大学は不要になる!?最も小さな学位"ナノディグリー"の脅威

IT企業が注目する世界で最も小さな「学位」

変化の激しいアメリカで、キャリアに対する新しい考え方が出てきました。

それは、ナノディグリー(Nanodegree)と呼ばれるもの。直訳すれば「とても小さな学位」。

MOOCs(※)に参加する大手企業のUdacityがGoogleと提携して開発したこのナノディグリーは、ウェブ上で数ヶ月のオンライン授業を受ければ取得できるというものです。そしてこの学位は、GoogleやIBMをはじめ、コンピュータやインターネット関連の会社に就職するのに大変な効力を発揮するというのです。

※MOOCs・・・インターネットで受講できる大規模な講義システムのこと。Massive Open Online Coursesの略。UdacityはMOOCへ講座を開講している企業の一つ。

ナノディグリーは、とても小さな学位という意味ですから、ある特定の分野や技術のみに特化した学位です。例えば、コンピューターサイエンスの中のプログラミング分野の「Androidのコーディング技術」といったものです。現段階ではIT系の分野のみですが、そのうちあらゆる分野のカリキュラムをつくって、この学位をどんどん出していくといわれています。

人工知能と人間の勝負

時代の変化、特にテクノロジーのが目覚ましい発展遂げる現代では、今日大学や大学院で学んだことが卒業する頃には役に立たない古い知識、技術になっている可能性があります。

それがナノディグリーのプログラムでは、数か月でいますぐに役に立つ技術や知識を身につけられますので、新しい仕事にチャレンジしていけるようになります。

もともとアメリカでは、一つの会社に一生勤めるということは一般的ではありません。優秀であればあるほど、自分のやりたいことを見つけたら、どんどん別の会社や新しい仕事に就いていきます。会社の方も中途採用が当たり前です。

また優秀なロボットや人口知能が増えていき、どんどん人間の仕事を奪っていきます。そんな社会で生き抜くためには、人間はよりクリエイティブな仕事、つまり人間にしかできない仕事を探していかなければなりません。

大卒の学位よりもナノディグリーのほうが役に立つ?

私は、自分の息子には、これからは一つのことしかできないのではなくて、三つくらいの仕事をこなせるようでなければ生きていけないと言っているのですが、あと10年もすると、そういう時代になる可能性が大です。

月・火・水曜日には新しい人工知能を開発する仕事をして、木・金には教育カウンセラーをする、なんていう生き方も出てくるかもしれません。

人工知能の開発なんて、まさに日進月歩の勢いです。そもそも今や人工知能が勝手に学んで進化したりするわけですから、つねに新しいテクノロジーに挑戦し続けなければなりません。教育カウンセラーも、この変化の激しい世の中に、古い知識やテクニックだけではやっていけません。大学の学位よりも、その時代に即した技術や知識のほうが重宝されるようになるかもしれないのです。

それこそナノディグリーの出番です。

受験や学歴の発想がくつがえる可能性

そうすると、ちょっと恐ろしいことが起きる可能性があります。それは学生たちが大学に行かないでナノディグリーだけをとって働きだすということです。

技術や知識が古くなれば、また最新のナノディグリーをとっては違う会社や分野で働く、ということが考えられるわけです。

世界の有名なIT企業がナノディグリー取得者を本気で採用するとなったら、日本における偏差値や受験勉強に対する考えかたも随分変わってくるのではないでしょうか。あと数年もすれば、いま考えられているような学歴やキャリアが、何の役にも立たなくなるかもしれません。

MOOCsの目的

さて、そんな大注目のナノディグリーが取得できるオンライン講座がアメリカ発のMOOC。いまや世界中の大学が参加し、国の垣根をこえて様々な授業をインターネットで受けられる世界の教育プラットフォームです。有料の授業もありますし、無料で素晴らしい授業も多くあります。

ではこのMOOCs、そもそも一体どんな目的があって創られたのでしょうか。

それは、世界のどこかに隠れているかもしれない天才を発掘することなんです。

大学に行くだけのお金がなかったり、教育制度の整っていない国や地域に住んでいる人は、いまでも世界中にたくさんいます。その中に、突出した才能をもった人がいないとは限りません。MOOCを受講すれば、そのような逸材が授業を受けているかどうかをインターネットではキャッチすることができます。

さらには、本人とコンタクトをとり、奨学金を与えて大学や大学院に入学させたり、企業が雇ったりすることもできます。

教育や人材の発掘すらスピーディーに発展するアメリカとナノディグリー。しばらくは目が離せなくなりそうです。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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