日本の大学が入試をアメリカっぽく変えても何一つ良くならない理由

アメリカ式の入試で日本の大学は変わるか?

日本では2020年にセンター試験を変更するとか、2016年より東大が推薦入学を取り入れるとか、大学の入試改革がワーワー叫ばれています。

その目的は、日本の教育を「知識詰め込み型」から欧米にみられる「知識活用型」のへ移行すること。

そのために、アメリカのSAT®(※)を真似て、センター試験を何度も受けられるようにするとか、アメリカの大学の入学審査課(Admissions Office)のやりかたに似たようなものを取り入れるとか言いだしていますが、そんな小手先のことをしても、日本の教育は何も変わりません。入試にいくら力を注いでも、その後につづく大学の4年間が改革されなければ何も変わらないからです。

※SAT®:アメリカの高校生が受ける大学進学適性テストのこと。読解・数学・作文の三つの科目から成る。年に7回(日本では6回)受験できる。

成績が厳しく問われるアメリカの大学

では、アメリカの大学の4年間がどんなものなのかをご説明しましょう。

アメリカは何といっても入学してからの厳しさが並みではありません。先生が休講するなんてこともないし(休講したら必ず代講があります)、学生が授業に出ないとか、居眠りをするということもありません。

授業の初日に1学期間の授業計画表(「シラバス」といいます)が配布されます。成績の付けかたも、「中間テスト20%、期末テスト30%、授業参加20%、レポート30%」といったように明示されます。授業を休んだり遅刻をしたりすると、授業参加の部分が減点されます。そして成績が平均70点を2学期連続で下回ると、即、退学です。

また、卒業できても、成績が悪いと就職に差し障りがあります(履歴書には大学時の成績を書かなければなりません)。医学部や法学部などの資格が取れる大学院に行くには、大学での成績は80点平均以上が最低条件です。

アメリカの大学生の1日の勉強時間

クラスでは常に意見を言うことが求められます。授業の初日に手渡されるシラバスには、毎回の授業で扱われるトピックが記されていますので、そのトピックについて予習しないと授業に参加できません。教授も「生徒たちが予習して前提」で授業をスピーディーに進めるので、予習してないとそもそも授業内容が理解できません。そして毎回宿題が出る上に復習もしなければならないので、1日のうち、授業が3時間で、予習・復習・宿題・レポートの用意などで、5時間から7時間くらい勉強する生活になります。

そんな勉強だらけの学生生活を大学寮で過ごすことがアメリカでは基本です。一般的に大学寮は、他人と暮らす上でコミュニケーション能力を築く場であり、親離れをし、生活力(掃除・洗濯など)をつける絶好の機会だと考えられているからです。もちろん、あまりに勉強量が多いので、普通に通学することが難しいというのも理由のひとつとなっています。

また、どの大学にもチューターと呼ばれる補講講師がいます。成績優秀な学生や上級生が、このチューターを担っている場合が多く、彼らは無償で勉強を手伝ってくれます。つまり大学はチューターを付けてでも死ぬ気で勉強し、良い成績を修めなくてはならない場所なのです。

複雑な入学審査をこなすプロの存在

さて冒頭に言及したSAT®は、複数回受けられるテストですが、アメリカの高校生は、大抵2回くらいしか受けません。何回も受けて必死に点数を上げても、大学側にはあたかも点取り虫のように思われて、あまり良い印象を抱かれないからです。

Admissions Office(入学審査課)には、審査専門のスタッフが小さい大学でも10人くらいいます。ハーバードでは約40人です。長い経験を積んだディレクターを筆頭に、学生集めと入学許可を専門に扱うプロの集団です。審査項目の一つとしてエッセイ(作文)がありますが、他人に代筆させたエッセイなどは簡単に見破ってしまいます。

願書には、じつにさまざまな記入項目があって、親の学歴や出身校まで書かされます。親が同じ大学の出身であれば、私立などでは、入学審査や奨学金支給の面で優先権があったりします。親の学歴がとても低いのに子どもがとてもよくできるといったことがあれば、それがどうしてなのかをエッセイや推薦状の内容から汲み取ります。

入学希望者がこれまでどのような教育を受け、どのように思想を形成していったのか、また他の学生にどんな良い影響を与えるのか、入学後にどれくらい伸びしろがあるのかといったことを、さまざまな面から評価して入学審査を行います。例えば、いくら優秀だからといって、同じ高校からたくさんの生徒を入学させることは好みません。多様な学生をアメリカ中、ひいては世界中から集めることがとても大切だと考えられています。

入試方法を変えるだけで改革はできるわけがない

そもそも自分の能力に合わない大学に入学しても、人間幸せにはなりません。また大学入試の一発勝負に人生をかける必要はありませんし、その結果で、その後の人生がすべて決まるようなこともありません。こういった社会や人間の根本を見すえて大学教育の改革をしない限り、入試方法だけをいくら変えても本質的には何も変わりません。ただ学習塾がどんどんあの手この手で追いかけていくだけで、今までどおりの受験戦争が続くだけです。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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