フリーターが奨学金で大学院を目指せる米国社会の仕組みと日本の教育社会への愚痴

マックやスタバも‼業員の勉強を応援するチェーン店が続出

アメリカの「チポトレ・メキシカン・グリル」というファーストフードチェーン店が従業員への奨学制度をより充実させることにした、ということがニュースになっています。

アメリカの若い人たちも、ファーストフード店で単調な、それでいてけっこう重労働な仕事をするのはあまり好まないようで、すぐに辞めてしまいます。そんな従業員のひきとめ作戦として、マクドナルドやスターバックスも奨学制度を設けています。

アメリカのチェーン店や小売店では、このようにして従業員の勉強を支援するのが一つのトレンドになっています。

この奨学制度によって、高校を卒業していない人はGED(General Education Development)と呼ばれる日本の高等学校卒業程度認定試験(いわゆる高認)にあたる試験を受けることができます。また、大学を出ていない人は大学教育を、そして志のある人は大学院教育を受けることも可能。

さらには移民したばかりで英語がままならない人には、英語教育を受けるための奨学金も用意されているのです。

「教育」を重視する雇用主

この奨学制度は、アメリカ特有の「教育は人生をより充実した豊かなものにする」という考えかたに基づいています。

対象となる店員さんたちは、経済的な理由で大学に進学できなかった人、あるいは中途で学業をやめてしまった人、次の仕事を探している人、とくに決まった将来の展望をもっていない人などです。

しっかりした人生の目標をもって前向きに働いてもらうために、教育はとても重要なものであると雇用主は考えてます。

働きながら学びやすいオンライン授業を活用

ところで、アメリカの大学は基本的に寮生活です。ハーバード大学などは、4年間寮生活を送ることが原則です。他の大学でも、だいたい1・2年生には寮に住むことを義務づけています。寮生活が大学教育の大きな部分を占めているのです。

でもチポトレ・メキシカン・グリルの店員さんは、大学で寮生活を送りながら、というわけではありません。当然ながら働きつつオンライン教育で大学の授業を受けることになります。

現在、アメリカではこのオンライン教育システムがとても発達しています。Guild Educationという組織があって、働きながら学びたい人たちのために、大学の授業を格安でオンラインで提供しています。

チポトレ・メキシカン・グリルも、Guild Educationと提携して、安い費用で大学の授業をオンラインでとれるようにしています。これは働きながら学ぶ人にとって、とても便利な学びかたです。

オンラインでも卒業単位として認められる

アメリカ教育の良いところは、こういったオンラインで取得した単位も、大学の卒業単位として認められるということです。

大前提として、アメリカの大学は大学間での転校、いわゆる編入が一般的です。はじめは地元にある大学だったり、自分のレベルに合わせた大学に通い、そのうち専門的にもっと勉強したいことを見つけたら、その分野で有名な大学へ編入するといった形です。

ちなみに編入しようがしまいが4年制の大学を卒業するためには大体120単位を取得する必要があり、そのうち半分ほどの60単位は、別の大学で取得したのものやオンラインで取得したものでも認められるのです。

ですから、ファーストフード店に勤めながらオンラインで60単位を取得して、お金を貯めて四年制大学の2、3年生として編入する、ということも十分に可能なのです。

移民してきたばかりで、ろくに英語も話せない、生活も苦しい、といった若者が、勤め先のファーストフード店の奨学制度を活用して、勉学にめざめないとも限らないわけです。

「教育は国家なり」というアメリカならではの可能性ですね。

あまりに異なる日米の教育のありかた

日本には、文部科学省が認可している放送大学があります。テレビやラジオ、インターネットで授業を受ける通信制の大学です。

費用はとても安く、1科目(2単位)11,000円です。 私の研究所では、留学費用に困っている人には、放送大学で30~60単位をとってからアメリカの2、3年生として大学に編入するように指導しています。

実は、アメリカの大学は、日本の放送大学の単位を認めてくれます。 なので、この方法で留学すれば、アメリカ留学の期間と費用を大幅に節約できるのです。

また、放送大学の授業を受けながら働いて留学資金を作ることも可能です。

ちなみに、貸与型の奨学金をもらって(つまりローンを組んで)留学すると、のちに後悔するケースが目立ちます。

それは、アメリカの大学を卒業後、留学生本人が必ず日本の企業で働くとは限らないからです。留学生には大学院に行ったり、長期のインターンに参加したり、開発途上国への援助に行ったりと、さまざまな未来が待っています。当たり前のことですが、若者には人生の選択肢が沢山あるのです。

それらがローンを抱えることによってなくなってしまうことは、あまり望ましいとはいえません。

日本の各大学も、放送大学や他国の単位を認め、編入を一般的にするということはできないものでしょうか。アメリカの各大学が日本の放送大学の単位を認めているのにおかしいではありませんか。

現代の日本では、ファーストフード店やコンビニエンスストアで働いている若者たちが、「奨学金」という名のローンを抱えながら勉強せずにアルバイト代で遊ぶという、何かおかしな構造になっているように思います。

大学入試、大学での勉強のありかた、新卒の一斉入社などなど、もっと根底から構築し直す必要があるんじゃないでしょうか――。アメリカの企業の奨学制度のお話が、ついつい日本の教育への批判になってしまいました。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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