【医学・看護学・薬学など】医療系留学のホントのところ

哲学から医学に進んでもOK

「健康」という言葉が大好きな日本人、留学でも医療関係の勉強をしたいと相談に来る人が結構います。

さて、アメリカでは、医学、獣医学、歯学などの勉強は全て大学院から始まります。大学ではこれらの分野を学べませんので、大学ではむしろ何を専攻してもかまいません。大学で音楽や哲学を専攻して、大学院で医学をめざす人もいるのです。

外国人留学生には敷居が高い? アメリカの医学部

四年制大学を卒業後、審査を経て大学院の医療系の課程に入学することになるのですが、実は、医学部(メディカルスクール)は、外国人学生を望みません。

なぜなら州立大学は州の税金によって運営されているため、州の住民のために役立つ人、私立大学はアメリカという国家に役に立つ人を養成するという考えが強く、卒業したら母国に帰ってしまう外国人留学生は役に立たないと思われているからです。

なので、アメリカ国籍や永住権をもっていないと、留学生に関心を示してくれません。当留学研究所の42年の歴史で、医学に進めた人はいないのです。

もちろん、アメリカには絶対ということはありませんので、私が見聞きしたことないだけで、中には医学に進めた方がいるかもしれません。ですが、すでに医学部がたくさんある日本から、何でわざわざアメリカへという印象を与えることは否めません。

免許をとっても働けるワケではない

また、もし仮に医師免許を取得したとしても、日本で医師として働くことはできません。難しい手続を経た上で受験勉強をして、日本の国家試験を受けなければなりません。

国家のライセンスとは、それを取得した国で働くためのライセンスです。なので、そもそも国籍や永住権をもたない人間が、その国家のライセンスをどのように活かすのかということが問題になります。

外国人が働くには、働くためのビザが必要で、国家ライセンスをもっているからといってビザが優先的に発行されるということはありません。

アメリカで他国の人間が働くために発給されるHというビザがありますが、ここ数年は申請者が多すぎて抽選になっています。私の研究所から留学した人の中でも、医師ではありませんが、就職先が決まっていて、わざわざ弁護士もつけて正式に申請を行ったのに抽選で落ちたということが、今年もいくつかありました。

したがって、アメリカで通用するライセンスを取っても、アメリカに残れるかどうかは運・不運もあるのです。

薬学と看護学の場合

獣医学や歯学であれば、医学ほど厳しくはありませんので留学生でも入学することができます。ほかに医療関係といえば、薬学や看護学がありますが、アメリカの薬学はちょっと変わっていて、六年制になっています。大学3年生から専門科目を取り始めて、2年間くらい勉強して、ライセンスを得る試験を受けます。

看護学は二年制・四年制・大学院修士・博士の課程があります。助産師さんの資格は修士課程です。この分野もちょっと変わったところがあって、たとえば、カリフォルニアの州立大学は、州内の人しか看護学の課程に入れてくれません。

また、多くの四年制大学は、1年生からは入学できません。大学に入学して2年経ったところで、州の看護師のための適性テストがあって、そのテストに合格しなければ、看護学を専攻できないのです。このテストがそれなりに大変で、突破するのにかなりの努力と能力が必要です。

そしてそれを乗り越えて看護師になったとしても、留学生の場合は必ずしもアメリカで看護師として働けるわけではありません。先ほど説明したビザの問題が残ります。

日本の将来を見据えて――新たな病院経営のありかたを学ぶ

このような問題が山積みのため、ライセンスが必要なものは、まず日本で取得してから大学院に留学するほうがいいでしょう。

そして、最後にぜひ皆さんに知ってもらいたいものがあります。医療関係の分野で、アメリカの大学院ならではのものがあります。Hospital Administrationという分野です。

これは大学院レベルでしか学べませんが、病院を経営する人のための専門課程です。

アメリカは、医師一人だけの小さなクリニックであれば、医師が経営してかまわないのですが、入院設備がある病院は医師が経営するのではなく、経営の専門家が事務長として仕事に就かなければならず、医師はあくまで医療に専念することになっています(日本は医師しか病院経営ができません)。

したがって大学院に病院経営に携わる専門家を養成するコースがあって、ここを卒業した人が病院経営を担います。

日本からもこういうコースに留学する人がいて、新しい病院のありかたを考えています。TPPで、医療のありかたも、アメリカや世界の標準で考えなければならない可能性があり、この分野も注目されるところです。

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著者情報:栄 陽子プロフィール

栄 陽子留学研究所所長
留学カウンセラー、国際教育評論家

1971年セントラルミシガン大学大学院の教育学修士課程を修了。帰国後、1972年に日本でアメリカ正規留学専門の留学カウンセリングを立ち上げ、東京、大阪、ボストンにオフィスを開設。これまでに4万人に留学カウンセリングを行い、留学指導では1万人以上の留学を成功させてきた。
近年は、「林先生が驚いた!世界の天才教育 林修のワールドエデュケーション」や「ABEMA 変わる報道番組#アベプラ」などにも出演。

『留学・アメリカ名門大学への道 』『留学・アメリカ大学への道』『留学・アメリカ高校への道』『留学・アメリカ大学院への道』(三修社)、『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?(ワニブックスPLUS新書)』、ベストセラー『留学で人生を棒に振る日本人』『子供を“バイリンガル”にしたければ、こう育てなさい!』 (扶桑社)など、網羅的なものから独自の切り口のものまで、留学・国際教育関係の著作は30冊以上。 » 栄陽子の著作物一覧(amazon)
平成5年には、米メリー・ボルドウィン大学理事就任。ティール大学より名誉博士号を授与される。教育分野での功績を称えられ、エンディコット大学栄誉賞、サリバン賞、メダル・オブ・メリット(米工ルマイラ大学)などを受賞。

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