人も、結婚して子どもができると、ニュージャージーやコネチカットなどに大きな家を買って家庭を築きますので、日本のように小学生が電車やバスに乗ってどこにでも行けるような環境はありません。

したがって大学生になって親元を離れて寮に入るのは、親子ともにけっこうストレスなのです。

当研究所から留学して、ホームシックになって、もうアメリカにはいられない、日本に帰ろうと考えていたときに、アメリカ人のルームメイトが泣いていて唖然とした、というのはよくある話です。

アメリカでは飛び級もあるので、16歳・17歳で大学にやってくる子もいます。みんな新しい生活に不安を抱えています。

成績が悪いと奨学金がストップ

そういう状況のため、カウンセラーがいて、いろいろな相談に乗ってくれるのですが、最近は、とくにそのニーズが高まっているとのことです。

原因は学業成績のプレッシャーです。アメリカの大学は、日本のように入学したら終わりではなく、大学でかなりの勉強をしなければなりません。

2学期続けて70点を割ったら退学ですが、成績が悪いと奨学金の支給が止まる可能性もあります。

アメリカの大学の学費は最近、とても値上がりしています。寮費や食費も値上がりしていますので、アメリカ人学生も奨学金を得られなくなると、とても困るのです。

アメリカの高学歴志向

また、就活をするときも、履歴書の1枚目に成績を書かなければなりません。GPA 2.5なんて書くと、どこにも就職できない可能性があります。

2.5って100点満点で75点ですよ。少なくとも80点以上はとらなければなりません。

また、AIの発達がすさまじく、学歴もどんどん高いものが求められます。

GAFATなどの企業では、このレベルの仕事に就きたかったら、こういう博士号が必要、なんていうのもザラにあります。

もともとアメリカは医学や法学や、カウンセリングなど高度な知識が求められる分野はすべて大学院でしか学べませんから、ちょっと志を高くもつと大学院に進学することになります。

大学院に進学するには、成績は最低で3.00、すなわち80点は必要です。

博士課程の学生は、先生のリサーチのお手伝いをしたり、先生の代わりに1年生を教えたり、ディスカッションをさせて成績をつけたりという仕事があります。

なので学費が必要なく、ひと月に2,000〜3,000ドルのお金をもらえて無理なく学生生活を送れるのですが、もちろん、そういう立場になるには、大学4年間の成績がほぼオールAでなければなりません。

成績のプレッシャーに悩むアメリカの大学生

そもそも名門大学の学生ほど、よい成績をとるのは当たり前で、悪い成績をとると、おかしい学生と思われてしまいます。

こういう学業に対するプレッシャーが、いまのアメリカ人学生には強く、精神不安定になる学生がとても増えているということです。

それにしても、成績が悪くなるのが心配、あるいは悪くなったのでどうしよう、と悩む若者がいっぱいのアメリカの大学と、成績が悪くても何も思わないし、何の支障もない、という日本の大学では、どうでしょう。

4年間という時間で何やら大きな差がつきそうですが、みんな何も思わないのかな?

現在の世界のリーダー(大統領や総理大臣など104人が対象)のうち外国で教育を受けた人の中で、アメリカの教育を受けた人が65人いるそうです。

大学ではなく、企業で人を教育するという日本ですが、そんな企業の余裕がどこまで続くことやら。

確実に日本の企業は世界のトップ企業の座から滑り落ちていますよ。


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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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