トランプ大統領の学歴 ~大統領選による留学生への影響は?~

(2021.1.27付近)

トランプタワーと「空中権」のこと

ニューヨーク5番街のトランプタワーって行ったことあります? ティファニーの隣ですよ。

ニューヨークに行ったことがある人なら、あの金ぴかビルの前を通ったことくらいあると思います。隣のティファニーのビルは、高層ビルの中にあって低いでしょう。

あれはトランプ氏が自分のビルをちょっとでも高層にするとか、眺望をよくするとかのために、ティファニービルの空中権を買ったからだということです。

アメリカは空中権を買ってその分を自分のビルの容積率に付け加えることができるんです。それでティファニーのビルは高くできないのです。

あのビルはバブルの頃、日本の不動産会社が所有していたこともありましたね。

やはりバブルの時代、私の友人がトランプタワーのコンド(マンションのこと)を買ったというので、野次馬よろしく見に行ったことがあります。

日本人だけでなくアラブの富豪も買ったし、世界中の有名人が買ったので、すごく話題になりましたよね。

トランプ氏は一番上のペントハウスを自宅にして、下の階のマンションを完売し、とても儲けたそうです。

軍事教練を取り入れた高校を卒業

さて、この「留学コラム」は不動産の話をするわけではないので、トランプ氏の学歴について話してみたいと思います。

トランプ氏が高校時代を過ごしたNew York Military Academyは1889年創立の寮制の私立学校で、7年生から12年生まで(日本でいう中1~高3)が在校しています(寮に住んでいるのは10~12年生)。

男女共学ですが、学校の性格から圧倒的に男子の多い学校です。

そして、この頃の写真がこちら。

アメリカには各地にこのようなMilitary Academyといって軍事教練を取り入れた学校があります。

軍人や厳しい教育を希望する親の子弟が学ぶ学校ですが、近年どこも経営が苦しく、この学校も2015年に破産し、すぐさま競売で中国人に買われました。

アメリカの寮制の高校(ボーディングスクール)は、費用の高さ(たとえば学費と寮・食費を合わせて年間65,000ドルとか)もあって、いまやどこも中国人の生徒がワンサと押しかけていて、この学校も、これからたくさんの中国人が入ってくるのではないかというウワサがしきりです。

ニューヨークの名門大からアイビーリーグへ

この学校を卒業後、トランプ氏はニューヨークにあるフォーダム大学(Fordham University)に入学します。1964年頃ですから、アメリカにはまだ徴兵制度があり、大学生は徴兵を免除されていました。

フォーダム大学は1841年創立の私立大学で、大学・大学院あわせて約15,000人の学生がいます。ニューヨークにある大学としてはコロンビア大学、ニューヨーク大学の次くらいの名門大学といえます。

彼はここで2年間を過ごし、単位を移行してペンシルバニア大学(University of Pennsylvania)に編入しました。

アメリカの名門私立大学8校の総称「アイビーリーグ」の1校でたいへんな名門校です。

オバマ大統領もカリフォルニアにあるオクシデンタル・カレッジ(Occidental College)で2年を過ごし、それからアイビーリーグのコロンビア大学(Columbia University)に編入しています。

アメリカで“Transfer”と呼ばれるこの編入制度は、短大を出て四大に進むということだけではなくて、幅広い意味で「単位を移行して他大学に移る」ことを意味します。

四年制大学から別の四年制大学に編入してもいいし、大学1年を終えた時点で他大学に編入してもいいのです。移行できる単位数は60まで、というのが基本的な考えかたです。

トランプ氏は、ちょっと名門の私立大学からアイビーリーグへと編入したことになります。

アメリカ人にとってアイビーリーグに行く学生の典型とは、“Smart Students, Great Test Takers, Legacies, Famous and/or Very Wealthy People’s Sons and Daughters”(頭がいい、テストスコアが高い、血縁者がアイビーリーグの卒業生、親が有名かつ(あるいは)とても裕福)というものです。

トランプ氏の編入については、面接官がお兄さんの知人だったとか、お父さんがお金をたくさん出したとか、さまざまな噂が飛んでいますが、彼は2年間でペンシルバニア大学を卒業し、経済学で学士号を得ています。

