大学発のスタートアップがアメリカで生まれて、日本で生まれない理由

スタートアップ拠点を日本の大学に

「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想推進室」というものが内閣官房に8月にできたそうです。

スタートアップ支援の拠点を新設して海外大学を誘致する計画のために作られたそうですが、執務室も無人のまま、何も進んでいないとか。

官邸主導で、ほかにもいろいろと政策を担う新しい部署があるそうですが、担当の役人が、すべて兼務のため、なかなか進まないという話の1つです。

アメリカの大学が次々と日本にキャンパスをオープン

海外大学の誘致といえば、昔、アメリカの大学をわんさと誘致したときがあったのを思い出しました。

英語力強化はいつの時代も衰えを知らぬテーマで、その頃は、「英語で授業を行う大学」への夢が膨らむような話が次々とありました。

日本の経済が力強かった時代のことで、各自治体が誘致に名乗りを上げ、岡山県の8万人くらいの小さな市にもアメリカの大学ができたものです。

私のところにも、日本側からはお呼びがかかりませんでしたが、アメリカの大学からいろいろと相談がありました。

どんな日本人学生が入学してくると思うか、本当にうまくいくと思うか、といった相談です。

日本の受験に対する考えかたは凝り固まっているので、ハーバードとかUCLAのような有名校ならともかく、受験というシステムの風向きを変えるのはなかなかむずかしい、と返事をしていましたが、結局、バタバタとダメになり、残ったのはテンプル大学だけでした。

テンプルも、まず日本の政治家から始まって、パソナグループが所有していましたが、うまくいかず、テンプルの本校が経営するようになって、アメリカ人学生が留学してくるようになり、日本人半分・外国人半分というかたちで何とか生き残ったわけです。

アメリカの大学でスタートアップが誕生する理由

さて、アメリカの大学は次々とスタートアップを生み出していますが、それはもともと教授陣がさまざまな企業に提携・協賛・寄付などを呼びかけていて、またResearch Assistant(RA)がたくさんいて、息の長い研究や新しい試みができるからです。

今年の初めには、プリンストン大学がRAとTA(Teaching Assistant)に年40,000ドルを支給すると発表して、ちょっと話題になりました。他校からすれば、優秀でやる気のあるAssistantを持っていかれそう、というところでしょう。

アメリカの大学の博士課程の学生は、基本的に学費は不要で、1か月に1,000〜3,000ドルのお給料をもらえます。

したがって学生たちは、経済的不安に襲われることなく、学生生活を送れます。また、リサーチの手伝いだけでなく、教授の代わりに1年生を教えたり、ディスカッションを担当したり、成績をつけたりもします。

こういうさまざまな役割を担いながら、自分の行くべき道を考えたり、リサーチをしっかりやったりできます。

アメリカのスタートアップって理系ばかりのものではありません。

新しい薬の発見や、地球温暖化を科学的に解決するものばかりでなく、社会の問題、教育の問題など、あらゆる分野でスタートアップが生み出されています。

RAやTAをしているときに、もっとコンピュータの技術や知識が必要だと思えば、自分の研究が心理学であっても、コンピュータ関連の授業を自由にとることができます。

しかも学費は無料なので何を受けてもかまいません。

もちろん、RA・TAをしながら博士課程に必要な授業に出て論文を書くのですから、時間が不足になるのは当然ですが、望めば、いろいろなことができるのです。

教授たちも、有能なRA・TAを使うことによって自分が研究に打ち込んだり、幅広く人と付き合ってお金を集めたり、新しいアイデアを試してみたりできます。

もちろん、お互いの相性と本人の能力によりますが、教授とRA・TAは、WIN=WINの関係です。

苦境に立たされる日本の博士課程の学生たち

日本の大学ではどうでしょう。

まず理系・文系に分かれて、大学院では、学生たちはアルバイトをしなければ生活に困ります。

また、教授がなかなか博士号を出してくれなかったり、人間関係も含めて閉鎖的なイメージが拭えません。

大学で、理系・文系の垣根を取っ払うこと、大学院生の生活の基盤をしっかりすること、などの改革をしなければ、とても海外の大学と何やら結びつきをもってスタートアップを活性化させようとしてもむずかしいと思います。

ほんの一部の一流大学のしかも理系の分野でしか、スタートアップなんて考えられないのではないでしょうか。

博士課程に行ったら人生に不利、みたいな雰囲気が強いのでは困ります。日本だけ博士号取得者が減っているのは、やっぱり変ですよ。


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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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