世界最古のビジネススクールで不動産学を学ぶ

このペンシルバニア大学には、日本でも有名なThe Wharton School(実業家ウォートン氏の寄付で設立した)と呼ばれる世界で一番古いビジネススクールがあります。

日本からも企業派遣で留学した人が大勢いて、卒業生たちはいろいろな分野で活躍しています。

普通、「ビジネススクール」というと大学院のことなんですが、このウォートンには大学レベルのカリキュラムがあります。

トランプ氏は経済学学士を取得しましたが、専門はReal Estateすなわち不動産学でした。お父さんが不動産業を営んでいたせいか、彼も若くして不動産をめざしていたのですね。

ちなみにアイビーリーグでは、ペンシルバニア大学のほかにコーネル大学(Cornell University)のビジネススクールが、大学院だけでなく大学の課程も設けています。

新大統領にアメリカ人が託した思いとは?

トランプ氏が大統領選に勝ったとき、私のアメリカの友人たちは叫びまわっていましたよ(笑)

山にこもりたいとか、アメリカを出るとか。まあ、私の友人は教育関係者が多いので、トランプ氏の差別発言をどう教育現場で教えればいいのかってことになってしまうわけです。

差別とか、格差とか、戦争とか、核保有といったことはしてはならない、あってはならないとするのが教育でしょう。

したがって教育レベルの高い人ほどそう信じようとするのです。

でも現実は違う。

「マスコミはきれいごとを言い過ぎ」、「オバマさんもきれいごとを言い過ぎ」って思っている人たちがけっこういたんですね。

それに、そもそも選挙って日本と同じで人気投票みたいなところがあるでしょう。

日本だってタレント議員や知事が出るじゃないですか。

見た目とかさわりのいい言葉って大事なんですよ。

私はトランプ氏なんかかっこいいと思わないけど、あの背の高さ、大きさ、お金持ちの雰囲気、金髪、男らしさが、老若男女、人種の違い、学歴、貧富の差を問わずアメリカ人にはピタッとくるんですよ。

”Make America Great Again.”は、ガラスの天井を打ち破るというよりずっとかっこいいじゃないですか。

テロ怖い、貧乏怖い、AI怖い、未来が見えない。だから何か賭けみたいな変化を望んでいるんですよ。

アメリカがどうなるのやら、トランプ氏自身も完璧にわからないんだろうなと思いますから、神のみぞ知るですよ。

留学生は平常の生活を送っています

さて、当研究所から留学している人たちは平静で、カンザス州の田舎の大学でも、トランプタワーに近いマンハッタン・カレッジ(Manhattan College)という私立大学でも、ごくありふれた日常の学生生活が続けられています。

カンザス州立大学のオフィスは、次のような声明を留学生と外国人研究者に向けて発表しました。

The events of this week have caused much reaction in the U.S. and around the world. In particular, college campuses are just realizing how the results of the U.S. election are challenging normalcy at a university.

Kansas State University is no different in this respect.

Kansas State University has a long tradition valuing inclusion, diversity and academic freedom.

Now more than ever, The Office of International Programs is committed to fostering a safe and secure environment for all.

Intolerance and aggression have no place in modern society and obviously not at K-State.

The Office of International Programs reaffirms that international students, faculty, staff and scholars are as much a part of the K-State family as anyone else.

If you have concerns about your safety and discrimination, please feel free to stop by one of the international program offices.

ー訳文ー

「今週のできごとは、アメリカそして全世界で大きな反響を呼びました。とくに大学キャンパスにおいて、大統領選の結果が、大学の平常性に及ぼしつつある影響が見られ始めています。

カンザス州立大学においてもそうです。

カンザス州立大学は、寛容性・多様性・学問の自由を尊重することに長い伝統をもっています。

留学生オフィスはこれまでになく、すべての人にとって安全かつ安心できる環境づくりの促進に力を注ぎます。

不寛容性と攻撃性とは、現代社会において、とりわけカンザス州立大学においてあってはならないものです。

留学生オフィスはあらためて、当学の留学生・外国人教員・研究者・スタッフが、他のだれとも変わらずに、カンザス州立大学の一員であることを明言します。

安全性や差別についての不安があれば、いつでも留学生オフィスを訪ねてください」

 

うーん、これぞアメリカ!

トランプ氏も、アメリカの大学の話も、まさにアメリカといった感じです!

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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